真宗を中心とした浄土教の篤信者のこと。《観無量寿経》が念仏者を〈人中の分陀利華(ふんだりけ)〉とたとえたのを,唐の善導が《観経疏散善義》で注して,〈人中の好人,人中の妙好人,人中の上上人,人中の希有人,人中の最勝人〉と称したのに始まる。本来は念仏篤信者に対する褒賞語で,法然,親鸞,一遍などもその意に用いたが,江戸時代末に《妙好人伝》が板行されて以後,とくに真宗の在家念仏者の篤信家を指す語となった。そのほとんどは農民を中心とする庶民的な念仏者で,その生活がすべて念仏中心に展開するのを特色とする。まず,自己の存在を煩悩(ぼんのう)に拘束された罪障的人間と自覚し,ひたすら阿弥陀仏の衆生(しゆじよう)救済の本願に憑依する姿を示すが,これは親鸞が《歎異抄》等で説いた〈善人なをもて往生をとぐ,いはんや悪人をや〉という,いわゆる〈悪人正機〉(悪人こそ阿弥陀仏の救済の対象)の教えによっている。さらに,死後の極楽往生を念願しつつ,必ずしもそれを第一義とせず,弥陀の本願を信じることにより現生(現世)の生活に充足するが,これも親鸞の説く〈現生正定聚(げんしようしようじようじゆ)〉の教えによるものである。しかし江戸時代の妙好人には,一面で幕府や領主の治政に積極的に感謝し,年貢等を率先して納め,本山・門主をあがめ,親孝行や正直,仁慈で,しばしば領主から褒賞された者が多いし,また盗難,けが,悪戯等の災厄に遭っても前世の罪とあきらめ,かえって罪の一端を償ったものとして喜ぶような生き方をすることになる。それは,内面的には価値転換による充足感にあふれるが,外面的には体制順応的であり,消極的,忍従的な生活形態ともなる。この点で,妙好人はたんなる真宗の篤信者ではなく,時代が生んだ篤信者といえよう。以上の性格は,明治以後の妙好人とされる人たちにもおおむね踏襲されている。その信仰内容についての著述として鈴木大拙著《妙好人》等が著名である。
執筆者:柏原 祐泉
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優れた人の意。上上人(じょうじょうにん)、稀有人(けうにん)ともいわれる。『観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)』に、仏を念ずる者を「人中の分陀利華(ふんだりけ)(白蓮華(びゃくれんげ))」とあり、それを中国の善導(ぜんどう)が『観経疏(かんぎょうしょ)』で「人中の妙好人」と注した語による。この語がとくに浄土真宗の篤信者という特殊の意味をもつようになったのは、石見(いわみ)国(島根県)の浄土真宗浄泉(じょうせん)寺の仰誓(ごうせい)が1818年(文政1)編纂(へんさん)した真宗信者の『妙好人伝』以後である。それ以降、鈴木大拙(だいせつ)編著『妙好人浅原才市(あさはらさいいち)集』(春秋社)など幾多の妙好人伝が刊行され、今日も続行している。それらは、だいたい無名で学問のない人でありながら信心の境地では優れて高いところに達していた人の言行であり、その点で注目されている。
[松野純孝]
『柏原祐泉著『近世庶民仏教の研究』(1971・法蔵館)』
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…全6編に登場する人数は157名で,農民が41%,商人が16%を占め,すべて江戸時代の人たちである。妙好人とは,本来一般の念仏者を褒賞する語であったが,本書板行後は真宗篤信者の別称になった。いずれも真摯な他力念仏者で,みずからを煩悩(ぼんのう)深い悪人と自覚し,ひたすら阿弥陀仏の救済の本願を信じて現実生活に深い充足感をもつが,一面ではその時代の為政者や本山・門主等への順応,道徳生活の遵守,忍従生活の甘受もみられる。…
※「妙好人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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