サンスクリット名はMahāmayūrī-vidyā-rājñī。毒蛇を食うという孔雀を神格化したもので,孔雀王母菩薩,孔雀仏母などともよび,サンスクリット名を音訳して摩訶摩瑜利(まかまゆり)と書くこともある。一般にみられる形像は,一面四臂で孔雀の背に乗る。面相は明王にめずらしい慈悲相で,手に孔雀尾や蓮華をもつ。《仏母孔雀明王経》などは,毒蛇にかまれた比丘が孔雀明王陀羅尼(だらに)を誦して救われたように,この尊を念ずれば一切諸毒,怖畏,厄難を消除し,祈願円満を得ると説く。この所説に従い,孔雀明王を本尊として行う密教修法が孔雀経法である。日本における孔雀経法の歴史は古く,9世紀初めの《日本霊異記》は,役小角(えんのおづぬ)が孔雀の呪法を修したという伝承を記す。平安時代,空海が《孔雀経》の護国性を強調して以来,東密ではとくに重んじられ,孔雀経法は三箇秘法や四箇大法の一つに数えられた。10世紀には,請雨経法と並ぶ祈雨法として修されることが多かったが,11世紀に入ると,孔雀経法の幅広い現世利益が貴族社会で歓迎され,天変消除,除病延命,安産などの祈禱として盛行した。孔雀経法は東密各流はもとより台密でも修されたが,中でも仁和寺の性信がこの法をもっとも得意として活躍し名声を博したので,その流れをくむ東密広沢流は,後に〈孔雀経法は広沢の無双の大秘法なり〉と,他流に誇示するようになった。
執筆者:速水 侑 日本に現存する孔雀明王の遺品は平安時代後期の東京国立博物館所蔵の画像が最古の作例である。安楽寿院本,智積院本,松尾寺本の画像は,すべて正面向きだが,法隆寺所蔵の画像だけは斜左側を見せて描かれる。このほかに仁和寺には南宋時代の画像が伝えられ,金剛峯寺には快慶作の彫像がある。
執筆者:関口 正之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
明王の一つ。インド起源の孔雀仏母(ぶつも)像で、猛毒蛇を食い殺す孔雀を神格化したもの。サンスクリット語でマハーマユーリービドヤーラージニーMahāmayūrīvidyārājñīといい、摩訶摩瑜利(まかまゆり)と音訳する。「孔雀王」または「仏母大孔雀明王」ともいう。不空訳『仏母大孔雀明王経』によると、この明王の大陀羅尼(だらに)を誦(じゅ)すると、蛇毒をはじめ、いっさいの諸毒による怖畏(ふい)、災難を滅し、安楽を得ると説く。密教では孔雀明王を本尊として修する秘法を孔雀経法(きょうぼう)といい、四箇大法(しかだいほう)の一つにあげる。日本では奈良時代にすでに知られており、役小角(えんのおづぬ)も信仰していたと伝える。図像学上の特徴は、金色の孔雀に乗じ、白蓮華(びゃくれんげ)(または青緑色)上に結跏趺坐(けっかふざ)する四臂(よんぴ)像である。平安時代以降に信仰された作例として、金剛峯寺(こんごうぶじ)に蔵する快慶作の彫像、仁和寺(にんなじ)および智積院(ちしゃくいん)の画像が知られる。
[真鍋俊照]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…【柿沢 亮三】
[インド文化におけるクジャク]
インドでは蛇の毒のために多くの人々が被害を受けるため,蛇の天敵であるクジャクが神聖視され,ヒンドゥー教において女性神〈マハー・マユーリーMahāmayūrī〉として神格化された。これが仏教にとり入れられて〈孔雀明王〉となり,蛇毒をはらうだけでなく,あらゆる病災を除き,天変地異を鎮めるとされて,これを本尊とする修法が行われた。日本にも密教とともに伝来し,《日本霊異記》に〈孔雀王の呪法〉の記述が見られる。…
※「孔雀明王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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