安楽死(読み)アンラクシ

デジタル大辞泉 「安楽死」の意味・読み・例文・類語

あんらく‐し【安楽死】

回復の見込みがなく苦痛の激しい病人が、本人の意志のもと、延命を拒んだり死期を早める処置を受けたりして死ぬこと。また、その死。ユータナジーオイタナジー。→積極的安楽死消極的安楽死
[類語]尊厳死

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共同通信ニュース用語解説 「安楽死」の解説

安楽死

回復の見込みがなく、苦痛の強い末期などの患者を人為的に死に導く行為。薬物投与などによる「積極的安楽死」と、生命維持装置を外すなど延命治療を中止する「消極的安楽死」がある。患者の意思に基づく消極的安楽死を「尊厳死」と呼ぶこともある。横浜地裁は1995年の判決で、医師による安楽死が許容される要件として/(1)/耐え難い肉体的苦痛がある/(2)/死期が迫っている/(3)/苦痛緩和の方法を尽くし、他に手段がない/(4)/本人の意思表示がある―の4項目を示した。

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精選版 日本国語大辞典 「安楽死」の意味・読み・例文・類語

あんらく‐し【安楽死】

  1. 〘 名詞 〙 助かる見込みのない病人や怪我人を、薬物を投与したり、施療を断ったりして、楽に死なせること。また、その死。尊厳死。
    1. [初出の実例]「『安楽死』の事件がいま法廷で問題にされている」(出典:第2ブラリひょうたん(1950)〈高田保〉権威)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安楽死」の意味・わかりやすい解説

安楽死
あんらくし

安死術またはオイタナジーEuthanasie(ドイツ語)ともいう。この語源はギリシア語のエウタナーシャeuthanasia(「良き死」または「楽な死」の意)にある。安楽死とは、死期の切迫した不治の傷病者を死苦から解放するために死なせることをいう。安楽死には、傷病者の自然の死期を早める場合(積極的安楽死)と、これを早めない場合(消極的安楽死)とがあり、このうち人の生命の短縮を伴う積極的安楽死については、宗教、哲学、文学、医学、法学などさまざまな分野でしばしば論じられてきた。たとえば文学作品では、トマス・モアの『ユートピア』、R・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』、D・H・ローレンスの『息子と恋人』をはじめ、日本でも森鴎外(おうがい)の『高瀬舟』が安楽死のテーマを扱っている。

[名和鐵郎]

安楽死是非論の変遷

歴史的にみると、ヨーロッパでは、安楽死の是非は自殺の問題と同様に、キリスト教との密接なかかわりをもっている。中世キリスト教社会では、生命は神のたまものであり、自殺であれ、安楽死であれ、人間が人の生命を奪うことは神の意思に反するという考え方(これは聖アウグスティヌスに始まり、トマス・アクィナスにより集大成された)を前提として、安楽死も殺人の一種として処罰の対象とされた。ルネサンス時代になると、個人の自由を尊重する思想がおこり、前記トマス・モアはカトリック教徒ではあるが、1516年の『ユートピア』において、ユートピア、すなわち非キリスト教社会では、本人の意思による安楽死(任意的安楽死)も是認されうることをアイロニックに述べている。フランシスベーコンは『ノウム・オルガヌム』(1620)において、ユーサナジアeuthanasiaということばを用いて安楽死肯定論を展開している。このような一連の安楽死肯定論にもかかわらず、やはり自殺や安楽死を罪悪視する考え方が支配しており、とくにキリスト教的倫理観の根強い国々では、安楽死を殺人の一種とするとともに、自殺をも厳しく処罰する立法が広くみられた。

 これに対して、近代になると、法と宗教の分離が強く叫ばれ、たとえば近代啓蒙(けいもう)思想の流れをくみ、「近代刑法学の始祖」とも称されているC・B・ベッカリーアは『犯罪と刑罰』(1764)のなかで、自殺は神のみが裁きうるとして、自殺を処罰することに強く反対した。ここにみられるような近代的合理主義人道主義の台頭のもとに、また近代医学の発達が契機となって、18世紀末には死苦から解放するための積極的安楽死を是認しようとする考え方がおこってきた。20世紀に入ると、安楽死合法化を求める動きが広がり、1930年代には、イギリスやアメリカで「安楽死協会」が相次いで発足し、安楽死合法化法の制定を要求する運動が活発に展開されるに至った。ところが、ナチス・ドイツにおいて、「国民の敵」「劣等者」とされた数百万にのぼる人々(ユダヤ人、同性愛者、精神障害者など)が「安楽死」の名のもとに虐殺されるという不幸な事態が発生した。このような苦い経験を経て、第二次世界大戦後は、安楽死を安易に肯定しようとする考え方は深刻な反省を迫られ、安楽死肯定論者も、ナチスによる大量虐殺に道を開いた「強制的安楽死」を否認し、安楽死も本人の意思に合致する場合(任意的安楽死)だけに限定すべきことを主張することとなった。2014年時点で、国家の法律で安楽死を認めているのはスイス(1942年)、オランダ(2001年)、ベルギー(2002年)、ルクセンブルク(2008年)で、いずれも本人の自発的な意思が容認条件にあげられている。なお、オランダとベルギーでは一定の要件を満たしたうえでの子供の安楽死も認めている。

[名和鐵郎]

安楽死と刑事責任

1907年(明治40)に制定された現行刑法は、殺人の罪について、被害者の意思に反するか否かを区別して、殺人罪(199条)のほか自殺関与及び同意殺人罪(202条)を規定している(なお、自殺は不可罰)。したがって、強制的安楽死は被害者の意思に反する場合であるから、殺人罪に該当しうることは疑問の余地がない。これに対して、任意的安楽死は被害者の意思に反しない場合であるから、202条の罪が成立するか否かが問題となる。かつては任意的安楽死であっても人命を短縮する以上202条として処罰すべきであるとする見解があったが、今日では、202条には該当するが一定の要件をみたせば違法または責任が阻却され、犯罪とはならないと解されている。

 ところで、安楽死として違法阻却となるための一般的要件を示したリーディング・ケースとして、1962年(昭和37)の名古屋高裁判決がある。これによれば、安楽死として違法阻却となるためには、(1)不治の病であり、死が目前に迫っていること、(2)苦痛が甚だしく、何人(なんぴと)も見るに忍びないこと、(3)死苦緩和の目的があること、(4)意思表明ができる場合には、患者からの真摯(しんし)な嘱託または承諾があること、(5)医師の手によるか、医師によりえない特別の事情があること、(6)方法が倫理的に容認しうることの6要件をみたす必要がある(なお、本件には違法阻却が認められなかった)。これ以降の安楽死に関する判決は、行為者と被害者が近親関係にある場合がほとんどであるが、医師の行為が裁かれたケースとしていわゆる東海大学安楽死事件に関する1995年(平成7)3月の横浜地裁判決がある。この判決では、医師による安楽死の要件として「苦痛の除去・緩和のためほかに医療上の代替手段がない」ことを要求するが、本件については肉体的苦痛および患者の意思表示がいずれも認められないとして有罪とした。このように日本の判例には、安楽死として無罪としたケースは存在しない。

[名和鐵郎]

安楽死と医療

リーディング・ケースである1962年の名古屋高裁判決に関連して、安楽死について医療現場では次のような点がとくに問題となる。(1)生命の短縮を伴わなければ、医療行為として適法である。(2)死期に影響するとしても、患者の死苦を長引かせないため延命措置をとらない場合(消極的安楽死)や鎮痛剤などの使用による副作用として結果的に生命が短縮される場合(間接的安楽死)でも、患者の承諾があれば適法となろう。(3)「安楽死から尊厳死へ」といわれるように、今日におけるペイン・クリニックの発達によって、モルヒネなどの鎮痛剤を使用すればほとんどの死苦が解消されうるし、植物状態の患者は肉体的苦痛は存在しないから、医療現場では安楽死より尊厳死がより重要である。(4)患者自身の明示的な意思に基づくことを要するから、患者の推定的承諾で足りるとする見解もあるが妥当ではない。(5)安楽死は濫用の危険が大きいから、特別の事情がないかぎり医師の手によるべきである。したがって、医師以外の者は医師に依頼して安楽死をしてもらうことが要求されるが、再三の懇願にもかかわらず医師が安楽死を拒否したため、看護をしていた夫が末期癌(がん)の妻を包丁で刺殺したという事案について、1977年の大阪地裁判決は、医師によりえない特別の事情には当たらないとした。(6)末期患者には、死苦とはいえないとしても、さまざまな肉体的苦痛や精神的苦悩を伴うのが一般的であるから、このような末期患者の希望によって、温かく看護し、安らかな臨終に導くためのホスピス緩和ケア病棟を普及するとともに、これを保障するための医療制度を確立することが急務であろう。

[名和鐵郎]

『阿南成一著『安楽死』(1977・弘文堂)』『宮川俊行著『安楽死の論理と倫理』(1979・東京大学出版会)』『中山研一・石原明編著『資料に見る尊厳死問題』(1993・日本評論社)』『NHK人体プロジェクト編著『安楽死――生と死をみつめる』(1996・日本放送出版協会)』『町野朔他編著『安楽死・尊厳死・末期医療』(1997・信山社)』『中山研一著『安楽死と尊厳死』(2000・成文堂)』『立山龍彦著『自己決定権と死ぬ権利 新版』(2002・東海大学出版会)』『三井美奈著『安楽死のできる国』(新潮新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「安楽死」の意味・わかりやすい解説

安楽死 (あんらくし)
euthanasia

病者を苦痛から解放して安楽に死なせること。上記の英語は,〈良き死〉を意味するラテン語に由来する。安楽死は,いくつかの類型に分けられる。(1)純粋の安楽死 死苦の緩和を目的としてモルヒネの投与が行われ,しかもそれが病者の生命の短縮を伴わないというような場合。(2)間接的安楽死 そのような措置が不可避的に病者の死期を若干早めるような場合。(3)不作為による安楽死 積極的な医療措置を講じても病者の死期をわずかしか延長できず,しかも,それによっていたずらに彼に苦痛を生じさせるにすぎないときに,その措置を行わない場合。(4)積極的安楽死 病者の生命を積極的に絶つことにより彼を死苦から解放する場合。本来の安楽死,ないし狭義の安楽死ともいう。

安楽死の四つの概念のうち,純粋の安楽死は,病者の生命を短縮することがないので,刑法上,問題は生じない。これに反して,実施方法が病者の死期を早めるときは,刑法上の殺人罪(刑法199条)ないし嘱託殺人罪(202条)の要件にいちおうあたることになる。この場合に,どのような条件のもとに安楽死が罪とならないかが問題となるのである。間接的安楽死および不作為による安楽死については,一般的見解としては合法的な行為とされている。ただし,病者が,間接的安楽死の場合に死期を早める医療措置を拒絶する意思を,不作為による安楽死の場合に医療の継続を希望する意思を,それぞれ表示したときは,それを無視してこのような行為に出ることは許されないという,患者の意思を重視する見解もある。

 最も問題とされるのは積極的安楽死であるが,学説のなかには,合理主義あるいは人道主義を根拠として,これを肯定する見解が有力であった。日本の裁判所は,これまでのところ,具体的な行為を合法な安楽死であるとする主張を受け入れたことは一度もなく,いずれも,殺人罪,あるいは嘱託殺人罪として有罪にしているが,合法な安楽死が存在する場合を否定してもいない。そのなかでも学説の影響を受けて,一般論として次のような6要件のもとでは安楽死は合法であるとした判例が有名である(名古屋高裁1962年12月22日判決)。(1)病者が現代医学の知識と技術からみて不治の病におかされ,その死が目前に迫っていること,(2)病者の苦痛が見るに忍びないほど甚だしいこと,(3)行為が病者の死苦の緩和を目的としていること,(4)病者に意思表示能力がある場合には,その真摯(しんし)な嘱託・承諾があること,(5)原則として医師がそれを行うこと,(6)方法が倫理的にも妥当であること,という6要件のすべてが満たされれば,安楽死は合法であるとするものである。(4)の要件からもわかるように,このような見解によると安楽死に対する病者の同意は必ずしも必要ではない。これは,この判例が,行為者の人道主義的動機に安楽死の許容される根拠をみているためである。この判例は長期にわたって日本の実務を支配した。もっとも,安楽死として行為が合法となるかが問題となった事案について,裁判所は,いずれも(5)(6)の要件が欠けるとして,具体的な行為の合法性を認めない。しかし,実刑に処せられた例もまだない。

 これに対して,患者の意思あるいは権利を重視する学説は,このような人道主義,合理主義という病者と無関係な理由によってその殺害を許容するのは妥当ではなく,むしろ,安楽死の合法性の根拠は,その行為が,苦痛に満ちた短い生命よりは安らかな死を選ぶという病者の自律的な意思にもとづいているところに認められるべきだと主張した。この見解によれば,死を希望する意思を表明できない意識不明の病者に対する安楽死は合法ではありえないことになる。大学病院の医師が,多発性骨髄腫で末期状態になり意識不明におちいった患者の家族の要求に応じて,死に至らしめたという〈東海大学安楽死事件〉において,裁判所はこの見解を受け入れ,患者の現実的意思にもとづかない積極的安楽死は違法だとした(横浜地裁1995年3月28日判決)。これによると積極的安楽死が合法となるためには,(1)患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること,(2)患者は死が避けられず,その死期が迫っていること,(3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと,(4)生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示のあること,の4要件が必要である。現在のところ,これが実務を支配しそうな様子である。

 以上の諸見解に対して,安楽死としてではあれ,殺人行為の合法性を認めることは,人間の生命の絶対的保護という法の建前に反するという,安楽死違法論も有力である。これによると,積極的安楽死はつねに違法であるが,そのような行為に出た者を非難することができないと認められる場合には,その刑事責任が例外的に否定されることはありうる。

安楽死の目的が病者を苦痛から解放するところにあるのに対して,病者に人間としての尊厳を保持させることを目的とするのが尊厳死death with dignityあるいは自然死natural deathである。これは,回復の見込みのない病者に無益な延命措置を継続することをやめ,自然な死を迎えさせる行為であり,延命のための積極的な医療をほどこさないという点では,前述の不作為による安楽死と類似した概念である。しかし尊厳死は,人工呼吸器のスイッチを切るなどの作為によって行われることもある。かような病者は意識不明であり延命措置中断の可否について意思を表明する能力がなく,また,肉体的苦痛を感じていないことが通常であり,さらには延命措置を継続すれば相当長期にわたって生命を保持する例もあるなどの点で,不作為による安楽死はもとより,他の安楽死の類型とも異なっている。近時の医療技術の進歩は,以前には絶望的であった重症患者の生命を救うことを可能にしたが,同時に,終局的な回復が望めないまま延命措置を講じられているだけの病者を多く生じさせることになった。遷延性植物状態患者はその典型的な例である。積極的安楽死に反対する論者にも,尊厳死・自然死を肯定するものが多い。アメリカでは,植物状態にある患者には,憲法上の〈プライバシーの権利〉に由来する延命措置拒絶権があるとしたクインラン判決(いわゆるカレン事件,1976)以来,このような尊厳死を認める判例が多く出ている。前述の〈東海大学安楽死事件〉判決も,患者の推定的意思にもとづく〈延命医療の中止〉は合法であると述べている。また,意思能力のある状態で作成された,自分が末期状態になったときは人為的な延命措置を中断することを求める旨の指示書(リビング・ウィルliving willと呼ばれる)に法的な効力を与える〈自然死法〉ないし類似の名の法律も,40州以上で成立している。日本でも尊厳死協会は早くからこのような趣旨の〈末期医療の特別措置法〉を提案している。しかし意識のない病者は,その治療拒絶権を行使する現実的な意思を有していない。また,健康時の意思の表明は,たとえば植物状態のときの意思であるということもできない。したがって,ここでは,延命措置の中断がそのような病者の真の利益に合致するかを他人が判断することが必要となるが,だれにその判断権を認めるべきかについては,依然として問題がある。病者の家族の意思を無視して延命措置を中断することは許されないという見解もある。他方,中断を希望する家族の意思に従ったからといって行為は合法とはならない。さらに,病者の死期がどの程度さし迫っていることを要するか,いっさいの医療措置の打切りが許されるのか,あるいは人工心肺,鼻腔栄養,抗生物質投与などのうちのある範囲についてのみ中断が許されるのにとどまるか,など未解決の問題が多い。

重症精神障害者,重症奇形児などには〈慈悲心による死mercy killing〉を与えるべきだという〈生存無価値の生命の抹殺〉〈非任意の安楽死〉は,ナチス政権下のドイツで実行されたことがあるが,これが絶対に許されないことは,現在ではすべての人が認めるところである。医療措置を中断して人間らしい死を与えるという尊厳死・自然死の主張は,あくまでも,病者の意思に沿った彼の利益を擁護しようとするものであり,生きるに値しない生命の抹殺とは異質なものである。しかし,死を希望する病者の意思がない場合にも,尊厳死・自然死を肯定するのであるから,病者の利益の認定が恣意的になされると,事実上,生きるに値しない生命を〈やっかい払い〉することにもなりかねない。遷延性植物状態患者などについては,社会保障的措置を充実させることによって,十分な医療を確保することが先決であると主張されるゆえんである。

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百科事典マイペディア 「安楽死」の意味・わかりやすい解説

安楽死【あんらくし】

死期の近い患者を身体的・精神的苦痛から救うために死に至らしめること。治療を中止する消極的安楽死と,薬物を投与する積極的安楽死がある。積極的安楽死は法律上問題となる。医師以外のものが行うこと,方法が苦痛軽減以外(毒物使用など)のものであることは許されない。死期切迫が確実で,苦痛がはなはだしく,本人の希望があり,医師の方法が適切であれば,多少死期が早められたとしても,安楽死は許されるとした判例がある。ただし,延命治療の停止による尊厳死と比べて,安楽死への容認派はまだ少ない。1998年に厚生省の〈末期医療に関する意識調査等検討会〉が行った調査によれば,積極的な安楽死を選ぶとした人は,医療従事者ではほとんどおらず,一般でも13%にとどまった。海外では1994年にオランダで先駆的に〈安楽死容認法〉が施行された。同1994年にはアメリカ・オレゴン州でも末期患者に対する医師の自殺幇助(ほうじょ)を認める〈安楽死法〉が成立した。
→関連項目ケストラー殺人罪慈悲殺嘱託殺人罪植物状態

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安楽死」の意味・わかりやすい解説

安楽死
あんらくし

オイタナジー Euthanasiaの訳語。古くから用いられて来たことばであり,多様な意味をもつ。(1) 積極的安楽死,(2) 間接的安楽死,(3) 消極的安楽死,の三つに分類されることもあり,(1)は苦痛を除く手段がない患者の命を薬剤投与などで意図的・積極的に縮める行為,(2)は苦痛緩和療法で麻薬などを与えた結果として死期を早める行為,(3)は苦痛を長引かせないよう医療行為を控えたり延命治療を中止したりして死期を早める行為,とされている。(3)は尊厳死と同義とする見解もある。国内外で社会的に問題となるのは,ほとんどが (1)の事例である。自殺幇助(→自殺関与罪)あるいは殺人(→殺人罪)との区別が難しい。自殺幇助を許容しているスイスなど (1)を違法としない国もあるが,日本国内で適法とされた例はなく,安楽死事件として取り上げられる場合が多い。1962年に名古屋高等裁判所(山内判決)が,1995年に横浜地方裁判所(東海大学安楽死判決)が (1)を適法とする要件を示した。よく引用されるのは後者で,要件として (a) 耐えがたい肉体的苦痛の存在,(b) 死期の切迫,(c) 患者の明確な意思表示の存在,(d) 苦痛除去・緩和の手段がない,の四つがあげられる。ただし,患者の苦痛を除去・緩和する技術の向上によって,これらの要件はすでに役割を終えたとの指摘もある。(→

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知恵蔵 「安楽死」の解説

安楽死

尊厳死」のページをご覧ください。

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栄養・生化学辞典 「安楽死」の解説

安楽死

 苦痛をともなわない死,もしくはそのような死をもたらす手段をいうが,近年は,回復の見込みのない患者が,苦しまないで死に至るように配慮することで,苦痛をともなう積極的な延命治療をしないこと,また,たとえ死を早める危険性があっても,病気による苦痛を大幅に減らせる処置をすること,などがこれにあたる.薬剤投与などによる積極的安楽死と,延命治療を行わないといった消極的な安楽死が区別されるようになっている.法的,倫理的に大きな問題となっている.

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世界大百科事典(旧版)内の安楽死の言及

【殺人罪】より

…無理心中,偽装心中,親子心中等による場合は,もちろん通常の殺人罪である。嘱託・承諾殺人罪との関連で近時問題となっているのが,いわゆる安楽死である。現在の判例理論上不可罰とされる安楽死の要件は相当厳しく,嘱託・承諾殺人罪ないし通常の殺人罪の成立さえ認められることもままある。…

※「安楽死」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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