病気や事故で回復の見込みがなく死期が近づいている人が、本人の意思に基づき、人工呼吸器などによる死期を延ばすためだけの延命措置を受けないで、自然に死を迎えること。法律の規定はないが、憲法が保障する幸福追求権の一部である自己決定権に含まれるとされる。欧米では法制化されている国もある。東海大安楽死事件の横浜地裁判決(1995年)は、患者や家族の意思などを延命治療中止の要件に挙げた。医師が薬物を投与して患者の死期を積極的に早める「安楽死」とは異なる。
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「必要以上の延命治療を受けず、人間らしい最後を全うしよう」という考え方にたって、回復の見込みのない時点での人工呼吸装置など機械的な延命工作を、あくまでも本人の意志に基づいて辞退、結果的に死を選ぶことをいう。こうした考え方が生まれた背景には、驚異的に発達した現在の医療技術がある。かつてなら死亡していたはずの重症患者が、機械によってただ生かされているに過ぎないという状態もしばしば出現するようになった。
日本では1976年(昭和51)から日本尊厳死協会(当時の名称は日本安楽死協会。本部は東京都文京区)が、市民運動的な活動を続けてきた。「死期を人工的に引き延ばすための措置の拒否」「植物状態での生命維持措置を拒否」「苦痛を和らげるための麻薬使用などは認める」などを唱えている。ただしこうした措置を医療側にとらせるためには、それが間違いなく本人の意志だと知らしめるものが必要になる。そこで考え出されたのが「リビング・ウィル」である。「生前発効の遺言」とでも訳すべきもので、患者本人の意志、判断力が正常なときに、尊厳死を望むことを本人の直筆で署名を添えて同協会へ登録しておくのである。2003年(平成15)時点の登録者は10万3150人。アメリカではほとんどの州でリビング・ウィルを法制化している。
[高三啓輔]
尊厳死と似たような考え方に、安楽死がある。尊厳死も大きな意味では安楽死のなかの一つだとされるが、日本で安楽死にからんで裁判に持ち込まれた例の一つに、1991年、東海大学医学部付属病院で「家族の要請を受けた」とする医師が末期患者に塩化カリウムを注射して死亡させた事件がある。この裁判で、横浜地裁は95年3月、殺人罪に問われた医師に対して懲役2年執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。その際「医師による延命中止の要件」として積極的安楽死が許されるための四つの要件を示し、死期が迫った患者の自己決定権を重視する立場から、法の場ではじめて、「死の迎え方を選ぶ権利」を認めた。
オランダでは2001年4月に国家として世界で初めて安楽死を容認する法案が成立した。翌02年5月にはベルギーでも成立している。
[高三啓輔]
『星野一正著『わたしの生命はだれのもの』(1996・大蔵省印刷局)』▽『ヘルガ・クーゼ編、吉田純子訳『尊厳死を選んだ人びと』(1996・講談社)』▽『中山研一著『安楽死と尊厳死』(2000・成文堂)』▽『市野川容孝編『生命倫理とは何か』(2002・平凡社)』▽『立山龍彦著『自己決定権と死ぬ権利 新版』(2002・東海大学出版会)』▽『福本博文著『リビング・ウィルと尊厳死』(集英社新書)』
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(2014-11-6)
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(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)
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…これによると,積極的安楽死はつねに違法であるが,そのような行為に出た者を非難することができないと認められる場合には,その刑事責任が例外的に否定されることはありうる。
[尊厳死]
安楽死の目的が病者を苦痛から解放するところにあるのに対して,病者に人間としての尊厳を保持させることを目的とするのが尊厳死death with dignityあるいは自然死natural deathである。これは,回復の見込みのない病者に無益な延命措置を継続することをやめ,自然な死を迎えさせる行為であり,延命のための積極的な医療をほどこさないという点では,前述の不作為による安楽死と類似した概念である。…
※「尊厳死」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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