尊厳死(読み)ソンゲンシ

デジタル大辞泉 「尊厳死」の意味・読み・例文・類語

そんげん‐し【尊厳死】

人間としての尊厳を保ったままで命をまっとうすること。回復見込みのない状態や苦痛のひどい状態の際に生命維持装置を無制限に使わないなどの対応がなされる。
[類語]安楽死

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共同通信ニュース用語解説 「尊厳死」の解説

尊厳死

病気や事故で回復の見込みがなく死期が近づいている人が、本人の意思に基づき、人工呼吸器などによる死期を延ばすためだけの延命措置を受けないで、自然に死を迎えること。法律の規定はないが、憲法が保障する幸福追求権の一部である自己決定権に含まれるとされる。欧米では法制化されている国もある。東海大安楽死事件の横浜地裁判決(1995年)は、患者や家族の意思などを延命治療中止の要件に挙げた。医師が薬物を投与して患者の死期を積極的に早める「安楽死」とは異なる。

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精選版 日本国語大辞典 「尊厳死」の意味・読み・例文・類語

そんげん‐し【尊厳死】

  1. 〘 名詞 〙 人間としての尊厳を保った状態での死。不治の患者が安らかに死ぬことを本人あるいは周囲のものが適当だと承認した場合、延命医療を中止する行為を正当なものとして認めようという主張から生まれたことば。人間には尊厳のある死を迎える権利があるという考え方に基づく。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「尊厳死」の意味・わかりやすい解説

尊厳死
そんげんし

「必要以上の延命治療を受けず、人間らしい最後を全うしよう」という考え方にたって、回復の見込みのない時点での人工呼吸装置など機械的な延命工作を、あくまでも本人の意志に基づいて辞退、結果的に死を選ぶことをいう。こうした考え方が生まれた背景には、驚異的に発達した現在の医療技術がある。かつてなら死亡していたはずの重症患者が、機械によってただ生かされているに過ぎないという状態もしばしば出現するようになった。

 日本では1976年(昭和51)から日本尊厳死協会(当時の名称は日本安楽死協会。本部は東京都文京区)が、市民運動的な活動を続けてきた。「死期を人工的に引き延ばすための措置の拒否」「植物状態での生命維持措置を拒否」「苦痛を和らげるための麻薬使用などは認める」などを唱えている。ただしこうした措置を医療側にとらせるためには、それが間違いなく本人の意志だと知らしめるものが必要になる。そこで考え出されたのが「リビング・ウィル」である。「生前発効の遺言」とでも訳すべきもので、患者本人の意志、判断力が正常なときに、尊厳死を望むことを本人の直筆で署名を添えて同協会へ登録しておくのである。2003年(平成15)時点の登録者は10万3150人。アメリカではほとんどの州でリビング・ウィルを法制化している。

[高三啓輔]

安楽死の条件

尊厳死と似たような考え方に、安楽死がある。尊厳死も大きな意味では安楽死のなかの一つだとされるが、日本で安楽死にからんで裁判に持ち込まれた例の一つに、1991年、東海大学医学部付属病院で「家族の要請を受けた」とする医師が末期患者に塩化カリウムを注射して死亡させた事件がある。この裁判で、横浜地裁は95年3月、殺人罪に問われた医師に対して懲役2年執行猶予2年の有罪判決を言い渡した。その際「医師による延命中止の要件」として積極的安楽死が許されるための四つの要件を示し、死期が迫った患者の自己決定権を重視する立場から、法の場ではじめて、「死の迎え方を選ぶ権利」を認めた。

 オランダでは2001年4月に国家として世界で初めて安楽死を容認する法案が成立した。翌02年5月にはベルギーでも成立している。

[高三啓輔]

『星野一正著『わたしの生命はだれのもの』(1996・大蔵省印刷局)』『ヘルガ・クーゼ編、吉田純子訳『尊厳死を選んだ人びと』(1996・講談社)』『中山研一著『安楽死と尊厳死』(2000・成文堂)』『市野川容孝編『生命倫理とは何か』(2002・平凡社)』『立山龍彦著『自己決定権と死ぬ権利 新版』(2002・東海大学出版会)』『福本博文著『リビング・ウィルと尊厳死』(集英社新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尊厳死」の意味・わかりやすい解説

尊厳死
そんげんし
death with dignity

過剰な医療を避け,尊厳をもって迎える自然な死。医療技術の進歩により重症患者でも呼吸や栄養補給,痛みを管理できるようになり,疾病によっては死にいたる過程を人工的に引き延ばすことができるようになったことをうけて議論されるようになった。安楽死,特に延命治療を中止する消極的安楽死と同一視されることも多いが,尊厳死は,最後が自然の死であり,患者が最善の医療を選択して残りの人生をよりよく生きることまで含む,という意味で,はるかに広い概念ととらえられている。1970年代にアメリカ合衆国で議論されるようになり,カリフォルニア州で 1976年に自然死法 Natural Death Actとして世界で初めて法制化され,各国論議が広がったが,患者の権利をどこまで認めるか,国や地域ごとに考え方は異なる。尊厳死の権利を担保するため,病気でみずからの選択を伝えられなくなったときに備え,延命治療についての要望を意思表示した書面を残しておくリビングウイル Living Willやレット・ミー・ディサイド Let Me Decideを呼びかける国や地域,団体もある。日本では尊厳死に関する法律はないが,厚生労働省が 2007年の「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」で医師が延命治療を中止する際の手続きを示した。ただし医師の刑事責任が免除されるものではない。(→ターミナルケア

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知恵蔵mini 「尊厳死」の解説

尊厳死

患った病気が不治かつ末期と考えられる場合に、人間としての尊厳をもって、過剰な医療を避け自分で死を選ぶこと、及びそのようにして達成された死のこと。延命措置を行わない意志を示し自然に死を迎えるものと、致死性の薬物を摂取し自ら死ぬものとがある。多くの場合、尊厳死を実行する条件(「意識不明になった時」「判断能力が著しく欠ける状態になった時」など)を、あらかじめ文書などで自ら示しておき、その条件に至った場合に死に至るための処置が医師などにより行われるが、家族の求めにより行われる場合や、本人が明確な意志を保ちつつ自ら死ぬ場合もある。1976年、永続的植物状態となったカレン・クィンランに対し米国の裁判所が「尊厳をもって死ぬ権利」を容認し、以後、スイス・オランダ・米国のオレゴン州・ワシントン州などで尊厳死・安楽死が認められるようになった。日本では76年に安楽死協会が設立され、2010年に一般社団法人日本尊厳死協会となり啓発に努めている。14年11月1日には、末期の脳腫瘍を患った米国の女性が尊厳死を選択しオレゴン州に移住、自宅で医師から処方された薬を飲んで死去した。

(2014-11-6)

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百科事典マイペディア 「尊厳死」の意味・わかりやすい解説

尊厳死【そんげんし】

本人が事前に自らの意志で単なる延命のための治療を拒否すること。医師が介入して薬などで人為的に死を迎えさせる積極的安楽死とは異なるものと考えられている。日本では積極的安楽死に対しては否定的な医師が多いが,米国では積極的安楽死や自殺を含めた死ぬ権利を認めるべきだという主張も出ている。尊厳死については医療関係者だけでなく,一般にも肯定する意見が増えている。1992年3月,日本医師会は尊厳死を容認すると発表した。
→関連項目クオリティ・オブ・ライフリビングウィル

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知恵蔵 「尊厳死」の解説

尊厳死

尊厳死は過剰な延命措置をせず、人間の尊厳を保ちながら命を終えること。日本尊厳死協会では、意識喪失後も、人工呼吸器などでの強制的延命を拒否する、生前の意思表示(リビングウィル)を登録、尊厳死法の制定を求める運動をしている。一方、安楽死は患者の求めで、消極的には医師が必要な治療を控え、積極的には薬で死なせたりする行為である。オランダなど一部の国、地域では認められている。日本では1995年に横浜地裁が、回復不能で本人の意思が強く、痛み治療もできないなどの条件で安楽死が認められるとしたが、神奈川、京都、北海道、富山など各地でその条件以前の安楽死事件が起きている。

(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)

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世界大百科事典(旧版)内の尊厳死の言及

【安楽死】より

…これによると,積極的安楽死はつねに違法であるが,そのような行為に出た者を非難することができないと認められる場合には,その刑事責任が例外的に否定されることはありうる。
[尊厳死]
 安楽死の目的が病者を苦痛から解放するところにあるのに対して,病者に人間としての尊厳を保持させることを目的とするのが尊厳死death with dignityあるいは自然死natural deathである。これは,回復の見込みのない病者に無益な延命措置を継続することをやめ,自然な死を迎えさせる行為であり,延命のための積極的な医療をほどこさないという点では,前述の不作為による安楽死と類似した概念である。…

※「尊厳死」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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