植物状態(読み)しょくぶつじょうたい

  • vegetative state
  • しょくぶつじょうたい ‥ジャウタイ
  • しょくぶつじょうたい〔ジヤウタイ〕

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

脳外傷や脳血管性病変,脳腫瘍などによって重い障害を起こしたのち,呼吸循環などの機能だけを残して生存し続ける状態。遷延性意識障害ともいう。1972年にブライアン・ジェネットとフレッド・プラムが,医学誌『ランセット』誌上で初めて報告した。自律神経系は比較的正常に機能しているのに,動物としての運動や感覚系の障害のみならず,精神活動が欠如している。このような生存は,呼吸や循環を人為的,機械的に維持させるための装置処置などが進歩した近代になって,初めて可能となった。日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会は,植物状態を (1) 自分では動けない,(2) 食物の自己摂取ができない,(3) 糞尿失禁状態がある,(4) 目で物を追うが認識できない,(5) 簡単な命令に応ずることはあるが,それ以上の意思疎通ができない,(6) 意味のあることばは話せない,などの状態が 3ヵ月以上続く状態と定義している。脳死との違いは,植物状態では自発呼吸があるが,脳死ではそれがないことである。

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知恵蔵の解説

思考や運動を司る大脳皮質の働きは失われるが、呼吸、循環など生命維持に必要な脳幹部が機能している状態。正しくは遷延性意識障害。脳外傷、脳卒中などで、年間7000人も発生。日本脳神経外科学会は、自力では動けず、食べられず、意味のある言葉をしゃべれない、意思の疎通ができないなどの状態が3カ月以上続く場合と定義している。平均3年程度の余命だが10年以上生きる患者も少なくない。電気信号器で脊髄や脳に刺激を与える治療法で回復する例もあり、注目される。

(田辺功 朝日新聞記者 / 2007年)

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百科事典マイペディアの解説

植物性(自律)神経系に支配される植物性機能,すなわち呼吸,循環,消化などは正常なのに,運動,感覚が麻痺(まひ)し,意識を失って回復の見込みが全くない状態が3ヵ月以上続く場合と定義される。主に重症頭部外傷後や脳卒中などによって起こる。1975年両親が安楽死を求めて21歳の娘の治療中止を訴えた〈カレン裁判〉で,判決は回復が困難でも治療は継続すべきであるとしたが,翌1976年ニュージャージー州最高裁判所は生命維持装置のとりはずしを許可する判決を下した。以前は植物人間といわれたが,人権尊重の立場からこの語が用いられるようになった。
→関連項目クオリティ・オブ・ライフ脳死脳低体温療法バイオエシックスリビングウィル

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

遷延性意識障害、持続的意識障害のこと。持続的植物状態persistent vesetative stateなどともいわれる。「persistent vesetative state」ということばは、1972年に反応が長期間みられない患者に対しての概念として使われ始めた。正常な生活をしていた人が、なんらかの脳損傷によって、自力で動くことができない、自力で食事をとることができない、尿失禁状態となる、目で目的物を追うが認識できない、簡単な命令(口を開けなど)にはやっと応ずるが、それ以上の意思の疎通はない、声は出るが意味のあることばはいえないなどの状態が、どのような治療によっても改善することがなく、3か月以上続く場合と定義されている。単に患者の状態だけをさして「植物人間」とよばれたこともあったが、これは正しい病状を表したことばではない。頭部外傷、脳血管障害に対する医療の進歩・発展につれて、前述の状態でも長く生存でき、生命の延長が可能なこととなった。しかし、人間としての意思、尊厳にかかわる問題として、あるいは家庭的、経済的に重大な負担を家族に与える点などの面から、医学的のみならず社会学的にも大きな問題を提示している。

[渡辺 裕]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 大脳の傷害によって、意識がなく随意運動は行なわないが、脳幹部以下に異常がないために、呼吸や循環は保たれている状態。通常、いかなる治療にもかかわらず、そうした状態が三か月以上つづくことをいう。

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世界大百科事典内の植物状態の言及

【死】より

…ただ脳死をもって人の死とするかについては,法の制定に際し国会でも論議が交わされたが,明確な合意を得るにはいたらなかった。 脳死に関して,しばしば混同されるものに,いわゆる植物状態がある。この両者はまったく異なる。…

【植物人間】より

…脳の外傷や脳の病気などで意識のない状態となり,入院して強力な治療を受けて一命をとりとめたものの,意識がもどらない状態になった人間のこと。〈植物〉とは,植物のように動かないということではなく,〈植物性機能だけが働いていて,動物性機能が働いていない状態〉のことをさし,このような状態をさして1972年以後,〈植物状態〉というようになった。 人間の営む働き(機能)を,生理学の教科書では伝統的に二つに大きく分けてきた。…

※「植物状態」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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