実業教育(読み)ジツギョウキョウイク

デジタル大辞泉 「実業教育」の意味・読み・例文・類語

じつぎょう‐きょういく〔ジツゲフケウイク〕【実業教育】

実業に従事するために必要な知識技術を授けることを目的とする教育。第二次大戦後は産業教育とよばれる。

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精選版 日本国語大辞典 「実業教育」の意味・読み・例文・類語

じつぎょう‐きょういく ジツゲフケウイク【実業教育】

〘名〙 実業に従事しようとする者に必要な知識、技能などを授ける教育。
東京日日新聞‐明治二六年(1893)一〇月六日「実業教育の奨励に鋭意なる井上文部が」

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改訂新版 世界大百科事典 「実業教育」の意味・わかりやすい解説

実業教育 (じつぎょうきょういく)

1870年代から農業鉱工業水産運輸などの生産・流通の分野を実業と総称し,これらの分野で働こうとする者にたいする基礎的教育および専門的教育を実業教育と称する習慣が生まれた。第2次大戦後は実業教育と称することは少なく,ほぼ同様の教育は産業教育あるいは職業教育と称されている。実業教育の萌芽は70年代からみられたが,井上毅文相のもとで94年に実業補習学校規程および実業教育費国庫補助法制定されて政府が積極的に奨励策をとりはじめると,おりからの日本資本主義の発展のもとで急激に発達しはじめ,実業学校令(1899)および専門学校令(1903)の制定により体系的に整備された。実業学校は,当初から実業学校として創設されたものが大部分であったが,農事講習所,蚕業講習所などのように,当初は他省所管の施設で後に文部省所管の実業学校となったものもある。実業教育を行う学校は,ふつう,その教育程度,目的などからみて,実業補習学校,中等程度の実業学校,実業専門学校専門学校),その他に分けられる。

 実業補習学校は,小学校教育修了者にたいする初等教育の補習と低度の実業教育を目的とし,簡易な形態での普及が旨とされ,専任教員はゼロかごく少数で,小学校の施設を使い夜間授業として実施するものが多く,当初は学年制もとらず定型化した教育課程もなかった。小学校教育自体が普及,充実してきた1920年代に入ると,実業補習学校についても標準的な教育課程を定め学年制を採用し,また実業教育の面を重視するなどの充実策がとられ,25年には,学校数1万5316校,生徒数105万余名に達した。26年以後は男子青年にたいする軍事教練に重点をおく青年訓練所と競合するようになったため,35年の青年学校令により,両者を統合した青年学校が創設された。

 中等程度の実業学校は実業のそれぞれの現場で働く中堅的人材を供給した学校で,当初は工業学校,徒弟学校,農業学校,商業学校,水産学校,商船学校の種類があった。農,商,水,商船の各学校は,教育年限の長短,その卒業者の実業専門学校への入学資格の有無などにより甲種,乙種に区分され,この区分のない工業学校は甲種,徒弟学校は乙種相当とみなされた。1921年には徒弟学校が廃止され,女子に技芸教育を施す職業学校が新設され,また甲種,乙種の区分が廃止されたが,この区分は実質的には後まで残った。中等程度の実業学校は1915年には学校数547校,生徒数9万3736人(うち乙種に学ぶ者4万2993人)であったが,42年には1513校,68万余人(うち乙種は7万人弱)に達した。これらの実業学校の大部分は,第2次大戦後の学制改革により高等学校の職業学科に移行した。

 実業専門学校は,中学校または甲種実業学校卒業者を入学資格とする修業年限3年(まれに4年)の専門学校の一種で,程度の高い実業教育を施し,実業界や実業教育の分野に将来の中堅幹部となる人材を供給した。農業,工業,商業,水産の各専門学校があったほか,文部省所管時代の高等商船学校も実業専門学校として扱われた。15年には学校数22校(官立17,公立2,私立3),生徒数7678人であったが,47年には139校(国立59,公立31,私立49),8万6932人に達した。実業専門学校の大部分は,第2次大戦後の学制改革に際して新制大学の学部または単科大学の母体となった。なお,東京商科大学商学専門部のように,大学に付設された実業教育を目的とした専門部は実業専門学校と同等の教育施設である。また大学あるいは実業専門学校に付設された実業教員養成所は,中等程度の実業学校の教員養成を目的としていたが,実業学校の一種として扱われることが多かった。
産業教育 →職業教育
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実業教育」の意味・わかりやすい解説

実業教育
じつぎょうきょういく

各種の産業に従事する者のための教育の総称。この用語は主として第2次世界大戦前に使用され,現在の産業教育にあたる。普通は学校内で行われる農業,工業,商業,運輸通信,水産などの産業技術教育をさす。第2次世界大戦前には,実業教育を施す学校として実業補習学校,徒弟学校,実業学校,実業専門学校などが設けられていた。井上毅は特に実業教育の重要性に着目し,文相在任中に実業補習学校規定,徒弟学校規定を制定したほか,1894年には実業教育費国庫補助法を公布して実業学校に国庫補助金を交付することを定め実業教育の振興をはかった。

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世界大百科事典(旧版)内の実業教育の言及

【産業教育】より

…広義には農,工,商,水産など各産業部門の職業につく準備をする教育をいい,職業教育あるいは第2次大戦までの実業教育の内容がほぼこれに相当する。職業訓練や企業内で行われる教育訓練も広義の産業教育にふくまれる。…

【職業教育】より

…西欧諸国においては,職業あるいは職種ごとに,職業上の資格によって従事すべき職域demarcationや要求される技能の水準を雇用契約などで明示する慣行が一般化しているので,個々の職業教育の目的,内容,水準などが明確である場合が多いが,日本では,医師,電気工事士,理容師などのように公的資格が設定されている領域を除くと,このような職業慣行は一般的でないため,その職業教育は西欧諸国のそれのように教育内容が細分化されてはいない。第2次大戦前の日本では職業教育ということばが用いられることは少なく,広く実業に従事する者を育成するという意味の実業教育ということばが用いられた。なお,日本をふくむ若干の国では,特定の技能について高度の熟練を要する職業のための訓練を,職業訓練vocational training,Berufsausbildungと称し,学校制度で行う職業教育と区別しているが,両者の内容の区分は必ずしも明確ではない。…

※「実業教育」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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