日本大百科全書(ニッポニカ) 「家庭経営」の意味・わかりやすい解説
家庭経営
かていけいえい
人間はだれでも自分の欲望や希望をできるだけ満たし、個々の目的を達成しようと願う。そして家庭をもつと、その願いはいっそう強くなり、社会が進歩して文化が向上すれば、人々の欲望や希望はさらに増幅される。したがって、それを満たすために使用する物資の数は増加し、社会サービスなどもますます豊かになっていく。そこでこれらをいかにうまく生活のなかに取り入れるか、家族および個人の目的を円滑に、しかも能率的に実現させるかという方法を具体的に考える必要が生じてくる。このように家族および個人の目的達成のため、家庭において行う必要のある仕事を家庭経営という。
わが国では昭和20年代に入ってようやく家庭経営の方法論の重要性が注目されるようになったが、社会の工業化や複雑化していく現状をみると、今後はむしろ重要なものになっていくはずである。また、人間は基本的に自己保存と種族保存の本能をもっているため、食欲、睡眠、休息、愛情の交換(性欲を含む)などの欲望ももっているし、人間らしく生きようとして、教養、運動、趣味活動、社交などの多様な行動も望む。そこでこのような家族員の欲望や希望を達成させるためには、愛情や能力、時間、エネルギー、金銭、衣服、食物、住居、家庭設備および社会施設やサービスなど、多くの有形無形のものが使用されることになる。そして家族の衣食住の生活から、育児、教育、家計、衛生、看護、交際、一家のだんらん、レクリエーションなどに至るまでの仕事が処理されていくわけである。
このように家庭経営の内容はきわめて多面的なので、これに携わる者にはつねに研究的な態度が望まれることになる。最近は機械化などにより家事労働が減り、主婦の余暇が増加したが、その余った時間をどのように利用するか、また就業を望む主婦や現に働いている主婦の数も増加の傾向にあるが、これらの主婦が家庭経営をどのように進めていくか、さらに乏しくなってきた資源や過剰になってきたサービスをどのように管理して処理していくかなど、いずれも今後の重要な課題である。
家庭経営の方針は、判断のできる家族全員の参加によって決められるべきであり、仕事は男女の年齢の別なく協力できる範囲で分担すべきである。しかし、現実には一般に主婦が行うことが多く、これは従来家庭経営の内容が、裁縫、調理、洗濯、掃除など、家事的なものにかなり重点が置かれていたためと思われる。現在では経営方法にも重点が置かれるようになり、就業する主婦も増えたため、今後は家事的なものは家族員でできるだけ協力しあい、主婦は判断能力と選択能力を必要とする経営方法に力を注ぐべきであろう。
[酒井ノブ子]