富士谷御杖(読み)フジタニミツエ

デジタル大辞泉 「富士谷御杖」の意味・読み・例文・類語

ふじたに‐みつえ〔‐みつゑ〕【富士谷御杖】

[1768~1824]江戸後期の国学者歌人京都の人。成章なりあきら長男。名は成寿・成元、のち御杖。号、北辺きたのべ。「てにをは」を研究古事記神話の解釈新説をたてた。著「古事記ともしび」「万葉集灯」など。

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精選版 日本国語大辞典 「富士谷御杖」の意味・読み・例文・類語

ふじたに‐みつえ【富士谷御杖】

  1. 江戸後期の国学者、歌人。京都の人。初名は成寿、のち御杖。父成章の学を継ぎ、また叔父皆川淇園影響をうけ、言霊哲学を基礎として独特の歌論を説いた。著「詞葉新雅」「古事記燈」「真言弁」「万葉集燈」など。明和五~文政六年(一七六八‐一八二三

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「富士谷御杖」の意味・わかりやすい解説

富士谷御杖
ふじたにみつえ
(1768―1823)

江戸後期の国学者、歌人。初名成寿(なりのぶ)、のち成元(なりはる)、さらに御杖と改名北辺(きたのべ)と号した。国語学者成章(なりあきら)を父に、京都に生まれる。伯父の儒学者皆川淇園(みながわきえん)に思想的、学問的影響を受けている。筑後(ちくご)(福岡県)柳河(やながわ)藩に仕えたが、晩年不行跡の理由で禄(ろく)を没収された。その思想は形而上(けいじじょう)学的傾向が目だち、人間の情動と生活行動と言語表現との関係の分析は、道徳的優位に制約されているものの、文学論として独自性があり、その文学的言語の特性把握は「倒語」説として説かれた。著作は神道(しんとう)論、歌論、語法、作歌法などにわたり、『古事記灯(ともしび)』(1807成立)『万葉集灯』『百人一首灯』(1804)『真言弁(まことのべん)』『北辺随筆』(1816)などのほかに五十嵐篤好(いがらしあつよし)(1794―1861)編の歌文集がある。

[藤平春男 2016年7月19日]

『『北辺随筆』(『日本随筆大成新版 1期15』所収・1976・吉川弘文館)』『三宅清編『新編富士谷御杖全集』全8巻(1979~1993・思文閣出版)』

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改訂新版 世界大百科事典 「富士谷御杖」の意味・わかりやすい解説

富士谷御杖 (ふじたにみつえ)
生没年:1768-1823(明和5-文政6)

江戸後期の国学者。筑後柳河藩に仕えた成章(なりあきら)の長子として京都に生まれる。幼名は成寿(なりのぶ),のちに成元(なりはる),さらに御杖。号は北野,北辺。12歳のとき父が没し,そののち父の兄弟皆川淇園(きえん)・成均によって教育された。御杖は父の歌学や国語学を継承するとともに,賀茂真淵,本居宣長の学問を摂取しつつ,しかも真淵・宣長の学説を批判した。御杖が〈影の詞〉〈詞の匂い〉を力説するところに中世歌論の影響がうかがわれるが,想像力や象徴という問題が考えられている。言霊(ことだま)の思想によって《古事記》を解釈して,神について〈ただ外にていへば人なり,内にていへば神なるばかり〉(《古事記灯(ともしび)》)といい,人間は理と欲によって成立しており,欲をつかさどるのは神,理をつかさどるのは人であり,欲と理との平衡を計らなければ,人間性の安定が保たれないと考えている。また,言霊を生かすために倒語の理論が考えられ,倒語として表現されたものとして《万葉集》の歌を解釈している。御杖は特異な思索を展開した思想家であり,奇矯な説もあるが,重要な思想の萌芽を多く見いだすことができる。
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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「富士谷御杖」の解説

富士谷御杖 ふじたに-みつえ

1768-1824* 江戸時代後期の国学者。
明和5年生まれ。富士谷成章(なりあきら)の長男。伯父の皆川淇園(きえん)にまなび,父の学を継承発展させて言霊(ことだま)倒語説をとなえた。晩年不行跡を理由に筑後(ちくご)(福岡県)柳河藩京都留守居役を解かれた。文政6年12月16日死去。56歳。京都出身。初名は成寿,成元。通称は千(専)右衛門。号は北辺。著作に「古事記灯」「真言弁」など。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「富士谷御杖」の意味・わかりやすい解説

富士谷御杖
ふじたにみつえ

[生]明和5(1768).京都
[没]文政6(1823).12.16. 京都
江戸時代後期の国学者。名は成寿,成元,のち御杖。通称は源吾,専右衛門。号は北野。父富士谷成章の跡を継いで,幼時から国学を学び,「てにをは」の研究や『古事記』,神道に関して独創的かつ精密な教説を展開。主著『古事記灯』 (1808) ,『真言弁』 (11頃) ,『万葉集灯』 (22) 。

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世界大百科事典(旧版)内の富士谷御杖の言及

【言霊】より

…そのような考えは,江戸時代の契沖にうけつがれている。さらに富士谷御杖(ふじたにみつえ)によって,《万葉集》の歌は,言霊の信仰にもとづいて作られている,と解釈され,思うことの反(うら)を表現する倒語の方法によって,ことばに言霊が宿る,と主張されたのである。このように言霊の信仰は古代における原始宗教の段階にとどまることなく,和歌を中心とする文学の問題として,のちの時代にまで長く影響している。…

【神道大意】より

… なお書名の〈神道大意〉とは神道の大体の意味を簡単に述べた書との意味であることから,他にも同名の書が多い。すなわち吉田神道内でも兼夏,兼敦以下の同名書があり,垂加神道に属する玉木正英,若林強斎のそれ,復古神道派の富士谷御杖権田直助(ごんだなおすけ)らのそれ,儒家神道の熊沢蕃山のそれ,雲伝神道の天如のそれと多くあり,またそれらの注釈書も多く出されている。吉田兼俱ほか吉田神道者のそれは,吉田叢書第1編に所収(1940年吉田神社編)。…

【誠】より

…その真淵のまこと説は以後その門流に広く継承されていくが,下っては〈今わが思う心の真実を歌う〉ことを説いた小沢蘆庵(おざわろあん),〈自分の真心の誠をやすらかに調べととのえる〉ことを説いた香川景樹(かがわかげき)らの歌論となった。さらに,これらの諸説を総合する位置に,富士谷御杖(ふじたにみつえ)の〈まことは真言であり,神道によっても慰め難い人間の一向心(ひたぶるごころ)が,これを歌うことによって真心の境に至ることを可能にするのであり,また時宜(じぎ)を全うすることにもなる〉という《真言弁(まことのべん)》がある。【堀 信夫】
[近世思想における〈誠〉]
 誠という概念がとくに近世の武士たちの間で一つの意味を実質として獲得するに至ったことについては,近世的精神風土とかかわるところがさまざまな点で大きい。…

※「富士谷御杖」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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