改訂新版 世界大百科事典 「富嶽三十六景」の意味・わかりやすい解説
富嶽三十六景 (ふがくさんじゅうろっけい)
浮世絵師葛飾北斎の代表的作品であるばかりでなく,富士図中の白眉といえる。大判錦絵の揃物(そろいもの)で,題名とは異なり全部で46図が刊行された。刊行時期は,版元の西村永寿堂の小説類奥付広告などにより,1831年(天保2)から33年にかけてと考えられる。全46図のうち,図中の輪郭線が藍色で刷られているもの36図,墨のもの10図で,後者は追加出版とみられる。この作品の刊行以前に北斎は関西に旅行の経験があり,実際に富士を見ていると思われるが,構図は北斎らしい奇知でまとめられている。《凱風快晴》(赤富士)や《山下白雨》《神奈川沖浪裏》などが著名だが,《甲州鰍沢(かじかざわ)》《遠江山中》などそれ以外にも味わい深いものが多い。単純な色彩による奇知的構図感覚は,フランス印象派たちに影響を与えた。なお,その趣向を本位とした北斎の画風に異を唱えた歌川広重は,のちに《富士見三十六図》を出している。
→葛飾北斎
執筆者:狩野 博幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報