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男女の美しい容姿を鑑賞の目的とした絵画。主として東洋画についていう。中国では、唐代に生命の木の下に男女を立たせた「樹下美人図」が流行、その影響を伝える日本の正倉院宝物『鳥毛立女屏風(とりげりつじょのびょうぶ)』やトゥルファンのアスターナ出土品などの遺例がある。また宮廷女官の風俗を描く仕女図(しじょず)も行われ、唐代の張萱(ちょうけん)、周昉(しゅうぼう)、五代の周文矩(しゅうぶんく)がよくし、明(みん)代の仇英(きゅうえい)や清(しん)代の改琦(かいき)、費丹旭(ひたんきょく)までその伝統は引き継がれた。
日本では、鎌倉時代以来の歌仙絵、室町後期以来の武将婦人像など、肖像画かそれに類する人物画に萌芽(ほうが)をもち、江戸時代初期以降に本格化して独立した主題分野となる。近世初期風俗画は寛永(かんえい)年間(1624~1644)を境に変質し、芝居町や遊里などの悪所(あくしょ)における遊楽に関心を限定させていくが、同時に人物像の洗練が主要な課題とされた。その結果、寛文(かんぶん)年間(1661~1673)のころには、掛幅の画面に遊女や舞妓(ぶぎ)、若衆(わかしゅ)らの立姿を単独で扱う形式にまで至り着き、「寛文美人画」(あるいは「寛文美人」)と総称される立美人図の典型を生む。そのころ江戸に浮世絵を創始した菱川師宣(ひしかわもろのぶ)は、木版画を新しい表現媒体として生命力にあふれる美人像を確立、以後美人画は浮世絵の主流として定着した。
浮世絵美人画は、遊女を中心として、芸者、水茶屋の女、あるいは市井の娘や女房に及ぶほか、女方の歌舞伎(かぶき)役者や少年(若衆)など男性の麗姿をまで対象とし、18世紀初頭の鳥居清倍(とりいきよます)は一時これを「嬋娟画(せんけんが)」(嬋娟とは、たおやかで美しいの意)とよんだ。同世紀末の喜多川歌麿(きたがわうたまろ)は、美人画の第一人者と自負して他の追随者を「木の葉絵師」とそしり、自作の錦絵(にしきえ)『錦織歌麿形新模様』の画面上に「(略)美人画の実意を書て世のこの葉どもに与ることしかり」と記した。このころ「美人画」ということばが一般化したことを知る。美人画を得意とした江戸の浮世絵画家としてはほかに、懐月堂安度(かいげつどうあんど)、宮川長春(みやがわちょうしゅん)という肉筆専門の画家に加えて、錦絵期の鈴木春信(すずきはるのぶ)、勝川春章(かつかわしゅんしょう)、鳥居清長、細田栄之(ほそだえいし)、葛飾北斎(かつしかほくさい)、歌川豊国(うたがわとよくに)、歌川国貞(うたがわくにさだ)、渓斎英泉(けいさいえいせん)らがいる。上方(かみがた)では、京都の西川祐信(にしかわすけのぶ)が肉筆画と版画の両分野で際だった活躍をし、同じく京都の祇園井特(ぎおんせいとく)、大坂の月岡雪鼎(つきおかせってい)らがその後を継いで、上方特有の濃艶(のうえん)で現実感に富む女性像に特色を発揮した。浮世絵以外では円山応挙(まるやまおうきょ)とその一派、文人画の渡辺崋山(わたなべかざん)、琳派(りんぱ)の鈴木其一(すずききいつ)などが、それぞれに清らかで気品のある美人画風を開拓した。明治以降の日本画においても、浮世絵の系譜を引いた鏑木清方(かぶらききよかた)や伊東深水(いとうしんすい)が東京で、円山派の伝統につながる上村松園(うえむらしょうえん)が京都で、近代的感覚の新鮮な美人画を生み出し、東西で競作した。
[小林 忠]
『小林忠著『江戸の美人画』(1982・学習研究社)』
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【主題】
室町末期から桃山時代の風俗画は,貴賤僧俗のあらゆる階層にわたって,その時様風俗を活写しようとするものであったが,江戸時代に入ると間もなく,悪所における享楽的な事象に作画の対象が限定されるようになる。そうした傾向を引きついだ浮世絵は,当初から遊里風俗図と美人画,歌舞伎図と役者絵を,2本の柱として展開していった。美人画は,当初は大夫など高位の遊女の画像にほぼ限られていたが,やがて岡場所の遊女や芸者,あるいは水茶屋の女,評判の町娘などまで扱うようになった。…
…生涯に作画した絵本,挿絵本は150種以上にのぼり,《伽羅(きやら)枕》に代表される好色本のほか,《岩木絵づくし》《美人絵づくし》などの絵づくし類,《江戸雀》《東海道分間(ぶんけん)絵図》などの名所案内記,さらには金平(きんぴら)本や仮名草子,和歌書などと,取材の範囲は多方面にわたった。彫刻刀が刻む荒削りな線描と,墨摺による白と黒との対比を強調した師宣の版画表現は,率直な明快さを愛する江戸人の美意識を代弁するものであり,〈菱川やうの吾妻俤(あずまおもかげ)〉と俳諧に詠まれたように独自の美人画様式は,大衆的な支持を受けて大いに流行した。やがて版画を文章に従属した挿絵から解放し,冊子本という形式からも独立させて一枚絵の鑑賞版画を生むに至るが,なお12枚一組の揃物として発表するにとどまった。…
※「美人画」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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