出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
江戸―京都間の宿駅を描いた絵画作品で、浮世絵にその例がきわめて多く、その歴史も古い。現在確認されるものとしては、江戸初期の寛永(かんえい)年間(1624~1644)ごろに初期肉筆浮世絵としてたびたび描かれたのがもっとも古い例とされる。中期になると、1690年(元禄3)刊行の菱川師宣(ひしかわもろのぶ)『東海道分間絵図』5帖(じょう)があり、街道の宿場や名所などが詳細に描かれた鳥瞰(ちょうかん)図で、外題が示すように実際に旅行のおりに使用されたものとみられる。江戸も後半期に入ると、東海道の往来は一段と盛んとなり、各地の名所図会が刊行された。1797年(寛政9)には『東海道名所図会』も版行され、一般庶民間での旅への関心の高まりとともに、浮世絵にも数多くの東海道のシリーズが出版されるようになった。この時期、もっとも早く東海道に注目して作品を発表したのは葛飾北斎(かつしかほくさい)で、享和(きょうわ)年間(1801~1804)から文化(ぶんか)年間(1804~1818)初期にかけて6種ものシリーズで各宿場の往来や旅人の風俗などを描いた。北斎には、ほかに1818年(文政1)に大々判(おおおおばん)の『東海道名所一覧』という鳥瞰図もある。
北斎ののち、東海道の絵師としてもっともよく知られるのは歌川広重(ひろしげ)で、彼もまた生涯に約40種のシリーズを描いた。出世作となったのは保永(ほうえい)堂と僊鶴(せんかく)堂によって出版された『東海道五拾三次』全55枚(1834~1835刊。俗に保永堂版とよばれる)で、1832年(天保3)幕府の八朔御馬献上(はっさくおうまけんじょう)の行列に加わり、京に上ったおりの実際のスケッチを基に作画したと伝えられる。広重の特色は、『東海道五十三次之内』(行書東海道)、『東海道』(隷書(れいしょ)東海道)などを含めて、従来の絵師とは異なり、各街道の景観に主眼が置かれていることであろう。
その大流行により、以降、東海道は幕末から明治にかけて多くの絵師によってさまざまな角度から描かれ、浮世絵における重要な題材の一つとなり、浮世絵に風景画のジャンルを完成させることとなった。東海道を描いた多くの絵師のなかで特色あるシリーズを残した絵師としては、渓斎英泉(けいさいえいせん)、2世広重、3世歌川豊国(とよくに)、歌川国芳(くによし)、歌川芳虎(よしとら)、豊原国周(とよはらくにちか)などがあげられ、こうした旺盛(おうせい)な制作は明治初年ごろまで続いている。
[永田生慈]
『歌川広重絵、吉田漱解説『浮世絵大系14 東海道五拾三次』(1975・集英社)』
東海道の53の宿場を描いた絵画。浮世絵作品としては1690年(元禄3)の菱川師宣《東海道分間之図》が最も古い。これを一宿一図として描いたのは葛飾北斎が始めで,1804年(文化1)版の《東海道》以下4作品がある。しかしそれらは道中風俗図で人物本位となっており,風景版画として本格的にこれに取り組んだのは歌川(安藤)広重である。彼の作品中いちばん初めに制作された1833-34年(天保4-5)の《東海道五拾三次之内》が最も有名かつ優秀な作品といえる。これは保永堂と仙鶴堂の合板によったもので,広重が32年に幕府の八朔献馬の行列に同行して東海道を歩いたときに行った写生を基調に制作されている。この大画集の刊行は世の絶賛をあび,広重はこの作品によって浮世絵に風景画というジャンルを完成させるとともに,一躍その名をはせた。その後《行書東海道》《隷書東海道》と呼ばれる版を続々と刊行し,さらに一枚絵のみならず絵本,双六,千社札の類まで含めると30種以上の作品を制作している。また広重の成功によって,歌川豊国,歌川国芳,渓斎英泉らも東海道を題材に描くようになった。近代に至っては,横山大観,下村観山,今村紫紅,小杉放庵(未醒)の合作による《東海道五十三次絵巻》9巻がある。
執筆者:松木 寛
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歌川広重が東海道を画題として描いた風景画の錦絵揃い物。1834年(天保5)に完結した保永堂版の横大判錦絵「東海道五十三次」は,その構図や彫摺の妙味でとくに著名。日本橋から京を上がりとする全55枚のセットで売り出された。十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の「東海道中膝栗毛」(1802~22刊)や当時の旅ブームなどを背景にこのシリーズの企画はあたり,広重はその後30種以上の東海道ものを描いた。葛飾北斎や歌川豊国・豊芳らも東海道を画題に描いており,浮世絵風景画の一ジャンルが確立された。
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