江戸中期の儒学者。大坂に生まれる。通称は吉兵衛。字(あざな)は子仲または仲子。号は謙斎。父は懐徳(かいとく)堂創建の五同志の一人道明寺(どうみょうじ)屋吉左衛門(芳春、1684―1740)。幼時から懐徳堂で三宅石庵(みやけせきあん)(1665―1730)に儒学を学んだが、15、6歳のころには儒教を批判して『説蔽(せつへい)』を著し、師石庵の不興を買ったともいわれる。その後、荻生徂徠(おぎゅうそらい)の親友でもあった田中桐江(たなかとうこう)(1668―1742)に師事し、その結社呉江社の一員となった。20歳のころには家を出て黄檗山(おうばくさん)で『一切(いっさい)経』の校合に従事し、仏教に対する批判力を培った。その成果は『出定後語(しゅつじょうこうご)』に著され、仏教の諸思想に歴史的批判を加える「加上(かじょう)」説が唱えられている。さらに、平易な和文で書いた『翁(おきな)の文(ふみ)』(1746)では、神儒仏三教を廃棄し、これにかわる「誠の道」を求めることを唱えた。その説は、一方では諸仏家などから非難されたが、他方、本居宣長(もとおりのりなが)、平田篤胤(ひらたあつたね)らに大きな影響を及ぼした。延享(えんきょう)3年8月20日、32歳で死去した。
[上田 穣 2016年6月20日]
『石浜純太郎著『富永仲基』(1940・創元社)』
江戸中期の大坂の思想史家。字は子仲また仲子。謙斎,南関,藍関と号した。通称道明寺屋三郎兵衛。父徳通は北浜でしょうゆ醸造や漬物商を営み,町人学問所懐徳堂を創建した五同志の一人。仲基も15歳ころまで初代学主三宅石庵に儒学を学んだ。近代の科学研究に先んじて中国古代思想を発展的にとらえ《説蔽(せつへい)》を著し,また仏教思想を成立史的に解明,始祖にかこつけて自説を張る過程を,〈加上〉という立論心理の法則的把握で論証した。1745年(延享2)刊の《出定後語(しゆつじようごご)》,翌年刊の《翁の文(おきなのふみ)》に所説を開陳。また宗教や倫理の形骸化を指弾し,現実に生きる〈誠の道〉を提唱。さらに言語の種々相を分析,思想の特色を規定する民族性,〈くせ〉に着目し,印度の神秘的,中国の修辞的,日本の閉鎖的傾向を指摘して,各文化類型を相対的に比較観察する視座を提唱,文化人類学的発想を先取した。
執筆者:水田 紀久
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1715~46.8.28
江戸中期の町人学者。父は懐徳堂創設にかかわった大坂の有力商人富永芳春。字は子仲,号は謙斎。幼少から三宅石庵に学ぶが,15~16歳頃に儒教を歴史的に批判した「説蔽(せつへい)」を著し破門されたという。その後大乗仏教説の歴史的批判書である「出定後語(しゅつじょうごご)」を著し,儒・仏・神の三教批判の上にたち,人のあたりまえに立脚する誠の道を提唱した「翁の文(おきなのふみ)」を刊行。すべての教説・言語を歴史的に相対化する仲基の視点を支えるのは,加上の法則,三物五類の説とよばれる学問的方法論で,それが近代になって高く評価され,仲基の発見と顕彰の原動力となった。
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…その内容は当時行われていた中国の重要産業を網羅し,それらについて知識人向けの解説を行ったものである。 朝鮮でも李朝時代に〈実事求是〉をスローガンとする実学派があったが,こうした大陸からの影響もあって,日本でも17世紀には熊沢蕃山が儒学を単なる名分論ではなく,利用厚生論として発展させ,18世紀には富永仲基や大坂の懐徳堂派の学風が町人的実学を進め,さらに皆川淇園,林子平,工藤平助,本多利明,佐藤信淵などの開物思想家が輩出した。それは信淵によれば,〈国土を経営し,物産を開発し,境内を豊饒にし,人民を蕃息せしめる業〉という国土開発・産業開発の事業を展開させようとする考え方であった。…
…江戸中期の仏教思想史論。富永仲基著。2巻。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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