江戸時代の代表的な銭貨。1636年(寛永13)幕府により正貨として鋳造を許可された。寛永銭ともいう。これに先立って,1626年常陸水戸の富商佐藤新助が幕府および水戸藩の許可を得て寛永通宝を鋳造したが官銭ではなかった。36年には江戸(浅草橋場・芝縄手の2ヵ所)および近江坂本の銭座で鋳造され,翌37年からは陸奥仙台・常陸水戸・越後高田・信濃松本・三河吉田・備前岡山・長門萩・豊後竹田の8ヵ所にも銭座が増設され,その後全国各地に銭座が開設されて銭貨の大量鋳造が実施された。寛永通宝には4文通用・1文通用の2種類があり,素材により銅銭・鉄銭・精鉄銭・シンチュウ(真鍮)銭があり,日常の小口取引に使用される庶民的な通貨であった。幕藩体制の確立期である寛文期(1661-73)になると,寛永通宝の大量鋳造によって,貨幣流通の統一が銅銭流通の全国化により実現されることになり,中世末期から近世初頭にかけての課題であった永楽通宝の廃棄が実現した。これは慶長通宝・元和通宝の発行によっても実現できなかった課題であった。江戸中期の儒学者荻生徂徠は《政談》のなかで,元禄期(1688-1704)になって,農村地域にもようやく銭貨が行き渡ったと述べているが,こうした貨幣流通の発展は寛永通宝の登場によって可能となった。明治初年にも寛永通宝は通用し,寛永銭1文が1厘となったが,1871年(明治4)から造幣局でつくられた貨幣が発行され,寛永銭は流通市場から姿を消した。
→銭(ぜに)
執筆者:作道 洋太郎
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江戸時代の代表的銭貨。1636年(寛永13)以後幕末まで、幕府の許可を得て江戸橋場(はしば)ほか全国各所に設けられた銭座(ぜにざ)、あるいは金座・銀座の下で、鋳造された銅・鉄・真鍮(しんちゅう)銭で、一文銭と四文銭があった。鋳造期間が長く、鋳造所が各地に置かれたため種類は数百種に及んでいる。中世以来江戸初期までは、永楽銭をはじめとする中国渡来の銭貨と新鋳銭が大量に通用していたが、質の高下により銭価の高低があったため、撰銭(えりぜに)が行われていた。しかし、寛永通宝が鋳造され、永楽銭に対する比価4分の1の京銭(きんせん)(悪銭)と同様に金1両につき銭4貫文の割で通用が命ぜられ、とくに1668年(寛文8)以降大量に鋳出されたことによって、銭貨の流通は平静円滑になった。
[滝沢武雄]
江戸時代の代表的な銭貨。1626年(寛永3)に水戸で私鋳されたのが最初で,幕府は36年に江戸と近江国坂本で,翌年にはさらに水戸・仙台など8カ所で銅一文銭の鋳造を開始させた。以後の再三の増鋳時にも寛永通宝の銭文(せんぶん)が採用されたが,鋳造時期や場所によって銭質や大小軽重に差があった。68年(寛文8)以降裏に「文」の刻印のある文字銭(ぶんじせん)が大量に鋳造された。元禄・宝永あるいは元文の金銀改鋳の際にも,多数の銭座で鋳造が行われた。この頃までの銭座は請負方式をとったが,1765年(明和2)以降,金座・銀座以外での鋳銭は困難になった。素材の銅が不足したため,1739年(元文4)鉄一文銭が登場し,68年には4文通用の真鍮(しんちゅう)四文銭,1860年(万延元)には精鉄四文銭などが発行された。
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… 江戸時代に入ると,幕府は1606年(慶長11)に銅銭の慶長通宝を鋳造し,17年(元和3)に元和通宝を発行したが,中世以来の中国銭を廃棄することはできなかった。36年(寛永13)に寛永通宝が創鋳され,これが寛永~寛文期には大量鋳造されて,ようやく新銅銭の大量供給により永楽通宝などの廃棄に成功し,銅銭によって貨幣流通の全国的統一をはじめて実現することができた。その後宝永通宝,天保通宝,文久永宝などの各種の銅銭や真鍮銭,鉄銭が造られた。…
…江戸幕府は1636年(寛永13),それまで幕府鋳造の金銀貨と並んで流通させていた鐚銭(びたせん)に代えて,新規の銭を鋳造させることとなり,老中土井利勝を総督に,江戸の芝網縄手ならびに近江坂本に銭座を設けて,新銭を鋳造した。これが寛永通宝であり,最初の銭座であった。ただし幕府による直営方式であって,銭座の仕法については,銀座人秋田宗古らに命じてこれを差配せしめたと思われる。…
…鋳造は江戸浅草橋場町の金座,深川海辺新田および浅草橋場町の銀座で行われた。これに先だって,1860年(万延1)に精鉄銭の寛永通宝(鉄4文銭)が造られたので,銅貨の寛永一文銭を回収して文久永宝が鋳造された。それは従来の寛永四文銭よりも小型で,材質も劣る。…
※「寛永通宝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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