江戸時代の銭貨鋳造所。江戸幕府は1636年(寛永13),それまで幕府鋳造の金銀貨と並んで流通させていた鐚銭(びたせん)(悪銭)に代えて,新規の銭を鋳造させることとなり,老中土井利勝を総督に,江戸の芝網縄手ならびに近江坂本に銭座を設けて,新銭を鋳造した。これが寛永通宝であり,最初の銭座であった。ただし幕府による直営方式であって,銭座の仕法については,銀座人秋田宗古らに命じてこれを差配せしめたと思われる。また,実際の鋳造には,前代以来鋳銭に由緒のある鳴海兵庫らを銭座の頭衆とし,銭鋳(ぜにい)の者は,賃銀を支払い長門その他の諸国から雇っての鋳銭であった。ついで翌年からは水戸,仙台,吉田,松本,高田,長門,備前,豊後中川内膳領内の8ヵ所に藩営の鋳銭所を置くことを命じ,40年まで寛永通宝を鋳造させている。いうまでもなく,新銭を全国に流通させるためであった。その後は,56年(明暦2)江戸浅草,また57年駿河国沓谷(くつのや)で新銭を鋳造させたと伝えているが,現在も静岡市葵区の沓谷地区には銭座(ぜんざ)町が残っていて,銭座所在地であったことを示している。
ついで増鋳された寛永通宝は1668年(寛文8)から83年(天和3)まで,後藤縫殿助(ぬいのすけ)ら6人の呉服師の請負によって鋳造された銭であって,この銭は,その背面の上部に,寛文の〈文〉の一字が鋳込まれていた文銭であった。この鋳銭は,17世紀後半における日本の産銅の増加と小農経済の発達などで銭貨需要の増大期にあたっていて,17万貫文を鋳たといわれている。以来,銭貨の鋳造発行は,民間の町人に請け負わせて,幕府に対しては運上を納めさせる請負方式が普通となった。元禄・宝永期以後になると,金銀の改鋳がなされるごとに,たいていは銭貨の相対的不足をきたした。そこで1700年(元禄13)から08年(宝永5)まで,京都七条河原で糸割符仲間の請負で荻原銭を鋳たときのように,まったく一時的な銭座が全国各地に興され,目的の達成とともに廃止されるという状況であった。ただし65年(明和2)以後は,幕府による鋳銭統制期で,それまでの銭座請負方式から鋳銭定座(じようざ)方式へと切りかえられ,金座・銀座支配下の銭座以外には,鋳銭は原則として許可されないこととなった。
執筆者:田谷 博吉
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江戸時代、幕府から銭貨(せんか)の鋳造・発行を任された機関で、1636年(寛永13)江戸・芝浜手(しばはまて)および近江(おうみ)・坂本で設けられたものを初めとする。鋳銭(ちゅうせん)座ともいう。金座、銀座のように常設でなく、鋳銭が必要なつど公募し、鋳造額と期間を定めて請け負わせるのを原則とした。請負人は幕府御用商人、銅座経営者のほか地方町人も多く、その地域は、秋田、仙台、水戸、佐渡、甲州、松本、駿府(すんぷ)、紀州、京、大坂、備前(びぜん)、長門(ながと)、豊後(ぶんご)など全国にわたった。しかし、国内産銅の減退と、元文(げんぶん)(1736~41)以降新たに鉄銭が鋳造され、銭相場が低落するに伴い、鋳銭統制が厳しくなり、銭座の民間請負をやめ、金、銀座兼帯とし、1765年(明和2)そのもとで鋳銭定座や真鍮(しんちゅう)銭座が設立された。
[岩橋 勝]
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江戸時代の銭貨鋳造機関。1636年(寛永13)に江戸・近江坂本で寛永通宝を鋳造して以来,各地に銭座が設けられ鋳銭が行われた。経営はいずれも有力町人による請負制で,幕府の許可を得て一定期間設置され,幕府へは運上が納められた。1765年(明和2)江戸亀戸の銭座を金座が兼ね(これを鋳銭定座(じょうざ)という),68年には銀座がこれを兼ねて真鍮四文銭の鋳造が始まると,金銀座が兼ねる銭座以外の鋳銭は規制され,水戸・仙台などの銭座もその支配をうけた。産銅の盛んな藩で,銭座を設けた例もある。一般に銭座の組織は,役務を担う鋳銭役所と鋳銭作業を行う鋳銭所からなり,後者は地金を製造する大吹所と,手本銭をもとに鋳銭を行う銭吹所にわかれていた。
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…安土桃山時代には豊臣秀吉が各種の金銀貨を鋳造し,これを軍資金とした。 江戸時代には徳川家康が1601年(慶長6)に幣制を統一し,金座・銀座・銭座を設けて金銀銭貨を鋳造し,この三貨を全国通用の正貨とした。金貨には大判(10両)・5両判・小判(1両)・2分金・1分金・2朱金・1朱金があり,銀貨には秤量貨幣の丁銀・豆板銀(小玉銀・小粒銀)のほか,定位銀貨として5匁銀・1分銀・2朱銀・1朱銀が造られた。…
※「銭座」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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