対人行動(読み)たいじんこうどう(その他表記)interpersonal behavior

日本大百科全書(ニッポニカ) 「対人行動」の意味・わかりやすい解説

対人行動
たいじんこうどう
interpersonal behavior

広くとれば、人々がほかの人に対して示すすべての行動が対人行動ということになるが、一般には、われわれが身近にいる他者に対して示す行動で、たとえば、攻撃行動、援助行動(人助け)、追従行動などのように、一方が他方に能動的に行う行動をさすことが多い。

[中村陽吉]

特徴

個人が自分の認知とか態度を変える場合は、社会的枠内での個人的反応であり、集団状況のなかで生じるリーダーシップとか目標追求的行動は集団内行動である。また、人々の間で相互に行うコミュニケーションなどは、相互作用過程が問題となる。それらに対して、いわゆる対人行動とよばれるものは、働きかける側が自分の意図に基づいて相手に積極的に示す行動であり、その意味では個人的ではなく、また集団活動としての行動である必要もないので、集団内行動ともある程度は区別できる。そして、対人行動は行動の受け手の反応と無関係であるはずはないが、相互作用過程よりも、一方からの働きかけに重点を置いてとらえたものである。

 リーダーシップとか同調行動とか、あるいは説得態度変容なども対人行動的特徴をもっており、集団内行動とか個人行動として従来かなり研究が進んでいた。ところが近年、集団状況と個人状況のいずれからも接近していなかった対人場面での行動が注目されるようになり、それらが対人行動とよばれるのである。

[中村陽吉]

研究史と種類

対人行動が社会心理学の研究対象として脚光を浴びるようになったのは、1960年代の後半ごろからである。アーガイルM. Argyle(1925―2002)が『対人行動の心理』The Psychology of Interpersonal Behaviorの初版を世に問うたのが1967年である。そして、1970年代に入ってから出版されたアメリカでの社会心理学の概説書には、従来の概説書では触れられていなかった援助、攻撃、自己開示などの項目が取り上げられるようになった。このような狭い意味での対人行動とよばれるものには、他者への思いやり(援助helping behavior)などを中心とする社会志向的行動prosocial behavior、他者に害を及ぼす(攻撃aggressive behavior)行動を中心とした反(非)社会的行動antisocial behavior、自分の状態や特徴を現実のままに示す(自己開示self-disclosure)行動や、相手の気に入る、あるいは自分に都合のよい姿として自分を相手に示す(自己呈示あるいは自己表出self-presentation)行動などが含まれている。そしてこれらの対人行動は、社会心理学ばかりでなく臨床心理学の方向からも興味をもたれている。

[中村陽吉]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「対人行動」の意味・わかりやすい解説

対人行動
たいじんこうどう

対人効果を引起すような行動,すなわち行動の対象 (目標) を他者におくように動機づけられた行動を意味する。対人効果は集団における個々の成員の交渉によって成立するものであり,そのような影響を与える行動はあくまでも他者の存在を前提としている。その過程は人間の精神発達の段階からみて一体化,同一化,役割行動,コミュニケーション,共感,同情,模倣,暗示に分けることができる。このうち特に,他者の役割を演じる役割行動および他者との意志の交換であるコミュニケーションは社会関係を成立させる対人行動として不可欠のものといえる。

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