(読み)はらわた

精選版 日本国語大辞典 「腸」の意味・読み・例文・類語

はら‐わた【腸】

〘名〙
① 大腸の古称。また、大腸・小腸などの総称。臓腑(ぞうふ)のことにもいう。
※新訳華厳経音義私記(794)「大小腸 波良汙多(ハラワタ)
② 瓜(うり)などの内部の、種子とともにある綿のようなやわらかい部分。また、物の内部にあって、表面を別のものでおおわれているもの。
※多情多恨(1896)〈尾崎紅葉〉後「決して膓(ハラワタ)なんぞは出てゐない御襷を掛けて」
こころ。性根。また、胸中。本心。あるいは、物ごとの神髄。精髄。
※浄瑠璃・国性爺合戦(1715)三「我又孔明がはらわたに分け入り、はんくゎい項羽が骨髄を借って」
④ (形動) すぐれているさま。すばらしい様子。
※当世花詞粋仙人(1832)「しんから妙じゃ、はらわたじゃ」

ちょう チャウ【腸】

〘名〙 消化管の主要部分の一つ。胃に続く部分から消化管の体外に開口するまでの部分で、多数の消化腺が開口し、消化と吸収を行なう器官。動物によって構造、機能などが異なるが、前腸・中腸・後腸などに区別され、あるいは小腸(十二指腸・空腸・回腸)、大腸(盲腸・結腸・直腸)などに区分される。この内面は内胚葉起原の粘膜からなり、内壁や絨毛突起があって吸収面を増大している。
史記抄(1477)一四「腸胃はどれも府なり」 〔呂氏春秋‐開春論・期賢〕

わた【腸】

〘名〙 動物の腹腔内にある内臓の一部。はらわた。
※万葉(8C後)五・八〇四「蜷(みな)の和多(ワタ) か黒き髪に」
御伽草子・むらまつの物語(古典文庫所収)(室町末)「はら十もんじに、かききりてぞ、ゐたりける。しなれざりければ、わたくりいだし」

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デジタル大辞泉 「腸」の意味・読み・例文・類語

ちょう【腸】[漢字項目]

[音]チョウチャウ)(漢) [訓]はらわた わた
学習漢字]6年
胃から続き肛門に至る消化器官。「腸炎胃腸浣腸かんちょう小腸大腸脱腸断腸直腸盲腸羊腸
心。思い。「愁腸熱腸
[難読]海鼠腸このわた

はら‐わた【腸】

腹腔内の臓腑ぞうふ大腸小腸などの総称。「酒がにしみる」「がよじれるほどおかしい」
動物の内臓。臓物ぞうもつ。「魚のを抜く」
ウリなどの内部で種を包んでいる、やわらかい綿のような部分。
こころ。性根。
[類語](1)(2内臓臓器五臓六腑臓腑五臓臓物/(4心胆

ちょう〔チヤウ〕【腸】

消化管の主要部分の一。胃の幽門に続き、肛門こうもんに至る。小腸(十二指腸・空腸・回腸)と大腸(盲腸・結腸・直腸)。食物の消化および吸収を行う。腸管。

わた【腸】

内臓。はらわた。「魚のを抜く」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腸」の意味・わかりやすい解説


ちょう

動物の消化管のうちでもっとも長い主要な部分で、通常は食道または胃に続いて始まり、体外への排出口に終わる。脊椎(せきつい)動物では、小腸と大腸に分かれ、その境界に盲腸が生じる。哺乳(ほにゅう)類と魚類では肛門(こうもん)に終わるが、その他の脊椎動物諸綱は総排出腔(こう)をもち、腸もここに開口する。哺乳類の小腸は十二指腸、空腸、回腸に、大腸は結腸と直腸とに分かれる。小腸内面には多数の絨毛(じゅうもう)突起があり、上皮細胞表面には刷子縁(さっしえん)とよばれる、規則的に密生して配列された微絨毛があって、吸収表面積を増大させている。また二糖分解酵素(スクラーゼマルターゼなど)やアルカリ性フォスファターゼなどの酵素もこの微絨毛上に局在する。小腸にはリーベルキューン腺(せん)があり、十二指腸にはそのほかにブルンナー腺があって腸液を分泌し、小腸上皮細胞には粘液を出す杯(はい)細胞や内分泌細胞もある。大腸の絨毛突起は小腸のものより高さが低く、上皮細胞には杯細胞が多く、粘液を出して糞便(ふんべん)の通りを容易にしている。大腸ではまた水分の吸収がおこる。

 無脊椎動物の腸の構造は食性などによってきわめて多様であるが、多くの場合、腸内隆起などによって吸収表面が増大していること、粘液を分泌して糞の通過を容易にしていること、水の吸収がおこることなど、脊椎動物と類似の機能が観察される。また腸はしばしば前・中・後腸に分かれ、盲嚢(もうのう)をもつこともある。軟体動物や節足動物の中腸には中腸腺が開口して消化酵素を分泌し、節足動物のうちクモ類、昆虫類などの中腸と後腸の境界部にはマルピーギ管が開口し、おもに排出器官としての機能を果たしている。

[八杉貞雄]

ヒトにおける腸

消化管のうち、胃に続く部分から始まり、末端の肛門まで達する細長い管をいう。小腸と大腸とに区分する。小腸は約7メートル、大腸は約1.5メートルの長さである。小腸は、全長にわたって著しく屈曲しながら腹腔(ふくくう)中央部に収まり、大腸は、腹腔を額縁のように取り囲んで走ったのち、骨盤腔に入り、肛門に開く。小腸は、さらに十二指腸、空腸、回腸に区分される。食物の消化と吸収の主役となるのが小腸で、大腸では水分と電解質の吸収が行われる。小腸の内面の粘膜細胞には絨毛という小突起が多数出ており、小腸内面は全体にわたってビロード状を呈している。したがって、小腸内面の吸収面の総面積はきわめて広くなり、約200平方メートルに達する。胆汁、膵液(すいえき)は、それぞれ総胆管と膵管とを通り、十二指腸下行部の大十二指腸乳頭の開口部に注いでいる。腸液は十二指腸腺および腸腺から分泌される。胃の中で乳糜(にゅうび)状にされた食物は、これらの消化液によって消化分解され、吸収される。

 大腸は、盲腸、結腸、直腸、肛門管に区分される。大腸は、小腸よりは全体に太く、主として水分吸収が行われ、植物繊維なども消化される。盲腸は短いが、その盲端部には虫垂が付着している。回腸から盲腸に移る部分には回盲弁があり、大腸から小腸への内容物の逆流を防いでいる。盲腸から続く結腸は、上行、横行、下行結腸に区分され、額縁のように腹腔を取り巻く。下行結腸から小骨盤に向かうのがS状結腸、ついで直腸となる。直腸は肛門管を経て肛門となる。大腸の内面の粘膜には、小腸におけるような絨毛はなく、粘液細胞が多くなる。粘液細胞は、大腸内でしだいに固形化する内容物を円滑に輸送するのに役だっている。

[嶋井和世]

腸管と腸間膜

身長の5倍ほどもある腸管が腹腔内に収納され、もつれないようにするために、腸間膜が腸管を固定している。しかし、腸管は、全長にわたって腸間膜をもっているわけではない。十二指腸では上部の一部を除いて腸間膜がなく、その部分の後面は腹腔後壁に固定され、前面は腹膜に覆われている。空腸と回腸は腸間膜を備えているが、この小腸間膜は、長さが15~25センチメートルの小腸間膜根によって後腹壁に固定されているため、空腸、回腸はかなりの移動性をもっても、腹腔内でもつれることはない。この腸間膜根は、扇子の要(かなめ)に相当し、腸間膜はその広げた部分にあたる。そして、広げた部分の縁に腸がついているわけである。結腸では上行結腸と下行結腸とが腸間膜をもたず、腹腔後壁に癒着し、前面だけが腹膜に覆われている。横行結腸は長い横行結腸間膜をもち、これによって後腹壁に固定されるが、移動は容易にできる。S状結腸にもS状結腸間膜があり、移動しやすくなっている。結腸の表面には外縦走筋層からなる結腸ヒモが3本あり、結腸の長軸に沿ってほぼ等間隔で走っている。この特徴によって、結腸と小腸との区別ができる。

[嶋井和世]

血液循環系と神経支配

消化管の血液循環系は特殊であって、腸の静脈系は直接心臓に帰らず、門脈系をつくって肝臓に入る。つまり、門脈系は胃静脈、脾(ひ)静脈、上腸間膜静脈および下腸間膜静脈などが合流したもので、胃腸から吸収された栄養物質を肝臓に送り込み、グリコーゲンの貯蔵などを行うようになっている。腸への動脈は、腹大動脈から直接に分岐した腹腔動脈、上腸間膜動脈および下腸間膜動脈が分布している。腸の運動は、迷走神経と交感神経からなる自律神経によって支配されている。迷走神経は腸管の運動(蠕動(ぜんどう)運動)を促進させ、交感神経はこれを抑制する。小腸の蠕動運動は活発であるが、大腸では小腸に比較すると弱い。なお、大腸は小腸よりもはるかに短いが、小腸に比べて故障がおこりやすいのは、内容物がたまりやすいからと考えられる。

[嶋井和世]


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改訂新版 世界大百科事典 「腸」の意味・わかりやすい解説

腸 (ちょう)
intestine
gut

広義には消化器全体をいい,狭義には食道または胃以後の消化管の部分をいう。扁形動物などで盲端におわる消化腔を腸と呼ぶことがある。より体制の複雑な無脊椎動物では,腸は体内の腔所にあって,口と肛門で体外に交通する点で脊椎動物の腸に類似している。昆虫などでは腸は前腸,中腸,後腸に区分され,中腸腺やマルピーギ管(排出器)などの付属器官をもつなど複雑化している。脊椎動物の腸は,発生的に中腸と終腸にそれぞれ由来する小腸と大腸よりなり,両者の境界に盲腸が分岐する。魚類では小腸と大腸の区別が明らかではない。四肢動物では鳥類と哺乳類で盲腸がよく発達し,盲腸がない場合(トガリネズミ,フェレットなど)でも,小腸と大腸は機能的に違っている。ウサギ類や霊長類では,盲腸端にさらに虫垂という細長い突出部がある。

 腸の内腔では肝臓,膵臓,腸腺から分泌される消化酵素による消化が行われ,栄養分,水分,電解質などが粘膜下に発達する血管やリンパ管に吸収される。腸の吸収能を高めるため,その表面積を拡大する構造として,円口類,板鰓(ばんさい)類などでは腸内にらせん弁が発達する。硬骨魚類では中腸起部に管状の幽門垂(幽門盲囊)が発達して同様な意義をもつ。四肢動物,とくに鳥類と哺乳類では腸が長くなり,部分的な特殊化を生じ,絨毛(じゆうもう)やその円柱細胞の微絨毛が発達して吸収面積を広げる。内容物のかくはんと移動は腸の平滑筋の収縮と弛緩により行われ,自律神経の支配下にある。

 消化管内容物は本来生体には異物でかつ感染源でもある。これに対応して,腸には免疫的防御機構(虫垂,パイヤー板,腸間膜リンパ節,粘膜下の免疫系遊走細胞など)が発達する。一方,草食性哺乳類のウマ,ウサギなどでは大腸が拡大して細菌による発酵槽となり,セルロースの栄養的利用を可能にしている。草食性動物では腸が長く,とくに魚類と哺乳類でこの傾向が明らかで,例えば肉食性のイヌでは腸は体長の約5倍にすぎないが,草食性のヒツジでは約25倍である。
執筆者:

胃に続く消化管の部分,つまり腸は小腸と大腸の2部に大別され,小腸はさらに十二指腸,空腸,回腸に区別される。小腸の主要な機能は食物の消化,吸収であって,十二指腸には肝臓や膵臓から分泌される胆汁,膵液が流入し,さらに腸液により腸に達した食物の消化,吸収が行われる。この機能に関連して吸収面の増大をはかるため小腸は長く,それに応じて著しい屈曲を示し,またその内面には皺襞(しゆうへき),皺襞の表面には絨毛が発達し,その表面積はひじょうに大きなものとなっている。次に大腸は盲腸,結腸,直腸に大別される。盲腸は草食の哺乳類では長大でよく発達しているが,ヒトでは数cmの長さにすぎず,また盲腸の末端には虫垂が付着する。結腸はさらに上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸に分かれるが,上行結腸,下行結腸は後腹壁に固定され,可動性はひじょうに少ないが,横行結腸,S状結腸は腸間膜を有し可動性はひじょうに大きい。大腸の主要な機能は,水と電解質の吸収と糞便の貯留である。すなわち小腸から流入した液性内容は主として右側結腸(上行,横行の前半)で水分を吸収されて固型状の糞便となり,左側結腸(横行の後半以降)に達し,主としてS状結腸に貯えられる。横行結腸中部以下には排便に関連して1日1~2回大蠕動(だいぜんどう)と呼ばれる著明な運動がみられるが,ふだんは運動はあまりみられない。
小腸 →大腸
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百科事典マイペディア 「腸」の意味・わかりやすい解説

腸【ちょう】

胃に続く消化管。ヒトでは全長約9m,小腸大腸に分かれ,前者には,胃の幽門に続く十二指腸,それに続く約2.5mの空腸,大腸へ接続する約3.5mの回腸,後者には盲腸,結腸直腸が属する。
→関連項目潜伏期

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栄養・生化学辞典 「腸」の解説

 胃に続く消化管の部分で,小腸と大腸からなる.小腸は十二指腸,空腸,回腸からなる栄養素の消化吸収の主たる場であり,大腸は盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸からなり,水分を吸収して糞を形成する.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腸」の意味・わかりやすい解説


ちょう

消化器」のページをご覧ください。

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