尿道下裂(読み)にょうどうかれつ(英語表記)Hypospadias

六訂版 家庭医学大全科 「尿道下裂」の解説

尿道下裂
にょうどうかれつ
Hypospadias
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 陰茎腹側面(いんけいふくそくめん)発育欠陥があり、その近くに外尿道口が開いている状態を尿道下裂といいます。男児外陰・尿道の先天的な異常としては頻度が高く、欧米では男児出生300人に1人といわれています。日本ではやや少ないようですが、最近増加傾向にあります。

原因は何か

 胎生9週ころから男性ホルモン(テストステロン)が分泌され始め、これが陰茎・尿道の形成過程に関係します。尿道下裂の発生には胎児の精巣(せいそう)自体のホルモン産生や作用異常、あるいは外的要因である母体の内分泌環境の変化が関係しています。近年の増加は環境ホルモンの影響が疑われています。

 陰茎亀頭(きとう)の発達はアンドロゲンによって促され、12~15週ころに1本の尿道となります。この時期に男性ホルモンの作用が障害されると、尿道下裂が生じると考えられます。

症状の現れ方

 出生時に外尿道口が亀頭部の先端に開いていないことで診断は容易ですが、その位置によって、亀頭部、冠状溝部(かんじょうこうぶ)、陰茎振子部(しんしぶ)、陰茎陰嚢部、陰嚢部、会陰部(えいんぶ)に分類されます(図14)。

 外尿道口が会陰、陰嚢などに開く場合、矮小(わいしょう)陰茎や陰茎前位(ぜんい)陰嚢、二分陰嚢(陰嚢が左右に二分した状態)、さらに停留精巣(ていりゅうせいそう)合併が多くなります。また、外尿道口から包皮小体にかけて陰茎索といわれる結合組織束を伴うため、陰茎は腹側に弯曲することが認められます。

検査と診断

 従来から遺伝的要因、出生前環境因子が本疾患の発生に関係しているといわれています。そのため、家族内発生の有無や母親が妊娠中にプロゲステロンなどのホルモン剤やアスピリンインドメタシンなどの解熱薬を使用したかどうかなどの聴取を行います。

 家族内発生をみた場合には、半陰陽(はんいんよう)と区別するために染色体検査、ホルモン検査、内性器・性腺の確認のために内視鏡検査を行います。

 合併する異常としては、停留精巣などの陰嚢内容の異常、鼠径(そけい)ヘルニア、心奇形などが多くみられます。また、鎖肛(さこう)脊髄髄膜瘤(せきずいずいまくりゅう)低出生体重児などに尿道下裂の合併が多いようです。

治療の方法

 基本的には手術による形成術が行われます。治療の目的は正常な排尿(立位による排尿)と将来の性生活にあります。また、患児の男性としての自覚、精神発達に大きな影響を及ぼすため、機能だけでなく美容上の面からも満足するようにすべきです。

 手術は通常、日本では2~3歳で行われますが、欧米では10カ月前後で行われています。1~2歳で亀頭・包皮の発育が十分であれば対象になります。矮小陰茎ではテストステロン軟膏などで陰茎の発育を促します。

 形成術には、索の切除をまず行ってから形成術を行う二期手術と、一期的に行う手術とがあり、200以上の術式があるといわれています。近年は縫合糸・マイクロ機器の発達で一期手術が多く行われています。

病気に気づいたらどうする

 手術の時期は1~2歳以降になりますが、その他の合併奇形の有無を含めて、早期に小児泌尿器科医もしくは小児外科医に相談すべきです。

宮北 英司


尿道下裂
にょうどうかれつ
Hypospadias
(男性生殖器の病気)

どんな病気か

 尿道の出口がペニスの先端になくて、ペニスの途中陰嚢(いんのう)にある病気です。図11のように背面の包皮(ほうひ)が過剰で、ペニスの屈曲を伴うことが多く、その程度はさまざまです。

 外見問題だけでなく、立位での排尿ができない、将来的に性交渉に支障を来すなどの問題があります。軽症のものを含めると男児出生300~500人に1人の頻度でみられます。

原因は何か

 先天性の病気で原因はよくわかっていません。胎生8~9週に尿道の原基となる溝ができ、9週ごろから胎児の精巣(せいそう)から分泌されるテストステロンにより陰茎(いんけい)と尿道の形成が進みます。この段階でホルモンの産生や作用の異常が起きると、うまく尿道が形成されなくなると考えられます。尿道が形成されなかった組織が屈曲の原因になっています。

検査と診断

 泌尿器科専門医の診察で診断は容易ですが、程度が高度な場合、停留精巣(ていりゅうせいそう)や陰嚢の発育不全を伴う場合には、半陰陽(はんいんよう)が疑われ、染色体検査、ホルモンの検査が必要になります。また特殊な場合として、尿道の出口は正常で屈曲だけがみられることもあります。

治療の方法

 ごく軽度の場合を除いて手術が必要です。手術は屈曲を直し、包皮を用いて尿道を形成し、さらに必要な場合は亀頭(きとう)の形成を行います。高度な場合は2回に分けて手術をすることもあります。手術の時期は施設により違いがありますが、ふつうは1~3歳までに行います。

 手術の合併症として、新しくつないだ尿道が狭くなったり、尿道の途中から尿がもれたりする問題が起こりやすく、再度手術が必要になることも少なくありません。

武田 光正


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「尿道下裂」の解説

にょうどうかれつ【尿道下裂 Hypospadias】

[どんな病気か]
 体外に排尿するための外尿道口が、正常な位置よりも手前のほうに後退して開いているもので、外尿道口の位置により亀頭部下裂(きとうぶかれつ)、陰茎部下裂(いんけいぶかれつ)、陰嚢部下裂(いんのうぶかれつ)、会陰部下裂(えいんぶかれつ)に分類されます(図「尿道下裂のいろいろ」)。
 亀頭部下裂のような程度の軽いものがこの病気全体の60~70%以上をしめ、男児の出生数1000人に対し、1~数人程度みられます。
[原因]
 男性は胎生期(たいせいき)に、尿道溝の両側のへりが、正中線上で合わさって尿道がつくられるのですが、この癒合(ゆごう)がなんらかの理由で停止したものです。
 陰茎へのアンドロゲン(男性ホルモン)の作用が減少するためにおこるといわれています。このように、妊娠初期の性ホルモンの異常は、胎児(たいじ)にさまざまな性器の異常をおこします。
[検査と診断]
 見ればわかるつぎのような症状や尿が異常なところから出てくるので、診断は簡単です。
①本来の正常な尿道口の位置から異常な尿道口までの形成がうまくいかなかった部分が、陰茎索(いんけいさく)(尿道海綿体(にょうどうかいめんたい)が線維化したもの)と呼ばれる伸展性の乏しい組織になっており、陰茎はそれに引っ張られて腹側に曲がり、短小になっています。
②尿道口はふつう、薄い皮だけで形成された小さな穴で、陰茎から陰嚢にいたる腹側の正中線上のどこかにあいています。
③亀頭には、堤防のような隆起がみられ、さまざまに変形し、余分な包皮が頭巾(ずきん)のように陰茎の背側をおおう一方、陰茎の腹側では包皮が欠如しています。
④下裂がひどいケースほど、陰嚢の皮膚や皮下組織も左右に二分したものになります。こうした場合や、精巣(せいそう)を触れることができないような場合は、半陰陽(はんいんよう)(「真性半陰陽」)とまぎらわしいため、性染色体検査などを行ないます。
[治療]
 亀頭部下裂はほとんど手術を行ないません。それ以外では、障害の程度により、さまざまな手術が行なわれています。基本は、手術によって、正常な排尿と将来の性生活が可能になるように矯正(きょうせい)することです。
 すなわち、①陰茎の屈曲を治す、②足りない尿道をつくる、③外尿道口・亀頭を整形・形成する、④陰嚢の変形を治すことになります。最近は、これらを1回の手術で行なうことも多く、成功率も向上しています。
 しかし、手術しても、思わぬところに尿道口ができたり、尿道口の狭窄(きょうさく)がおこったりして、再手術を必要とすることもあります。早めに泌尿器科(ひにょうきか)の小児専門医を受診して、正確な診断を得た後に、時期をみて手術を受けます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿道下裂」の意味・わかりやすい解説

尿道下裂
にょうどうかれつ

かなり多くみられる尿道の形態異常で、外尿道口が陰茎下面に開口しており、その位置により次の三つに大別される。(1)亀頭(きとう)部下裂 もっとも軽度なもので、ほとんど障害はない。(2)陰茎部下裂 外尿道口が冠状溝より後方で陰茎の下面に開口しており、本来尿道のある部分は索状物chordeeのためにひきつられて陰茎が下方に屈曲変形し、立位での排尿が困難であったり、性交不能のこともある。(3)陰嚢(いんのう)および会陰(えいん)部下裂 外尿道口が陰嚢あるいは会陰部に開口するため、陰嚢は二分されて陰唇のようにみえることがある。陰茎は著しく下方に屈曲しており、立位での排尿や性交は不可能である。会陰部下裂の場合は男性(仮性)半陰陽との鑑別が必要で、腟(ちつ)が存在すれば男性半陰陽である。

 治療としては、外科的に、陰茎を下方に屈曲させている索状物を除去(索切除術)し、陰茎あるいは陰嚢の皮膚を利用して尿道形成術を行う。索切除術と尿道形成術を一期的に行う方法と二期に分けて行う方法があるが、いずれにしても、遅くとも就学以前に手術を完了するようにするのが望ましい。この手術は育成医療の対象になっている。

 なお、尿道下裂とは反対に、外尿道口が陰茎の背面に開口している形態異常を尿道上裂といい、高度の場合には膀胱(ぼうこう)外反症を伴う。

[白井將文]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿道下裂」の意味・わかりやすい解説

尿道下裂
にょうどうかれつ
urethral hypospadia

男性の尿道の先天的奇型。外尿道口が亀頭の先端に開口せずに,軽度では陰茎の腹面 (下面) ,より高度では陰嚢部,ときに会陰部に開口している。また,尿道の開口部より先の陰茎が腹側に曲っているが,包茎はなくて亀頭が露出しているのが特徴である。高度の尿道下裂では陰嚢が左右に割れ,女子の陰裂のように見えるため,出生時に女児と誤認されることもある。しばしば停留睾丸を合併し,その一部は腟があるため,半陰陽に分類される。

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世界大百科事典(旧版)内の尿道下裂の言及

【半陰陽】より

…睾丸要素の多寡によって,性器の外形は男性に近いものから女性に近いものまでさまざまである。一般には,陰茎は陰核のように小さく,尿道はその先端に開口せず女性のように陰茎の基部に開口している(尿道下裂)。陰囊の発育は悪く,一見大陰唇のようにみえる。…

※「尿道下裂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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