中学生の生活記録集。無着成恭(むちゃくせいきょう)(1927―2023)編。1951年(昭和26)青銅社刊(1956年『新版・定本山びこ学校』百合出版刊)。山形県山元村(現、上山(かみのやま)市)山元中学校の学級文集『きかんしゃ』の作品を中心に編まれた実践記録文集で、学級全員43名の散文、詩、日記、版画などが収められている。日教組文集コンクールで文部大臣賞を受賞した江口江一(えぐちこういち)(1935―1967)の作文『母の死とその後』などが代表的。貧しい山村の実生活のなかで、子どもたちが感じる疑問を率直に取り上げ、学級で話し合い、ときにはデータを調べて書いたもので、担任の無着成恭は「あとがき」で「私は社会科で求めているようなほんものの生活態度を発見させる一つの手がかりを綴方(つづりかた)に求めた」「貧乏を運命とあきらめる道徳にガンと反抗して、貧乏を乗り超えて行く道徳へと移りつつある勢いに圧倒され」たと述べている。綴方を書くことによって自分たちの貧しい生活や現実社会に対する鋭い洞察力と論理的な思考力を養い、豊かな村づくりを目ざして率直に自分の考えを述べ合う子どもたちを育て上げたところに、綴方教育を超えた人間教育があったと評価され大きな反響をよんだ。生徒の一人佐藤藤三郎(とうざぶろう)(1935― )は農業問題評論家、地域のリーダーとして活躍。
[西田良子]
『『山びこ学校――山形県山元中学校の生活記録』増補改訂版(1987・百合出版)』▽『『山びこ学校』(角川文庫・岩波文庫)』
山形県山元村(現,上山市)の山元中学校生徒による生活記録文集。中学2年の生徒43名(1949年度)が農山村の生活に密着した学習を展開するなかで生まれた綴方作品を,教師の無着成恭(1927- )が編集,1951年3月に刊行された。その現実を直視した鋭い社会認識と集団的な教育実践は教育界のみならず,文学,芸術,思想にわたる社会的関心を呼び,のち映画化(1952),演劇化され,翻訳も行われるほどであった。無着は,〈新教育〉にもとづく社会科学習の非現実性を批判し,貧困と封建性にあえぐ農民の苦しみを綴方で表現させながら,その生活矛盾を解決する方途を集団討議の形で考えさせた。本書の刊行は戦後日本の教育実践の一つの方向を示したものといわれ,同年刊行の寒川道夫編・大関松三郎詩集《山芋》や国分一太郎《新しい綴方教室》とともに1950年代の生活綴方の復興を促し,学校の枠をこえて農村,職場の生活記録運動を起こす契機となった。
執筆者:碓井 岑夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…高校では,その後63年から〈倫理・社会〉,82年からは〈現代社会〉,中学校では1969年の学習指導要領改訂で〈公民〉がそれぞれ科目として登場した。 一方,学習指導要領にしたがう社会科を批判する研究・実践は1950年代からさかんとなり,中学生の詩文集《山びこ学校》(1951)も,本来の社会科教育をめざしてつづり方を活用した指導の成果である。このように社会科をめぐる見解はわかれており,それによって実践も多様である。…
※「山びこ学校」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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