旧陸海軍の統帥機関が統帥事項(軍令事項)に関して首相(国務大臣)の輔弼(ほひつ)を経ずに直接天皇に上奏すること。帷幄とは,陣営に用いる幕の意から転じて,作戦計画をする場所を意味した漢語。その実質は法制化される以前,1878年の参謀本部の太政官政府からの独立で始まり,85年太政官制廃止にともなう内閣職制によって参謀本部長の帷幄上奏権が認められていた。明確に法制化されたのは89年の内閣官制で,〈事ノ軍機軍令ニ係リ奏上スルモノハ天皇ノ旨ニ依リ之ヲ内閣ニ下付セラルノ件ヲ除クノ外陸海軍大臣ヨリ内閣総理大臣ニ報告スヘシ〉(7条)と明記された。これは首相を経ないで軍令機関が直接天皇に帷幄上奏をなすことを認めたものである。おおむね,軍機事項とは作戦計画,防御計画,戦時兵力,諜報などで,軍令事項とは教育,検閲,紀律,人事などである。帷幄上奏する機関は,陸軍の参謀総長,海軍の軍令部総長,教育総監,軍事参議院(元帥,参謀総長,軍令部総長,陸海軍大臣,とくに軍事参議官に親補された陸海軍将官によって構成),陸軍大臣,海軍大臣である。このうち陸海軍大臣は内閣の一員として政務の機関であるが,同時に統帥の機関としての地位も併有していた。それゆえに両大臣は大将あるいは中将に限られ,かならずしも他の国務大臣と進退をともにしない慣習が生じた。そのため二重政府といわれる原因にもなった。なお侍従武官長は帷幄上奏の奏上,伝達にあたった。
→統帥権
執筆者:雨宮 昭一
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近代天皇制(明治憲法)下で、軍機・軍令に関して内閣から独立して行われた上奏をいう。陸軍参謀総長、海軍軍令部長、教育総監等軍務の中央機関と陸海軍大臣が行った。帷幄とは、軍を指揮し作戦をめぐらす本陣のことで、陸海軍を統帥する大元帥である天皇に対して、軍務の中央機関が行う上奏であることから、戦陣にちなんで帷幄上奏と通称された。陸海軍大臣の帷幄上奏は、1889年(明治22)内閣官制第7条で制度化され、軍機・軍令に関する事項は、内閣の議を経ずに直接上奏し、裁可を得たのち内閣総理大臣に報告すると定められた。一般の大臣は、内閣総理大臣を経て、あるいはその許可を得て上奏することとなっていたから、陸海軍大臣は特例として独立の上奏権を認められていたことになる。しかし、軍機・軍令の範囲は明確ではなく、陸軍は、軍政に関する事項をも含め、軍事行政官庁、軍学校の組織に関する事項も帷幄上奏事項とした。海軍も陸軍に倣って帷幄上奏事項をしだいに拡大したため、帷幄上奏をめぐって陸海軍と内閣の間で紛争が起こった。帷幄上奏の結果、天皇が発した直接の命令は、「勅を奉じ……を命令す」という形式で伝達され、奉勅命令と称された。
[村上重良]
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軍機軍令を扱う統帥機関の長と陸海軍大臣が,内閣とは別個に天皇に上奏すること。帷幄とはとばりをめぐらした場所のことで,最高指揮官の本営をいう。本来なら閣議または総理大臣の了解をえたうえでなされるはずの軍政上のことがらについても,内閣と軍部が意見を異にした場合などに,軍部大臣が独自に反対意見を上奏してしばしば問題となった。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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