デジタル大辞泉
「幣」の意味・読み・例文・類語
ぬさ【▽幣】
1 祈願をし、または、罪・けがれを払うため神前に供える幣帛。紙・麻・木綿などを使う。みてぐら。御幣。幣帛。
2 旅の無事を祈って贈るもの。はなむけ。
「さて東に帰り下るころ、上下色々の―多かりしなかに」〈増鏡・新島守〉
み‐てぐら【▽幣/幣=帛】
《「御手座」の意という。「みてくら」とも》神に奉納する物の総称。布帛・紙・玉・兵器・貨幣・器物・獣類など。また、のちには御幣をもいう。幣束。幣帛。ぬさ。
へい【幣】
1 神前に供える布帛。みてぐら。ぬさ。
2 貢ぎ物。礼物。
3 紋所の名。御幣を図案化したもの。
まい〔まひ〕【▽幣】
謝礼として贈る物。また、神に供える物。まいない。
「若ければ道行き知らじ―はせむしたへの使ひ負ひて通らせ」〈万・九〇五〉
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ぬさ【幣】
- 〘 名詞 〙
- ① 神に祈る時にささげる供え物。麻・木綿(ゆう)・紙などで作った。後には織った布や帛(はく)も用いた。旅に出る時は、種々の絹布、麻、あるいは紙を四角に細かく切ってぬさぶくろに入れて持参し、道祖神の神前でまき散らしてたむけた。後世、紙を切って棒につけたものを用いるようになる。みてぐら。にきて。幣帛(へいはく)。御幣(ごへい)。
幣①〈信貴山縁起〉
- [初出の実例]「山科の 石田の社の 皇神に 奴左(ヌサ)取り向けて 吾れは越えゆく 相坂山を」(出典:万葉集(8C後)一三・三二三六)
- 「このたびはぬさもとりあへずたむけ山紅葉の錦神のまにまに〈菅原道真〉」(出典:古今和歌集(905‐914)羈旅・四二〇)
- ② 旅立ちの時のおくりもの。餞別。はなむけ。
- [初出の実例]「みちの国の守平のこれみつの朝臣のくだるに、ぬさのすはまの鶴のはねにかける」(出典:貫之集(945頃)八)
幣の語誌
( 1 )神に捧げる供物をいうが、本来は供物の意味をもたない「しで(四手)」や「みてぐら」という言葉とも混同が起こったと考えられている。「みてぐら」は「霊異記」においてすでに供物として用いられており、混同が起こったとすると、その時期はかなり早いと思われる。ただし、「ぬさ」は普通、旅の途上で神に捧げる供物をいうのに対して、「みてぐら」は必ずしも旅に関係しないという傾向が見られる。
( 2 )供物を捧げる行為の面を名詞化した「たむけ」とも「万葉」のころから類義関係にある。
へい【幣】
- 〘 名詞 〙
- ① 神前に供える幣帛(へいはく)。白色または金、銀、五色などの紙を段々に切り、竹や木の幣串(へいぐし)にはさんだもの。神前に供えたり、神主が祓(はら)いの時に用いたりする。みてぐら。ぬさ。ごへい。
- [初出の実例]「奠二幣案上一神三百四座」(出典:延喜式(927)一)
- 「だんに五色のへいをたて、やくしの法をおこなひければ」(出典:虎明本狂言・釣狐(室町末‐近世初))
- ② 天子にささげる物品。服従のしるしとして献上する財物。みつぎもの。また、広く一般に、他人に贈る物品。つかいもの。進物。
- [初出の実例]「幣(ヘイ)を重し、礼を厚して召れけれ共、孔明敢て勅に応ぜず」(出典:太平記(14C後)二〇)
- [その他の文献]〔史記‐秦本紀〕
- ③ 紋所の名。①を図案化したもの。神宮幣、丸に幣などの種類がある。
神宮幣@丸に幣
み‐てぐら【幣・幣帛】
- 〘 名詞 〙 ( 「御手座(みてぐら)」の意という ) 神に奉納する物の総称。布帛・紙・玉・兵器・貨幣・器物・獣類など。また、後には、御幣。幣束。幣帛(へいはく)。ぬさ。
- [初出の実例]「天皇見て恐り、偉(たたは)しく幣帛(ミテクラ)を進り。〈興福寺本訓釈 幣帛 上音弊反 下音百反 二合彌天久良〉」(出典:日本霊異記(810‐824)上)
まいまひ【幣】
- 〘 名詞 〙 謝礼として奉るもの。また、神への供え物。幣物(へいもつ)。贈り物。まいない。
- [初出の実例]「河神、祟りて、吾(やつかれ)を以て幣(マヒ)と為り」(出典:日本書紀(720)仁徳一一年一〇月(前田本訓))
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
普及版 字通
「幣」の読み・字形・画数・意味
幣
常用漢字 15画
(旧字)
15画
[字音] ヘイ
[字訓] きぬ・ぬさ・おくりもの・かね
[説文解字]
[字形] 形声
声符は敝(へい)。〔説文〕七下に「帛(きぬ)なり」とあり、神に供える「ぬさ」をいう。〔周礼、天官、大宰〕「祀るの日にんで、玉・のことを贊(たす)く」とみえる。幣物は帛に限らず、玉・馬・皮革の類や、また財貨を用いることもあった。のち貨幣の意となる。
[訓義]
1. きぬ、ぬさ、しで、みてぐら、神にささげるもの。
2. おくりもの、みつぎもの。
3. 公用の品、弔葬の品。
4. たから、かね、ぜに。
5. 敝と通じ、やぶれる。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕 美天久良(みてぐら) 〔名義抄〕 ミテグラ/大 オホミテグラ
[語系]
biat、帛beakは声近く、には古くは束帛を用い、ときに玉を加えることがあった。
[熟語]
幣役▶・幣貨▶・幣器▶・幣儀▶・幣錦▶・幣献▶・幣貢▶・幣財▶・幣使▶・幣齎▶・幣招▶・幣銭▶・幣馬▶・幣帛▶・幣物▶・幣聘▶・幣余▶・幣用▶・幣賂▶
[下接語]
貨幣・器幣・享幣・金幣・遣幣・厚幣・香幣・歳幣・財幣・使幣・紙幣・資幣・贄幣・受幣・授幣・重幣・承幣・上幣・職幣・正幣・泉幣・銭幣・造幣・楮幣・珍幣・通幣・幣・刀幣・納幣・皮幣・聘幣・奉幣・宝幣・用幣・量幣・礼幣
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世界大百科事典(旧版)内の幣の言及
【幣帛】より
…神にたてまつるものの総称。幣(ぬさ),〈みてぐら〉(充座の意),〈いやじり(礼代)〉ともいう。一般に神饌に対して布帛の類を幣帛ということもある。…
※「幣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」