改訂新版 世界大百科事典 「建築金物」の意味・わかりやすい解説
建築金物 (けんちくかなもの)
建築に使用される金属部材のうち,構造材,屋根等の被覆材,配管設備機器等に用いられるもの以外をいう。釘,蝶番(ちようつがい)/(ちようばん),把手(とつて)などがその典型であり,実用本位のものと装飾性を重視したものに大別され,前者を機能金物,後者を装飾金物と呼ぶことがある。
→建築装飾
西洋
建築金物の使用は,前5000年のエジプト時代に銅製の家具用金物の使用例が見いだされるほどに古く,ブロンズ(青銅)も前4000年ころにはピラミッド内部で棒材として使用され,鉛も前3000年ころから使用されていた。ギリシア建築では,石材を緊結するためにブロンズ金具を埋め込み鉛で固定する手法がしばしば用いられた。この種の構造補強材としての建築金物は石造,煉瓦造の建築にはきわめて多用される。建築の表面に現れる金物としては飾釘,蝶番,掛金具,飾板や飾縁などがある。これらには銅,ブロンズ,シンチュウが用いられることが多い。鉄を用いる場合には鍛鉄製品がはじめは多く用いられ,ゴシック教会の装飾上の魅力のひとつとなった。産業革命により安価な鋳鉄の製造が可能になると,建築金物の中心は鋳鉄製品となり,手すり,バルコニーなど大型の製品が多量に供給された。19世紀には多くの建築金物が機械生産されるようになり,カタログによる発注・使用という方式が定着し,同時に建築金物以外の構造材等における金属製品の使用範囲も飛躍的に拡大した。やがて近代建築の成立とともに,建築金物は装飾金物としての表現よりも,機能金物としての性能向上に努力が向けられるようになり,また建築材料の生産も工業化したため,機能金物の種類が一挙に増加した。かつては,カタログは同じ機能をもつ金物の意匠の違いを選択するものであったのが,現在では必要とされる機能をもつ製品検索のためのものとなっている。
執筆者:鈴木 博之
日本
日本建築における金物は,構造用の補強金物,装飾用の飾金具(錺(かざり)金具),実用的な建具の支持金具や戸締め金具,建物を荘厳(しようごん)するための屋上飾,軒風鐸(のきふうたく),高欄擬宝珠(こうらんぎぼし)などに分けられる。補強金物は,長押(なげし),垂木(たるき),裏板などを打ち止める釘,扉板など厚い板をはぎ合わせる合釘(あいくぎ),床板や縁板を裏から根太(ねだ)に引きつける目鎹(めかす),二つの材を引き合わせる鎹(かすがい)などがあり,古代から用いられている。釘は一般に和釘と呼ばれるもので,断面が正方形をしており,頭部に特徴がある。古代にはさまざまな形のものがあって,法隆寺金堂や五重塔では大小数十種類の釘が用いられていたが,中世以降は頭部を平たく巻いた巻頭(まきがしら)が多くなる。合釘は板のはぎ合せに用いる幅の広いもの,垂木を桁にとめる断面正方形の細長いものなどがある。醍醐寺五重塔の扉板に用いられていた合釘は,中央に段があって左右で幅が違い,この段をたたいて片方の板に打ち込むようになっている。目鎹はL字形をしていて,短い鎹状の方を板に打ち込み,他方の平らで穴のあいた方を根太へ釘止めとする。鎹は断面が正方形のものと平らなものとがある。このほか近世になると,垂木を桔木(はねぎ)から吊るボールトに似た吊り金具が用いられる。これらはいずれも鉄製で,1本ずつ鍛造される。
飾金具は多くの種類があり,形や使用個所,用途などによって種々に分けられ,呼名が異なる。扉の唄金具(饅頭金具,乳金具)や長押の六葉などの釘隠(くぎかくし)は,留釘の先や頭を隠すためのまったく装飾用のものである。扉の散金具(ちらしかなぐ)や長押,茅負(かやおい),破風板などの隅や中央に打った金具も装飾用ではあるが,そのうち板扉の隅金具,桟唐戸(さんからど)の辻金具,茅負の留金具,破風板の拝み金具などは元来は補強的な意味もあったのだろう。垂木や隅木などの木口金具は,木口の風食を防ぐため,板扉の八双金具は軸元の板の割れを防ぐため,また扉の軸穴に打つ藁座(わらざ)金具は開閉による磨滅を防ぐための補強を兼ねている。また,襖(ふすま)の引手金具は装飾を兼ねた実用の金具である。これらの飾金具は銅の平板を用いることが多く,古代のものは忍冬(にんどう)や宝相華(ほうそうげ)の唐草文を透彫(すかしぼり)としたが,中世以降は透彫が廃れ,宝相華や牡丹の唐草文をはじめ,種々の植物文,蝶などの動物文,熨斗目(のしめ)文などを線刻し,地肌に魚々子(ななこ)打ちをするのが普通である。表面には鍍金(ときん)または金箔押しをしたものが多い。また,鉄材を用いることもあり,その場合には黒漆を焼き付けるのが普通である。近世の釘隠や引手金具には異種の金属を象嵌したものや七宝焼のものもある。法隆寺玉虫厨子はいたるところに飾金具を打っているが,それらは唐草文を透彫して,さらに毛彫を施した精緻なものである。中尊寺金色堂内部の四天柱回りや須弥壇(しゆみだん)には瑠璃玉(るりだま)をはめ込み,宝相華唐草を透彫し,毛彫を加えて鍍金し,地肌に緑青を塗った華麗な飾金具が打たれている。近世の例では,二条城二の丸御殿で種々の文様を打ち出したり線彫したりして鍍金を施し,地肌には黒漆を塗った豪華な飾金具を内外に打ち付けている。また,桂離宮では趣向を凝らした意匠の釘隠や引手を用いている。
蔀戸(しとみど)の吊り金具と引掛金具,扉の軸摺(じくずり),蝶番,肘金(ひじがね)・肘壺(ひじつぼ)などの支持金具,落しコロロや海老(蝦)(えび)錠などの戸締め金具,あおり止め金具などは実用的な金具として欠かせない。これらは銅または鉄の鍛造品である。塔の相輪,円堂や宝形造の露盤宝珠,高欄親柱の擬宝珠,隅木に吊るした風鐸などは建物を荘厳するものであるとともに,それ自体建物の一部となっている。なかでも相輪は塔であることの意義を示す重要な部分であり,その大きさや意匠は塔全体の比例や美しさを左右する大きな要素となる。これらは銅製の鋳造品が普通で,ときには鉄製のものもある。塔の相輪では天人と雲をあしらった見事な意匠の水煙をもつ薬師寺東塔のものがよく知られている。
執筆者:浜島 正士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報