生物における遺伝形質の現れ方が性によって異なるもののなかで、性染色体上の遺伝子によらない遺伝様式をいう。アメリカのR・B・ゴルトシュミットによって名づけられた(1920)。性によって遺伝形質の現れ方が異なるもののなかで、性染色体上の遺伝子によるものは、伴性遺伝sex-linked inheritanceといって区別される。従性遺伝は常染色体上の遺伝子によって支配されながら、性による体質や生理活性の相違、とくにホルモン作用の差異などによって、形質の現れ方が性によって異なる。ヒトの若はげやレーベル視神経萎縮症(いしゅくしょう)(10代から30代にかけて発症。女性より男性に多く、必ず母のほうから伝わる。中心暗点を伴う視力低下で発症し、通常1年以内に高度の視神経萎縮をきたす。視力は0.1以下となる。常染色体性で、病遺伝子の入る精子に欠陥があるらしい)、先天性生毛不全症など、また鳥の羽毛の雌雄差、ウシやヒツジの角(つの)の有無などがその例である。
ヒトの若はげは、若いときから前頭部がはげ出すもので、常染色体上にその遺伝子があり、男性では顕性遺伝子として働き、女性では潜性遺伝子として働く。したがって、男性ではこの遺伝子がヘテロでもはげるが、女性では正常になる。女性でもまれにはげるのは、この遺伝子がホモになった場合である。また先天性生毛不全症という全身の毛、ことに頭髪が際だって少なく子どものころから老人のように見える遺伝病は、若はげと反対に女性に多く、女性ではヘテロでこの症状が現れ、男性では正常になる。そのほか、レーベル視神経萎縮症は女性より男性に多く、また、かならず母の系統から遺伝される。
[黒田行昭]
『田中義麿著『基礎遺伝学』(1951・裳華房)』▽『駒井卓著『人類の遺伝学』(1966・培風館)』▽『安田徳一著『人のための遺伝学』(1994・裳華房)』