明治期から太平洋戦争終結にいたる時期に重大な国策決定のため天皇臨席のもとに開催された最高会議。官制上天皇の臨席が定められていたのは枢密院会議だけであるが,天皇は議事を聴取するのみで発言しないのが慣例であった。しかし明治天皇は,日清戦争前後から日露戦争の時期には大本営会議はもとより,法制上規定のない元老会議,元老と主要閣僚の合同会議,またはそれに参謀総長や海軍軍令部長を加えた会議に出席した。大正期から昭和初期までは枢密院会議以外の御前会議は開かれなかったが,日中戦争の開始にともない大本営と大本営政府連絡会議が設置され,1938年1月以降,日中戦争の根本処理方針,日独伊三国同盟締結,日米交渉,太平洋戦争の開戦と終結などの最高国策を決定するための御前会議が1年に数回開かれた。その構成員は,大本営政府連絡会議のメンバー(主要閣僚と陸海軍統帥部首脳)のほか,ときには枢密院議長や全閣僚が出席することもあった。これらの御前会議には,大本営政府連絡会議や閣議で実質討議がおこなわれた案件がかけられた。天皇は直接に意志を表明することを避けたが,これは,天皇の権威を背景としての最終的国策決定(聖断)であると同時に,天皇の政治的責任をあいまいにするはたらきをもっていた。44年8月5日に設置された最高戦争指導会議の場合も,重要案件の審議には天皇が臨席したが,ポツダム宣言受諾決定のおりのように,出席者の意見が分裂し天皇が裁断をくだすような事態は異例なことであった。
執筆者:木坂 順一郎
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重大国事に際し、天皇臨席の下に宮中で開かれた最高会議。法制上の規定はないが、緊急な重要政策の決定に際して開催された。明治期には日清(にっしん)・日露戦争の開戦、講和などで、元老を中心に主要閣僚、参謀総長、軍令部長が出席して開かれた。大正期には開かれなかったが、昭和期には日中戦争の拡大に伴い、1938年(昭和13)1月に開催され、「支那(しな)事変処理根本方針」を決定した。その後、日独伊三国同盟決定、太平洋戦争開戦の決定をはじめ日本敗戦に至るまでしばしば開かれた。これらの御前会議の出席者には、大本営政府連絡会議、最高戦争指導会議の構成員に、枢密院議長がとくに加えられたが、審議の実体は両会議の決定議案を追認するにすぎなかった。天皇の出席は会議の決定に最高権威を与える役割を果たし、天皇は通例、質問のほかは発言しないものとされたが、1945年(昭和20)8月14日の御前会議では、天皇の「聖断」でポツダム宣言受諾が最終的に決定された。
[粟屋憲太郎]
第2次大戦終了まで天皇が出席して開かれた会議。開戦・講和の可否,戦略・対外政策決定などの重要国務を審議した。元老院会議,枢密院などの常設会議への出席のほか,日清・日露両戦争の際の大本営会議,日中戦争・太平洋戦争の際の大本営政府連絡会議は時に応じて御前会議となることが多かった。大本営政府連絡会議(御前会議)の構成者は首相・蔵相・外相・内相・陸相・海相・企画院総裁・参謀総長・軍令部総長で,議題によって枢密院議長・参謀次長・軍令部次長・興亜院総務長官・外務省欧亜局長なども出席した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…アメリカやフランス等の大統領主宰型閣議はこの伝統の延長にある。天皇の閣議臨御は明治憲法体制発足後まれになるが,1945年の敗戦まで宮中で開かれた御前会議は閣議臨御の一変種とみることができる。君主が閣議に出席しなくなる理由として,一般には,国家行政の膨張,議会制や国民意識の伸張,政党制の定着,君主個人の政治能力の不安定等が挙げられ,とくに日本の場合,臣下に統治実務をゆだねることを名君の条件とする儒教的伝統がヨーロッパの立憲王政論と習合したという事情もある。…
…日中開戦後国務(政府)と統帥(陸軍参謀本部と海軍軍令部)の矛盾対立,政戦両略の不一致に悩んだ近衛文麿首相は,首相の大本営出席を要求したが軍部に拒否され,政府はやむなく1937年11月20日大本営設置と同時にこの会議を設置した。おもな構成員は首相,外相,蔵相,陸相,海相,参謀総長,軍令部総長などであり,必要に応じて他の閣僚や枢密院議長などが出席し,とくに重要国策決定のさいには天皇が出席する御前会議として開催された。軍部が統帥事項を議題とすることに反対したため,政戦両略の一致はならず,38年1月以後は開催が中断された。…
※「御前会議」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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