花コウ岩質岩石の石材名。本来は兵庫県六甲山麓(御影地方)に産する花コウ岩の石材名であったが,現在,建築や石材の分野では,花コウ岩だけでなく,セン緑岩,斑レイ岩,セン長岩など完晶質の深成岩のすべてを指して用いられる。このため,御影地方に産する本来の御影石を本御影と呼んで区別することがある。御影石ではさらにその色調によって分けた白御影,桜御影,赤御影,黒御影などの呼称が広く行われている。白御影は日本で普通にみられる黒雲母花コウ岩の類,桜御影はその長石が桜色をしているもの,赤御影はカリ長石を多量に含む赤い色調の花コウ岩であるが,黒御影は有色鉱物を含むセン緑岩や斑レイ岩,セン長岩の一部などを指している。この点は外国語の用法も同じで,英語でもblack graniteなどと呼んでいる。組成鉱物が違い色合いは異なるものの,これら各種の御影石は物理的性質がほぼ同様で,加工方法もまったく同じである。
このうち白御影や桜御影は日本で使われているものの大半が国産であり,関東や瀬戸内海の島々で産し,建築,墓石用のほか,安価なものは土木用の割材として広く使用されているが,赤御影はすべてが輸入材であり,高価なので建築の内外装,敷石などの装飾用目的にのみ用いられる。産地はブラジル,アメリカ,カナダ,スウェーデン,フィンランド,インドなど,安定大陸の先カンブリア時代の楯状地である。赤御影は日本では珍しいが,これらの産地,たとえばスウェーデンでは,花コウ岩といえば赤を連想するくらい,ごく普遍的に存在している。このほか石英の色も濃く,赤やピンクと濃灰色との中間的色調を呈する御影石もあるが,これも輸入材である。
黒御影は日本での産出は少ない。福島県や山口県で産するが,白御影に比べれば採石場の規模は小さく,墓石用の小さな角材を産するにすぎない。黒御影の需要としては墓石材が最大であるが,今日ではそのほとんどがインド,南アフリカ,スウェーデンからの輸入原石である。より大きな原石を必要とする建築用石材については,第2次大戦直後の時期までは国産材であったが,以後はすべて輸入材と変わり,南アフリカ,ブラジル,アンゴラ,カナダ,スウェーデンからの原石が利用されてきた。これらの産地も赤御影と同じく,安定大陸の先カンブリア時代の楯状地である。黒御影は熱膨張係数がきわめて小さく,精密工業で測定用に利用される精密定盤や,精密機械の台座としての需要もしだいに伸びてきている。
珍しい御影石に,ラルビカイトlarvikite,laurvikiteと呼ばれるノルウェー,ラールビク産のセン長岩がある。遠くからでは黒御影にしか見えないが,近くに寄るとその結晶が光を反射して輝き,見る角度によって輝きを放つ結晶が変わっていく。これは特殊なアルカリ長石で,宝石のムーンストーンと同じものである。青と濃緑のものとがあり,ブルーパール,エメラルドパールという石材名で呼ばれているが,ともに御影石としては最も高価な石である。セン長岩としてはこのほか,ポルトガル,モンシケ産の,やや茶色を帯びた濃灰色のものが輸入されている。旧第一勧業銀行本店(東京),日本銀行大阪支店などのように,ビルの全面外装に使われることも多く,建築用の輸入御影石では,使用量の最も大きなものである。
御影石の輸入が本格化して,赤御影や黒御影がなじみのある存在となったのは第2次大戦後,とくに高度成長期からである。当初は日本に産出しない,あるいは産出の少ない赤と黒に限られていたが,日本での人件費の上昇につれて採石コストが上がり,今では白御影や桜御影のようなありふれたものも,韓国,中国,ブラジル,スペイン,ポルトガル,アメリカ合衆国などから大量に輸入されるようになった。採石場で割っただけで使用される土木用材を除いて,工場で建築用,墓石用などに加工されるブロック(角材)のみを考えれば,輸入が国産を上回っている。
→石材
執筆者:矢橋 謙一郎
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花崗(かこう)岩や花崗閃緑(せんりょく)岩の石材名。兵庫県六甲(ろっこう)山南麓(ろく)、神戸市東灘(ひがしなだ)区御影地方で採石される花崗岩の石材を御影石とよんだのが始まりで、それが花崗岩や花崗岩の石材の通称となった。この種の石材を多量に産する地域は、東北日本では阿武隈(あぶくま)山地から筑波(つくば)山塊にかけて、西南日本では岡山県から広島県の南部、瀬戸内海周辺の島々である。普通は産地名をつけて、稲田御影や北木(きたぎ)御影などとよばれる。そのため御影地方のものは、本(ほん)御影とよばれ区別されている。本御影は中粒の黒雲母(くろうんも)花崗岩で、肉紅色のカリ長石を含むため肉紅色を呈し、御影石のなかでもっとも美しいとされるが、風化が著しく大材が得られないため、残塊が採石され石灯籠(どうろう)などの細工や彫刻に利用される。また、閃緑岩や斑糲(はんれい)岩なども御影石とよばれることがあって、その色が黒っぽいために黒御影といわれる。
御影石の外観は構成鉱物の結晶粒の大きさの違いで異なり、山口県の徳山石のように粗粒なものと、香川県の庵治(あじ)石のように細粒なものとがある。また含まれる鉱物の種類と量によりいろいろな色調のものがあり、斜長石が多く白色の白御影(しろみかげ)(茨城県の稲田御影)、カリ長石の多い淡紅色を帯びた桃色御影または淡紅御影(神戸市の本御影、岡山県の万成(まんなり)石、福島県の桜御影)、黒雲母・角閃石・輝石などの有色鉱物が多い黒御影(福島県の浮金(うきがね)石、岩手県の折壁(おりかべ)石)などがある。採石には節理と俗に石目(いしめ)という割れやすい面が利用される。石英と長石の膨張率が違うため耐火性にやや劣り、風化にも比較的弱いという欠点があるが、堅硬で美しい外観をもち大材が得られやすいために、建築・土木用石材としてもっとも広く利用されている。
[斎藤靖二]
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