花コウ岩(読み)かこうがん

改訂新版 世界大百科事典 「花コウ岩」の意味・わかりやすい解説

花コウ(崗)岩 (かこうがん)
granite

深成火成岩のうち,斜長石,カリ長石石英について,全長石中のカリ長石量=35~90容量%,長石+石英中の石英量=20~60容量%のものをいう。斜長石,カリ長石,石英,黒雲母からなり,そのほか角セン石,白雲母を含むことがある。粗粒,完晶質である。石材としては,花コウ岩のほか粗粒の深成岩を含めて御影石と呼ばれ,広く利用される。著名な石材に稲田石,岡崎石,万成石などがある。

石英5容量%以上の深成火成岩を花コウ岩類という。石英セン緑岩,石英モンゾセン緑岩,石英モンゾニ岩,トナライト,花コウセン緑岩,花コウ岩が含まれ,花コウ岩よりマフィック-石灰質な深成岩を包括する。したがって斜長石,角セン石,黒雲母の量比が増大し,輝石もしばしば含まれる。花コウ岩類はカルクアルカリ岩系に属し,その成因に関して次の4提案があり,それぞれの相互関係は図のようにまとめられる。

 (1)古典的造山論に基づくもの(リードH.H.Read,1949) 地向斜堆積物が造山運動をうけるときに,(a)堆積物の溶融および超変成作用で生ずる原地性花コウ岩類,(b)溶融物が若干移動して生まれる移動性花コウ岩類,(c)大きく上方に移動貫入して生じる貫入性花コウ岩類,に3分類する。(2)形成深度を基準とするもの(バディントンA.F.Buddington,1959) (1)の(a)(b)(c)にそれぞれ対応して,(a)カタ帯花コウ岩類(13~24km),(b)メソ帯花コウ岩類(6~16km),(c)エピ帯花コウ岩類(8km±)に分類する。原地性=カタ帯花コウ岩類は広域変成帯に産し,片麻岩構造をもつことが多く,花コウ岩化作用論はなやかな時代にはその成因が焦点となった。(3)酸素フュガシティに基づくもの(石原舜三,1975) 花コウ岩類中の磁鉄鉱量0.1容量%を基準に,より多いものを磁鉄鉱系,少ないものをチタン鉄鉱系と分ける。岩石微量成分同位体比においても2者は明瞭に異なり,前者上部マントルを含む深所起源,後者は大陸地殻物質などの浅所起源を有する。日本では両者が相なかばして分布し,磁鉄鉱系は山陰帯,北上高地,グリーンタフ帯に産出する。歴史時代の製鉄原料であった山砂鉄が山陰地方で得られたのはこの花コウ岩類の基本的性質に基づく。チタン鉄鉱系は領家帯,阿武隈高地西部,日高帯などの広域変成帯,山陽帯,西南日本外帯にみられる。日本の著名な石材産地が山陽-領家帯に集中するのは,チタン鉄鉱系がFe-Ti酸化鉱物に乏しく,さびが出にくいことに一因がある。(4)起源物質の相違で分類するもの(ホワイトA.J.R.WhiteとチャペルB.W.Chappell,1979) I(火成岩起源)とS(堆積岩起源)タイプが量的に多く,オーストラリアでは両者がほぼ等量ずつ分布する。A(非造山型)タイプもやや多いが,M(マントル起源)タイプはニューギニアなどの若い島弧に産出する。
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百科事典マイペディア 「花コウ岩」の意味・わかりやすい解説

花コウ(崗)岩【かこうがん】

長石(正長石または斜長石),石英と,それに黒雲母,白雲母,角セン石など有色鉱物がだいたい10%以下伴った優白質で結晶のあらい完晶質の深成岩。有色鉱物や長石の種類によって種類が分かれる。狭義には正長石が全長石の3分の2以上のもの。3分の2以下のものはアダメロ岩,3分の1以下のものは花コウセン緑岩という。有色鉱物がしま状構造を示すものは花コウ片麻岩。花コウ岩は大きな底盤をなし,広域変成帯に広く分布。かつて変成作用でできたという考えもあった(花コウ岩化作用)。同位体元素の研究からマグマ起源説がとられている。化学成分は流紋岩に類似し,ケイ酸が約70%を占める。直角な3方向に節理が発達し,昇仙峡や寝覚ノ床のような奇勝をつくる。堅牢(けんろう)で美しく土木,建築用石材として多用。→ペグマタイト万成(まんなり)石御影石
→関連項目黄山石窟庵南大門ポルト湾レアアース

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化学辞典 第2版 「花コウ岩」の解説

花こう岩
カコウガン
granite

石英,曹長石,カリ長石を主要構成鉱物とし,これに有色鉱物の少量を含む灰白色の完全結晶質深成岩の総称.ラテン語のgranum(粒)にちなんで命名された.有色鉱物としては,雲母角せん石輝石が主要なもので,雲母花こう岩,角せん石花こう岩,輝石花こう岩などと区別している.平均化学組成は,SiO2が60~79% の間にある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の花コウ岩の言及

【庵治石】より

…香川県木田郡庵治町の五剣山(八栗山)西斜面に産する花コウ岩の石材名。結晶が非常に細かく均質で,青っぽく見える。…

【大島石】より

…愛媛県今治市の北,来島(くるしま)海峡を隔てた愛媛県越智郡大島に産する花コウ岩の石材名。比較的細粒で長石が淡青色を帯びているので,やや青っぽく見える。…

【花コウ岩化作用(花崗岩化作用)】より

…花コウ岩とは異なる化学組成と組織をもつ岩石(たとえば砂岩や泥岩)から溶融状態(マグマ)を経ずに物質の出入りによって花コウ岩に変化する一群の過程の総称である。トランスフォーミズムtransformismともいう。…

【火成作用】より

…これらを総称して火成岩とよぶ。地表でみられる火成岩類には多くの種類があるが,そのなかで最も多いのは,玄武岩と花コウ岩である。玄武岩は火山岩の代表的なものであり,花コウ岩は深成岩の代表的なものである。…

【議院石】より

…広島県倉橋島南岸に産する粗粒の花コウ岩の石材名。淡紅色の長石を含むいわゆる桜御影としては,今日,大量に産する唯一のもので,広く土木建築用に利用される。…

【北木石】より

…岡山県笠岡市の北木島,白石島に産する花コウ岩の石材名。中粒で黒雲母があまり目だたず白色を呈するものと,長石がやや淡紅色を帯びた赤水晶と呼ばれるものとがある。…

【深成作用】より

…深成作用によってできる岩石を深成岩と呼ぶ。深成岩にはいろいろな種類の岩石があるが,そのなかでも最も代表的なものは花コウ岩である。花コウ岩は主として,造山帯に広く分布する深成岩であり,時代的には始生代の初期以降いろいろな時代のものがみられる。…

【石材】より

…ある特性はよくても他の特性がきわめて悪いということは珍しくない。たとえば,軟質で吸水性の高い比重1.4前後の凝灰岩は,凍害や風害を受けやすいが,耐火性では1200℃の高熱に耐えられるのに,緻密で硬度の高い比重2.7前後の花コウ岩は600℃の熱で崩壊する。大理石は普通,花コウ岩より弱いと考えられているが,耐火性は強く,石灰化するには800℃の熱を要する。…

※「花コウ岩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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