思春期早発症(読み)シシュンキソウハツショウ(英語表記)Precocious puberty

デジタル大辞泉 「思春期早発症」の意味・読み・例文・類語

ししゅんき‐そうはつしょう〔‐サウハツシヤウ〕【思春期早発症】

第二次性徴が通常よりも早く出現する病態。精子の形成や排卵を伴う場合(真性思春期早発症)と、伴わない場合(仮性思春期早発症)がある。性早熟症。→思春期遅発症

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六訂版 家庭医学大全科 「思春期早発症」の解説

思春期早発症
ししゅんきそうはつしょう
Precocious puberty
(子どもの病気)

どんな病気か

 男性ホルモン、女性ホルモンの分泌による二次性徴の成熟が、早い年齢で起こってしまう病気です。

 女子では、乳房が少しでもふくらんできた時が思春期の開始ですが、乳房の発育が7歳6カ月以前に起こってしまった時、思春期早発症の可能性が高いといえます。乳房発育だけがみられるときは、一時的な女性ホルモンの分泌によると考えられる乳房早期発育症との区別が必要です。

 男子では、精巣(せいそう)睾丸(こうがん))が4ml以上の大きさになった時が思春期の開始ですが、それが9歳未満で起こった時、思春期早発症の可能性が非常に高いといえます。

原因は何か

 中枢性(ちゅうすうせい)末梢性(まっしょうせい)に分類され、中枢性は通常の思春期の時のように下垂体(かすいたい)から性腺刺激ホルモンが分泌され、それにより性腺から性ホルモンが分泌されて起こります。女子に起こるものの多くは原因不明の特発性と呼ばれるものですが、男子に起こるものは脳腫瘍胚芽腫(はいがしゅ)過誤腫(かごしゅ)等)などの器質性の原因が多くみられます。

 末梢性の場合は、性腺または副腎(ふくじん)で性ホルモンがつくられて、思春期早発症が起こります。副腎腫瘍卵巣腫瘍、治療不十分な先天性副腎皮質過形成症(ふくじんひしつかけいせいしょう)や特殊な遺伝子異常によるマックキューン・オルブライト症候群、家族性男性性早熟症(せいそうじゅくしょう)などがその原因です。

症状の現れ方

 性ホルモンが早期に分泌されることにより、成長のスパート(急激な進行)が起こります。成熟が進むと、陰毛の発育、男子では声変わり、女子では月経が認められます。原因が脳腫瘍による場合は、腫瘍の圧迫症状による頭痛・視野狭窄(しやきょうさく)などが起こることがあります。

 未治療で放置すると、骨年齢が促進して骨端(こつたん)が早期に融合するため、最終的に低身長で成長が終わります。

検査と診断

 中枢性思春期早発症の場合は、性腺刺激ホルモンと性ホルモンの基礎値の上昇とともに、LH­RH(黄体(おうたい)形成ホルモン放出ホルモン)テストで性腺刺激ホルモンの思春期レベルの反応が認められます。また、骨年齢が促進し、成長率も高くなります。

 末梢性思春期早発症の場合は、性ホルモンの上昇は認められますが、性腺刺激ホルモンの分泌は抑制されています。

 2歳以前に発症する思春期早発症は、過誤腫またはマックキューン・オルブライト症候群によるものが多く診断されます。腫瘍の場合は、CTまたはMRIによる画像診断を必要とします。

 一過性の女性ホルモンの分泌により、乳房発育(乳房早期発育症)は1歳前後や6~7歳にみられることが多く、思春期早発症との区別を必要としますが、通常は成長率の促進や骨年齢の促進は認められず、性腺刺激ホルモンの上昇も認められません。経過をみていると、自然に乳房が退縮していくものがほとんどですが、何回も繰り返すこともあります。この場合は、自律性卵巣嚢腫(のうしゅ)を考える必要があります。また、自律性卵巣嚢腫の多くは、思春期早発症に移行していくので、注意が必要です。

治療の方法

 末梢性思春期早発症の場合は、原因の腫瘍などに対する治療が第一です。過誤腫は中枢性思春期早発症を示しますが、多くの場合は摘出手術を必要としません。

 中枢性思春期早発症は、LH­RHアナログという薬剤で選択的に性腺刺激ホルモンの分泌を抑えます。月1回の皮下注射です。多くの場合、著しい効果を示し、二次性徴の進行停止・退縮がみられ、骨年齢の進行が緩やかになります。

病気に気づいたらどうする

 低年齢で乳房が大きくなってきた場合や、急に背が伸びてきた場合には、小児内分泌専門医に診てもらってください。

田中 敏章

思春期早発症
ししゅんきそうはつしょう
Precocious puberty
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 思春期早発症とは、年齢に比べて早期に第二次性徴が認められる病気です。男児では9歳未満で精巣、陰茎(いんけい)陰嚢(いんのう)などの発育、10歳未満で陰毛の発生、11歳未満で腋毛(えきもう)、ひげの発生や声変わりが認められた場合、女児では7歳未満で乳房の発育、8歳未満で陰毛の発生、外陰部の早熟や腋毛の発生、9歳未満で初経が認められた場合が基準になります。

原因は何か

 下垂体性(かすいたいせい)ゴナドトロピンの分泌亢進(こうしん)が原因であるものを、真性(しんせい)思春期早発症と呼びます。原因不明の特発性のものが最も多いのですが、視床下部(ししょうかぶ)後部腫瘍(しゅよう)(とくに過誤腫(かごしゅ))による思春期発現抑制機構の障害によって発症することがあります。また、脳・髄膜炎(ずいまくえん)水頭症(すいとうしょう)頭部外傷などのさまざまな脳疾患が原因になる場合もあります。

 一方で、下垂体性ゴナドトロピンとは関連がなく、腫瘍などから分泌される性ホルモンなどの上昇によって発症するものを、仮性(かせい)思春期早発症と呼びます。原因としては精巣、卵巣や副腎の性ホルモン産生腫瘍、先天性副腎過形成(せんてんせいふくじんかけいせい)や、頭蓋内胚細胞腫(ずがいないはいさいぼうしゅ)などからのヒト絨毛性(じゅうもうせい)ゴナドトロピン(hCG)の過剰産生などがあげられます。

症状の現れ方

 男児では精巣の増大、陰茎や恥毛の発育がみられ、女児では乳房の腫大(しゅだい)、恥毛の発育や初経が現れます。第二次性徴の進行に伴って身長、体重や骨年齢の伸びも著しいのですが、早期に骨端線(こったんせん)が閉じるために最終的には低身長になってしまいます。

検査と診断

 骨年齢の測定やホルモン検査、画像検査による腫瘍の検索が必要になります。

治療の方法

 真性思春期早発症のなかで、器質的な脳疾患が原因の場合や仮性思春期早発症の場合は、腫瘍摘出などの原疾患の治療が優先されます。真性思春期早発症のなかで、特発性や手術不能な場合は、ゴナドトロピン分泌抑制作用のあるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)誘導体を投与することで、月経の停止と骨年齢の進行防止を図ります。

菅原 明

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「思春期早発症」の解説

ししゅんきそうはつしょう【思春期早発症 Precocious Puberty】

[どんな病気か]
 二次性徴(にじせいちょう)が異常に早く現われる病気のことです。この病気のおもな問題点は、つぎの3つです。
①早すぎる二次性徴そのものが、年齢や人格の成熟度によっては心理的、社会的な支障になること。
②治療しない場合、最終身長が低く終わる可能性があること。性ホルモン(直接には女性ホルモン)が骨に作用してその成熟をうながすため、早い時期に成長が停止してしまい、最終身長が低くなるのです。
③脳腫瘍(のうしゅよう)が発見されるかもしれないこと。この病気は特発性(とくはつせい)(原因不明)であることが多いのですが、脳腫瘍が原因であることがあります。とくに男子でその率が高いのです。
[症状]
 男子では精巣(せいそう)や陰茎(いんけい)の発育が9歳未満、陰毛発生が10歳未満で始まり、女子では乳房発育が7歳未満、初経(しょけい)が9歳未満で始まるなど、通常よりも二次性徴が早く始まります。思春期にみられるはずの成長スパートもそれにともなって早く始まります。
[検査と診断]
 脳下垂体(のうかすいたい)から分泌(ぶんぴつ)される性腺刺激(せいせんしげき)ホルモンの出方を調べるため、LHRH試験という検査が行なわれます。また、血中、尿中の性ホルモンの測定が行なわれます。
 左手のX線写真による骨年齢(こつねんれい)の促進の有無の判定も行なわれます。器質的な原因を調べるために、頭部MRIなどの画像診断も必要です。
[治療]
 性腺刺激ホルモンの分泌を抑えて性腺(精巣や卵巣(らんそう))からの性ホルモンの分泌を抑制し、二次性徴や骨年齢の進行をくいとめます。
 そのための薬には、点鼻薬(てんびやく)(1日3~6回の鼻腔内噴霧(びくうないふんむ))と注射薬(4週間に1回の皮下注射(ひかちゅうしゃ))がもっともよく用いられています。とくに注射は、効果が確実で日常のわずらわしさが少ないので好まれています。
 治療は、二次性徴が現われてもよい時期までは続けます。
 最終身長がかなり低く終わりそうな場合は、さらに長期間治療をすると有効なことがありますが、専門医とよく相談したうえで行なう必要があります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「思春期早発症」の意味・わかりやすい解説

思春期早発症 (ししゅんきそうはつしょう)
precocious puberty

正常児童と比較して異常に早期に二次性徴が発現した場合をいう。性早熟症とも呼ばれる。一般に8~10歳以前に性早熟が現れた場合をさす。身長,体重の著しい増加とともに,男子では陰茎,睾丸の発達,変声,恥毛,腋毛の発生がみられ,骨年齢bone age(骨の骨化つまり成熟度によって定められる年齢)が高まるが,アンドロゲンの作用により骨端線の閉鎖が起こり,早期に身長増加は停止する。女子の場合,乳房の発達,恥毛,腋毛の発生,性器出血,骨年齢の増加がみられ,エストロゲンの作用による骨端線閉鎖もみられる。子宮出血は無排卵性子宮出血から,しだいに規則的となり,排卵も起こるようになる。

 女児にみられる原因不明のものが最も頻度が高く,特発性思春期早発症と呼ばれる。中枢神経系になんらかの異常があり,これに続発して起こるものは脳性(あるいは続発性とも神経性とも)思春期早発症と呼ばれる。このうち脳腫瘍とくに松果体腫瘍の場合が多い。また,片側性の繊維囊腫性骨病変と皮膚の褐色色素斑に,女児の場合しばしば性早熟を伴うことがあり,マッキューン=アルブライト症候群McCune-Albright syndromeまたは単にアルブライト症候群と呼ばれる。以上の場合の性早熟を真性思春期早発症と呼ぶ。これに対して仮性思春期早発症と呼ばれるものでは,脳下垂体性ゴナドトロピンが抑制されるようなものが含まれる。これらには先天性副腎過形成によるものや,睾丸,卵巣,副腎などの腫瘍によるものがあり,アンドロゲンやエストロゲンが上昇していることが性早熟の原因である。それ以外に,原発性甲状腺機能低下症や,肝臓癌のようなゴナドトロピン(HCG)産生腫瘍に伴うものもみられる。時として,乳房のみ,あるいは恥毛のみ異常に発達する場合もみられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の思春期早発症の言及

【思春期医学】より


[思春期の医学]
 次に頻度の高い病気やとくに注意しなければならない異常を簡単に述べる。(1)思春期早発症(性早熟症) 8~9歳以前に二次性徴が出現し,女性では月経をみるものがある。この病気は初めは身体発育が早いが,まもなく停止して,結果的には低身長に止まる。…

【早熟】より

…一般的には,精神的,肉体的な成熟の度合が漠然と1~2年早めであることをいうが,これは単なる発育の個体差で病的なものとはいえない。しかし,幼児に大人の肉体的徴候が現れるような性早熟は病的なもので,思春期早発症とよばれる。そのほかに数学や音楽など科学的・芸術的才能に非常に早期から秀でるような場合は,早熟というよりむしろ天才とよばれる。…

※「思春期早発症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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