改訂新版 世界大百科事典 「性交不能症」の意味・わかりやすい解説
性交不能症 (せいこうふのうしょう)
男子の場合,性交は性欲の発来に始まり,陰茎の勃起,陰茎の腟内挿入,射精および極致感によって終了する。このいずれが欠けても正常な性交とはいえず,これを広く性交不能症と呼ぶ。原因によって次のように分けられる。(1)陰茎や陰部に解剖学的異常があって陰茎の腟内挿入が障害されるもので,これには陰茎矮小,尿道下裂,陰茎の腫瘍,高度の陰囊腫大などがある。(2)勃起力の低下または消失によるもので,これには脊髄外傷や糖尿病などで勃起の神経が直接障害されたり,睾丸など内分泌腺の異常による男性ホルモンの低下,あるいは特別な臓器の異常は認められず精神的,心理的なものなどがある。(3)射精の異常によるもので,高度の早漏や射精不能などがあげられる。性交不能症はインポテンツとほぼ同義語と考えてさしつかえないが,一般にはこれより広く漠然と用いられることが多い。しかし逆にインポテンツのほうを広義に解釈する者もあり,定義は必ずしも一定しているわけではない。
執筆者:上野 精 女性の場合,広義の性交不能症とは,(1)腟欠損,処女膜閉鎖,処女膜強靱(きようじん),閉経後の腟狭小など解剖学的異常によって陰茎の腟内受入れ自体が不可能なものと,(2)心理的要因などによって十分な性的反応(腟分泌物の増加や極致感)が得られない場合,あるいは異常な反応(腟痙攣(ちつけいれん))が生じる場合に分けられる。強姦など特殊な状況では,女性が十分な性的反応を起こすことなく性交は可能であるが,これは例外的なものである。したがって広義の性交不能症は,性欲の発来に始まり,局所の充血,腟分泌物の増加,陰茎の受入れ,極致感の到来という性交のすべての過程の障害を含むと考えてよい。治療として,解剖学的異常に対しては,造腟手術,処女膜切開などそれぞれの異常に対する処置が行われる。心理的要因による性交障害に対しては,性交や性器に対する誤った知識や恐怖感の除去など心理療法のほか,補助的にホルモン剤やゼリー剤が用いられる。
執筆者:佐藤 孝道
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報