フランスの詩人ボードレールの詩集。1857年刊。101編を収めた初版は、「憂鬱(ゆううつ)と理想」「悪の華」「反逆」「葡萄酒(ぶどうしゅ)」「死」の5章からなる。巻頭の詩「読者に」が、主題は人間の罪深い情況に根ざす倦怠(けんたい)であり、あらゆる手段をもってこれから逃れなくてはならぬことを告げる。詩人の栄光と悲惨が歌われ、ついで、執拗(しつよう)な倦怠に、美への絶え間ない希求、幸福と愛に彩られた時への確信が対抗するといった「憂鬱と理想」との間の揺れが描かれる。悪徳、神への反逆、酔い、死という逃避の試みを待つのはつねに失敗である。だが、人間すべてが悪のなかで生きているにせよ、唯一詩人は悪から美を抽出できるという希望は捨てられていない。この初版は刊行直後、公衆道徳良俗侵害の科(とが)で裁判所から6編の削除を命令された。今日底本とされる1861年の再版はその6編を除き、新作を加えて127編を収める。初版とは詩篇(しへん)および章の配列が微妙に異なって、「憂鬱と理想」「パリ風景」「葡萄酒」「悪の華」「反逆」「死」の6章構成となり、初版にあった希望の色は薄れ、呪(のろ)いと絶望の調子が強まっている。
独特の叙情と戦慄(せんりつ)と皮肉な洞察が交錯するこの詩集は、象徴詩のみならず西欧近代詩全般の原点となった。また、「読者に」の「―偽善の読者よ、―私の同類、―私の兄弟よ!」の呼びかけが明らかにしているとおり、この書とともに、詩は単なる文学の一ジャンルではなくなり、読者に傍観を許さぬ一つの生き方、実存の態度となった。
[横張 誠]
『鈴木信太郎訳『悪の華』(岩波文庫)』▽『阿部良雄訳「悪の華」(『世界文学全集55』所収・1981・講談社)』
ボードレールの韻文詩集。1857年に刊行された初版では101編の詩を含む。反道徳的・反宗教的内容のゆえをもって司法当局の訴追を受け,裁判の結果6編の削除を命ぜられ,著者・出版者は罰金刑となる。6編を除き新たに32編を加えた再版は61年の刊行で,〈憂鬱と理想〉〈パリ情景〉〈葡萄酒〉〈悪の華〉〈反逆〉〈死〉の6章に分かれる。地上の物質的条件にとらわれた有限の身でありながら無限なるものへの憧憬を抱いて,みたされぬロマン主義的精神が,都会の風景や人物への共感,陶酔のもたらすささやかな慰め,自他に対する破壊の衝動を経験した後,死に究極の希望を託するに至る過程を,倫理的かつ美的な論理の展開として追求する。個人的な苦悶と模索の報告として書かれながら,人間の普遍的な条件・運命の表現という性格を帯びるこの詩集は,読者に対して仮借なき自己認識の努力を要求する鏡として提示される。
執筆者:阿部 良雄
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… モレアスが象徴主義と命名するよう提唱した傾向は,もちろんこの時期に始まったのではなく,すでにかなり長い歴史をもっていた。モレアスも真の先駆者としてボードレールの名をあげているとおり,《悪の華》をおいて象徴主義を語ることはできない。ボードレールが大きな影響を及ぼしたのは,自然の事物や日常的な光景のような具象的なものを通して,いいかえれば具体物を象徴として,超自然的な宇宙の秘密を感知し認識するという考えかたに基づいて,詩作が実践されていたからである。…
※「悪の華」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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