悪性関節リウマチ(読み)アクセイカンセツリウマチ

デジタル大辞泉 「悪性関節リウマチ」の意味・読み・例文・類語

あくせい‐かんせつリウマチ〔‐クワンセツ‐〕【悪性関節リウマチ】

関節リウマチで、血管炎間質性肺炎など関節以外にも症状を伴う重篤な疾患。指定難病の一つ。

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内科学 第10版 「悪性関節リウマチ」の解説

悪性関節リウマチ

(1)悪性関節リウマチ
定義・概念
 1954年にBevansが心膜炎,胸膜炎,肺・腎病変,壊死性血管炎を呈した2剖検例を“malignant form of rheumatoid arthritis”としてはじめて報告した.欧米では血管炎を伴うRAまたはリウマトイド血管炎(rheumatoid vasculitis)とよばれる.わが国では,1973年に厚生労働省研究班が,Bevansらの報告を引用しながら血管炎を基盤とする予後不良な病態を伴うRAを悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis:MRA)と定義した.これは,間質性肺炎など血管炎の関与が明確でない予後不良の病態が含まれており,欧米のリウマトイド血管炎とは同一の病態ではないわが国独自の疾患概念である.現時点では,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に血管炎をはじめとする難治性,重篤な関節外症状を伴う病態と定義される.
分類
 臨床的には①多臓器にわたる関節外症状を示し,中小動脈を含む全身性の系統的動脈炎を呈する生命予後不良の全身性動脈炎型(Bevans型),②多発性単神経炎,皮膚症状など四肢末端,皮膚の末梢動脈炎に基づく症状を呈し,比較的予後良好な末梢動脈炎型(Bywaters型),③間質性肺炎を主体とする血管炎に関連しない関節外症状を呈する肺臓炎型に分類される.
疫学
 MRAはRAの0.6~1%にみられ,年間受診患者数は約4000人と推定される.リウマトイド動脈炎としての頻度はRAの2~5% と海外では報告されている.男女比は1:2でRAに比べ,相対的に男性に多く,ピーク年齢は60歳代でRAよりやや高齢である.
病因・病態生理
 病因は明らかでない.遺伝的素因ではRAで関連が指摘されているHLA-DR4(HLA-DRB1*0401)との関連がMRA ではより強い.家族内発症率は12%とRAより高率である.MRAではIgGクラスのリウマトイド因子が高率に認められ,その免疫複合体は補体消費量が高く,血管炎発症への関与が示唆されている.また,RA治療薬が血管炎誘導に関与している可能性も報告されている.
病理
 病理学的には①結節性多発動脈炎と区別がつかないフィブリノイド壊死と壁構造の破壊を伴う全層性の汎動脈炎を呈する壊死性動脈炎型(PN 型),②リウマトイド結節と同様の肉芽腫性動脈炎(RA 型),③病変が内弾性板の内側にとどまり,高度の内膜肥厚を呈する閉塞性動脈内膜炎型(EA型)に分類されるが,頻度はPN型>RA型>EA型と報告されている.
臨床症状
 全身性動脈炎型では,通常のRAの関節症状に加えて,全身症状として発熱(38℃以上),体重減少,倦怠感,筋痛・筋力低下がみられる.末梢動脈炎型では,触知可能な紫斑/紅斑,網状皮斑,皮膚梗塞・潰瘍,手指足趾の壊死・壊疽,多発性単神経炎など皮膚・末梢神経の症状が主体である.全身性動脈炎型ではこれらに加えて,心膜炎・心筋炎,胸膜炎,眼病変(強膜炎・上強膜炎,虹彩炎),間質性肺炎や心筋梗塞,脳梗塞,腸管壊死など全身の諸臓器の虚血や梗塞が合併する(図10-2-9). 間質性肺炎は通常,緩徐に進行する症例が多く,急速進行型はまれである.リウマトイド結節の頻度は高いが,腎病変の頻度は少ない.
検査成績
 赤沈亢進,血清CRP高値,貧血,低アルブミン血症,高ガンマグロブリン血症など慢性炎症に伴う所見がみられ,白血球増加,血小板増加が認められることが多い.リウマトイド因子は高値で,60%以上の症例はRAHAが2560倍以上の高値を示す.通常のRAでは血清補体値は高値を示すが,MRAでは免疫複合体が陽性で血清補体値は低下する.
診断・鑑別診断
 診断には厚生労働省研究班の診断基準(表10-2-3)を用いる.RA関節症状に加え,複数の関節外症状を伴い,リウマトイド因子高値,血清補体価低下,免疫複合体陽性などの検査異常が認められればMRAを強く疑う.皮膚(紫斑,紅斑,皮膚潰瘍),筋や腓腹神経生検により血管炎が証明されれば確定できる.RAと混合性結合組織病や全身性エリテマトーデスなどほかの膠原病との重複症候群,血管炎症候群(薬剤性を含む),シンセターゼ症候群,続発性アミロイドーシスなどが鑑別の対象となる.
治療
 RAの治療は原則継続し,血管炎や関節外病変の分布,重症度によりステロイドの投与量や併用する免疫抑制薬を決定する. 全身症状を伴い諸臓器の梗塞・虚血,漿膜炎,心筋炎,運動障害を伴う多発性単神経炎など全身的な中小動脈の血管炎(壊死性血管炎/肉芽腫性血管炎)の存在が示唆されるとき,また急性,亜急性の経過で発症・増悪する間質性肺炎に対しては大量ステロイド投与を行い,適宜,シクロホスファミド点滴静注療法を併用する.末梢動脈炎型では少量〜中等量のステロイド投与を行い,効果によってはアザチオプリンなどの免疫抑制薬を併用する.関節外病変に対する生物学的製薬有効性は確立していない.[鈴木康夫]
■文献
厚生科学研究特定疾患対策研究事業 難治性血管炎に関する調査研究班:悪性関節リウマチ.悪性関節リウマチの診療マニュアル: 2002, 35-40.

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家庭医学館 「悪性関節リウマチ」の解説

あくせいかんせつりうまち【悪性関節リウマチ Malignant Rheumatoid Arthritis】

[どんな病気か]
 悪性関節リウマチは、関節リウマチ(「関節リウマチ」)の特殊型で、生命にもかかわる全身の血管炎(けっかんえん)をともなう病気です。
「悪性」関節リウマチというと、「悪性腫瘍(あくせいしゅよう)」を連想したり、また関節の破壊が著しくて、手足などの機能がひどく障害される「悪性」(たちがわるい)かと考えますが、悪性関節リウマチという病名は、あくまでも血管炎をともない、それによる関節以外の症状がみられる関節リウマチの1つのタイプであることを意味しています。関節の症状が重いから悪性関節リウマチ、というわけではありません。
 日本では、悪性関節リウマチは厚労省の定めた特定疾患(難病)に指定され、医療費の補助が受けられます。
[症状]
 悪性関節リウマチは、関節リウマチ全体の0.8%にみられるといわれています。
 患者さんの男女比は2対1で男性に多く、関節リウマチが女性に多いのと対照的です。関節リウマチに長くかかっている人が発病することが多いようです。
 関節リウマチにみられる関節症状に加え、発熱、体重減少などの全身症状と、血管炎にともなう関節以外の症状が現われます。
 血管炎というのは、おもに動脈の組織に炎症がおこる状態で、ある臓器に栄養や酸素などを送っている動脈に血管炎がおこると、血流がとだえて、その臓器に異常が現われます。
 皮膚では、爪(つめ)の縁にみられる点状梗塞巣(こうそくそう)(血管のつまっているところが点々と赤黒くみえる)、皮膚の潰瘍(かいよう)、手足の指の壊疽(えそ)、リウマトイド結節(けっせつ)などがみられます。
 目では、上強膜炎(じょうきょうまくえん)、多発性単神経炎(たはつせいたんしんけいえん)などがおこります。
 胸膜(きょうまく)(肋膜(ろくまく))炎(えん)、肺炎、肺線維症(はいせんいしょう)、心膜炎(しんまくえん)、腸間膜動脈(ちょうかんまくどうみゃく)の壊死(えし)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの内臓障害の危険もあり、致命的になる場合も少なくありません。
 血管炎をともない、心臓血管の病変、神経病変のある悪性関節リウマチは治療がたいへんむずかしく、死亡率は43%とされています。直接の死因としては、心不全(しんふぜん)、感染症、呼吸不全の順です。
 悪性関節リウマチと診断されたら、ステロイド薬の使用開始時期が遅くならないように注意するべきです。
[検査と診断]
 検査成績では、リウマトイド因子が強陽性で、赤沈(せきちん)やCRPの値が高いのに加えて、白血球数(はっけっきゅうすう)が増えたり、血清(けっせい)中の補体(ほたい)(異物細胞の攻撃にかかわる免疫系の1つ)の数値が下がることがあります(「血液一般検査」)。
 血管炎が生じていることを確認するには、皮膚や臓器の一部をとって調べる(生検(せいけん))場合があります。
[治療]
 全身の安静を保つような配慮が必要です。中等度以上の内臓の病変をともなう場合は、入院が必要です。
 薬物治療も、ふつうの関節リウマチよりも強力な治療が必要です。ステロイド薬が第一に用いられます。
 心外膜炎(しんがいまくえん)、胸膜炎などがある場合には、プレドニゾロン換算で、1日50~60mg、皮膚潰瘍、神経炎などに対しては、1日30mg、上強膜炎などには1日15mgが目安になる使用量です。
 D‐ペニシラミンなどの抗リウマチ薬も使用されますが、アザチオプリン、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬が必要な場合が多いようです。
 そのほか、血流の改善のために血管拡張薬、血液をサラサラに保つ血小板凝集抑制薬(けっしょうばんぎょうしゅうよくせいやく)、プロスタグランジン製剤などが用いられます。

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六訂版 家庭医学大全科 「悪性関節リウマチ」の解説

悪性関節リウマチ
(膠原病と原因不明の全身疾患)

 悪性関節リウマチは日本に特有な病名で、欧米ではリウマトイド血管炎と呼ばれます。関節リウマチに全身の血管炎症を併発し、難治性で重い病態です。患者数は全国で約5000人です。申請して承認されれば厚生労働省の特定疾患治療研究医療費を受給できる難病です。

 原因は不明ですが、関節リウマチ以上に強い免疫異常や炎症が関係し、リウマトイド因子、赤沈、CRP値は高くなります。

 悪性関節リウマチでは、関節のはれが強く、関節破壊の進行が早い関節炎が先行します。肘下部(ちゅうかぶ)の皮下結節(リウマトイド結節)、下肢などの青色網状皮疹(もうじょうひしん)(リベド皮疹)や紫斑(しはん)などの皮膚症状中心の型と、全身性動脈炎型とがあります。

 後者では、発熱、全身倦怠感(けんたいかん)、多発関節痛、筋痛などの全身症状に加え、障害された臓器症状が現れます。皮膚症候に加えて、多発性単神経炎、眼のぶどう膜炎、リウマトイド胸膜炎(きょうまくえん)(胸水がたまる)、心膜炎(しんまくえん)、冠動脈炎による狭心症(きょうしんしょう)心筋梗塞(しんきんこうそく)、消化管出血や腸閉塞(ちょうへいそく)など、多様で重い臓器の症候が現れます。また、間質性(かんしつせい)肺炎や肺線維症(はいせんいしょう)を伴う症例もあります。

 進行性の関節リウマチの患者さんで、皮膚症状、発熱、全身倦怠感などの全身症状が現れれば、早急にリウマチ・膠原病を専門とする内科を受診すべきです。

 診断には、厚生労働省の特定疾患調査研究班による診断基準が使用されます。すなわち、関節リウマチに加え、前記の強い免疫異常や臓器症状、ならびに組織検査での血管炎の存在により診断されます。

 治療は、強い免疫異常と血管炎を制御するために、大量のステロイド薬と免疫抑制薬を併用します。全身血管炎型では死亡率は43%で、心不全、感染症、呼吸不全が主な死因ですが、最近では、シクロホスファミド(エンドキサン)やアザチオプリン(イムラン)などの免疫抑制薬の併用により、5年生存率は約80%に改善したとされます。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「悪性関節リウマチ」の意味・わかりやすい解説

悪性関節リウマチ
あくせいかんせつリウマチ
malignant rheumatoid arthritis

慢性関節リウマチの1つのタイプといえる特殊型で,1973年に厚生省の特定疾患 (→難病 ) に指定された。急激に関節症状が悪化し,発熱,強膜炎 (肋膜炎) ,心膜炎,心筋炎などの内臓病変を合併して死にいたる。関節の滑膜をはじめ,肋膜,心臓,肺,腎臓などの全身の各内臓器官に肉芽腫 (にくげしゅ) と壊死 (えし) 性血管炎が見られる。 73年の厚生省の調査によると,リウマチ患者の約 0.6%が悪性関節リウマチで,男女比は 10対7で,普通のリウマチと比べ男性に多いという特徴がある。高齢者に多く,調査1年後の死亡率は 34%であった。

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