物の怪(読み)モノノケ

デジタル大辞泉 「物の怪」の意味・読み・例文・類語

もの‐の‐け【物の怪/物の気】

人にとりついてたたりをする死霊生き霊妖怪の類。
[類語]悪霊怨霊死霊生き霊

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精選版 日本国語大辞典 「物の怪」の意味・読み・例文・類語

もの‐の‐け【物怪・物気】

  1. 〘 名詞 〙 人にとりついて悩まし、病気にしたり死にいたらせたりするとされる死霊・生霊・妖怪の類。また、それらがとりついて祟ること。邪気
    1. [初出の実例]「依病不参、五節一人忽煩物気」(出典:貞信公記‐抄・延喜一九年(919)一一月一六日)
    2. 「風のここちといひしが、何となく悩み出て、鬼化(モノノケ)のやうに狂はしげなれば」(出典:読本・雨月物語(1776)吉備津の釜)

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改訂新版 世界大百科事典 「物の怪」の意味・わかりやすい解説

物の怪 (もののけ)

物の怪のモノは広義にはマナに近い自然的または超自然的な霊のことで,この正体不明の霊的存在が人に憑依(ひようい)して病気にしたり命を奪ったりすると考えられる現象を〈物の怪〉という。物の怪は平安時代の文献に頻出し,邪悪な霊の発現をいうことが多い。その正体はたいてい嫉妬怨恨をもった生霊や死霊であるが,のちにはの形でイメージされることもあった。当時,こうした物の怪は真言密教僧の加持祈禱(かじきとう)によって調伏(ちようぶく)された。そのメカニズムは,験者(げんざ)が護法(ごほう)などの使役霊呪文によって発動させ,患者に憑(つ)いた悪霊である物の怪を駆逐して下級女房や童のつとめる憑坐(よりまし)に憑依させ,その物の怪の姿をあらわし演じさせるとともに,さらに使役霊を駆使してこれを外界へと追い出して,病気を平癒させるのである。あるいは,験者の祈禱によって,病人に憑依した物の怪を護法が駆逐した霊夢がもたらされ,その夢を第三者に語ることで病気が治るという過程をとる場合もある。物の怪の現象は,ある意味で宮廷などの閉鎖的な社会集団における嫉妬や恨みといった,満たされぬもろもろ感情や不満に表現を与え,心のわだかまりを解消し浄化するものともいえる。また加持祈禱の発達が,物の怪という目に見えぬ存在を顕在化させ浄化の儀礼を行ったのであるから,これが物の怪を見えるものにしたといえる。物の怪は個人の病気を契機にするものであるが,一方,御霊(ごりよう)は疫病や災害などの社会不安をおこす事件を契機にまつり上げられ鎮撫されて社会の浄化をはかるものになっている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物の怪」の意味・わかりやすい解説

物の怪
もののけ

生霊(いきりょう)、死霊などの類をいい、人に取り憑(つ)いて、病気にしたり、死に至らせたりする憑き物をいう。平安時代の文献にはよくこのことが記録されている。『紫式部日記』には、中宮のお産のとき、物の怪に対して屏風(びょうぶ)を立て巡らし調伏(ちょうぶく)したことが記されている。『源氏物語』葵(あおい)の巻に、「物の怪、生霊(いきすだま)などいふもの多く出で来てさまざまの名のりする中に……」とあり、また同じ巻に「大殿(おおとの)には、御物(おんもの)の怪(け)いたう起こりていみじうわづらひたまふ」などとある。清少納言(せいしょうなごん)も『枕草子(まくらのそうし)』のなかで、昔評判の修験者(しゅげんじゃ)があちこち呼ばれ、物の怪を調伏する途中疲れて居眠りをしたので非難されたことなどを記している(「思はむ子を」)。ほかに『大鏡』『増鏡』などにも物の怪の記述がみえ、これらは閉鎖的な宮廷社会での平安貴族の精神生活の一面を反映したものとみられる。物の怪に取り憑かれることを「物の怪だつ」といい、これにかかると、僧侶(そうりょ)や修験者を招き、加持祈祷(かじきとう)により調伏・退散させた。これには、物の怪を呪法(じゅほう)によって追い出し、別の人(憑坐(よりまし))にのりうつらせ、さらにそこから外界へ追い出し平癒させた。

[大藤時彦]

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世界大百科事典(旧版)内の物の怪の言及

【神】より

…ところでタマの立場から見た場合,古代には和魂(にぎみたま)と荒魂(あらみたま)の対立があった。タマが人知を超えた力を発揮すると,それはモノノケ(物の怪)の出現ととらえられ,別にタタリ(祟り)と表現された。平安時代のタマの発現とその活動の中に,怨霊や御霊(ごりよう)を認めそれを祟りとみて畏怖したのは,モノノケすなわち霊威に対するその時代の合理的解釈とみなされる。…

【祟り】より

…こうして〈たたり〉が人間に現れる場合は憑霊状態を示し,いわゆるシャマニズムのさまざまな心的機制を生ぜしめることになるが,今日,下北半島のイタコや沖縄のユタなどに伝えられているホトケオロシやカミオロシなどの巫儀も,この〈たたり〉現象に属する。 次に,神霊や死霊の示現が災禍や危害をともなうとされる場合の〈祟り〉は,当の神や死者の怨みや怒り,そして浄められずに空中を浮遊する邪霊,鬼霊の働きなどによるものとされ,とりわけ平安時代になって御霊(ごりよう)や物の怪(もののけ)の現象としてひろく人々の間に浸透し,恐れられた。なかでも〈祟り〉の現象が社会的な規模で強く意識されたのは平安前期の御霊信仰においてである。…

【妖怪】より

…妖怪の総称に相当する民俗語は,大別して,東日本に分布する〈モー〉系のモー,モーモー,モモンガー,モッコ,アモ,アンモなどと,西日本に分布する〈ガ〉系のガガマ,ガガモ,ガンゴー,ガゴジ,ガモなどに分けられる。霊的存在ないしは神秘的力の総称である〈もの〉の示現としての〈物の怪(もののけ)〉は,歴史的文献に現れた妖怪の総称の代表といえる語であり,神の示現としての〈かみのけ〉と対比される場合には邪悪な〈もの〉の発現を意味していた。この語は平安時代に多用され,その正体のほとんどが恨みをもつ生霊や死霊であって,鬼の姿でイメージされた。…

※「物の怪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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