海に注ぐ川の下流部で、潮汐(ちょうせき)変化につれて川の水位や流速が周期的に変動する範囲を感潮区間といい、そのような潮汐の影響を受ける川を感潮河川という。感潮の範囲は勾配(こうばい)の緩やかな大河になるほど大きく、勾配の急な川では小さい。揚子江(ようすこう)では河口から約1000キロメートル上流の漢口まで潮汐の影響が波及する。海水の侵入による塩分の変化は比較的下流部に限られ、水位や流速の変化はこれよりもはるかに上流側にまで及ぶ。海水が侵入して塩水くさびを形成する川を潮入り川という。水面勾配の緩やかな河口付近では、上げ潮のときには海水が河口から侵入して遡上(そじょう)し、下げ潮のときには向きを逆転して流下する。河口が扇形に開いていて、前面が遠浅で潮の強い海である場合、上げ潮時には前面が垂直に近い水の壁が横一列の波となって川を遡上する。これを潮津波または海嘯(かいしょう)といい、中国の杭州(こうしゅう)湾に注ぐ銭塘江(せんとうこう)では波高が10メートル前後に達し、秒速7メートルの波速で川をさかのぼるという。フランスのセーヌ川、イギリスのセバーン川、南米ベネズエラのオリノコ川なども海嘯で有名である。潮汐のエネルギーは一部を摩擦や粘性のために消費するほか、水をしだいに高い所に運ぶ仕事にも使われる。水面勾配の緩やかな下流部でも川の流れに逆らって遡上するには大きな運動エネルギーを必要とするから、感潮の度合いは上流部になるほど弱くなる。一般に上げ潮の時間は短く、下げ潮の時間は長い。川の流量が多いときには上げ潮の時間がさらに短くなる。渇水時に上げ潮が優勢になることはいうまでもない。潮汐に起因する水位の変動に対して流速または流量の変動は時間的に遅れるのが普通で、この時間的遅れは上流ほど大きくなる。大きな川では両岸の水位に差があり、北半球では右岸が左岸よりも満干潮時とも高い。これは地球自転の影響によるもので、アメリカのハドソン川では河口付近でその差が3センチメートルあるという。
[髙山茂美]
河川の下流部で,河川の水位,流速が潮汐の影響を受けて周期的に変化する区域,あるいはそのような現象がみられる河川。潮汐の影響は,塩分濃度の変化としても現れるが,一般に水位,流速の変化は,塩分濃度の変化がみられる範囲(潮入川)よりはるか上流側にまで及ぶ。
こう配のゆるやかな大河では感潮の度合が著しく,中国の長江(揚子江)では,河口から約1000kmの武漢付近まで潮汐の影響を受けるという。干満の差が大きい場合や,河口がらっぱ状に開いたエスチュアリーなどでも感潮の度合が大きく,特に著しい場合には上げ潮時に潮波が水壁をなして河道内をさかのぼることがある。これはボーアbore(潮津波,海嘯(かいしよう),暴漲端(ぼうちようたん)ともいう)と呼ばれ,中国の杭州湾に注ぐ銭塘江やフランスのセーヌ川などのものが知られる。また,河道の幅が局部的に狭くなるところでは,下流よりも感潮度を増すことがある。特に著しい場合には,上げ潮時には上流側に向けて,下げ潮時には下流側に向けて滝をなすことがあり,交互反転滝と呼ばれている。
日本では,九州地方から関東地方にかけての潮差の比較的大きい太平洋側の諸河川を中心に,上げ潮時に河川の水位が顕著に上昇したり,河水が逆流したりする現象が認められる。なお,潮汐に伴って海水が河口から侵入し,河道内を遡上する現象も各地で報告され,塩水遡上と呼ばれている。中でも,塩水が河水とはっきりした境目をもってくさび状に遡上する現象は塩水くさびと呼ばれる。
執筆者:海津 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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