手形金請求を審理裁判するための,通常訴訟に比し簡易・迅速な特別訴訟。手形・小切手は,取引上の金銭支払の手段として,即時に金銭に替えられることが制度の機能と信用を維持するために必要である。手形法・小切手法上もそのための種々のくふうを凝らしているが,訴訟法上も手形債務・小切手債務の取立てを容易にするために設けたのが略式訴訟たる手形訴訟・小切手訴訟である(民事訴訟法350~367条)。
1890年公布の旧民事訴訟法では,証書訴訟および為替訴訟という制度がドイツから導入された。証書訴訟は〈一定の金額の支払その他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求〉について,証拠を証書のみに制限し簡易・迅速に審理裁判するための略式訴訟であり,為替訴訟は手形による請求を証書訴訟の方式で主張する場合に許される特別訴訟であった(旧民事訴訟法484~496条)。しかし,書面がありさえすれば簡易に取り立てることができるため,悪質金融業者に利用されるところとなり,また,その訴訟における判決(略式訴訟における判決であるため,通常訴訟で争う権利が留保されたところから留保判決と呼ばれた)に対する上訴審手続と通常訴訟との関係が複雑にすぎるなどの欠点があり,証書訴訟と為替訴訟は1926年の改正で廃止された。
しかし,その後,とくに戦後の不渡手形の頻発とこれに基づく訴訟の激増から,手形債権の迅速な実現のための立法措置を講ずべきことが経済界から強く要望されるに至り,1964年装いを新たにして制定されたのが手形訴訟・小切手訴訟である。小切手訴訟には手形訴訟の規定が一括準用されているので(367条),以下,手形訴訟について述べる。
手形金請求は通常訴訟としても提起することができるが,手形訴訟として提起する場合には,手形面に記載された手形金および法定利率(年6%)による損害賠償しか請求できず,訴状には手形訴訟による審判を求める旨の記載をしなければならない(350条)。手形訴訟においては,被告は反訴を提起できない(351条)。証拠調べは書証に限られる(352条)。原告はいつでも通常訴訟への移行を求めることができる(353条)。手形訴訟において原告の請求を認容した判決に対しては,被告は上級裁判所に控訴することはできず,その同一の裁判所に異議の申立てができるにすぎない(356条,361条)。異議申立てがあると,訴訟は手形判決前の状態に戻り,今度は通常訴訟として審判を続けることになる(361条,362条)。異議申立てがなければ,判決は確定する。この場合の判決も一般の場合の判決と同一の効力を有することはいうまでもない。
執筆者:青山 善充
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
手形・小切手に特有かつ簡易な特別訴訟。もともと旧民事訴訟法で「為替(かわせ)訴訟」が認められていたが、1926年(大正15)の改正に際し、為替訴訟が十分な機能を発揮していなかったとして廃止されていた。しかし、手形・小切手の不渡り事故が激増し、訴訟の遅延も目だつものがあったことにかんがみ、実際界の要望により1964年に復活し、現在は民事訴訟法第5編「手形訴訟及び小切手訴訟に関する特則」において規定されている(民事訴訟法350~367条)。手形訴訟は手形・小切手による金銭支払い請求権およびこれに付帯する法定利率による損害賠償請求権についてだけ許される(同法350条)。また、反訴の禁止(同法351条)や、証拠制限(同法352条)により迅速に判決をし、判決には職権で担保をたてないで仮執行の宣言を付して債務名義を与える(同法259条2項)など、手形・小切手所持人の権利の実現の便宜を図っている。
[戸田修三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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