一定の私法上の請求権の存在および範囲を表示した書面で、法律が執行力を与えたもの。現行法上、公の文書に限られる。強制執行は請求権の存在を前提とするが、現行制度上、執行機関と請求権を確定する機関が別個のものとされているので、債務名義が必要となる。すなわち、債務名義でもって請求権の存在・範囲が公証されていれば、執行機関はこれを前提として執行する職務上の義務を有し、また、その執行は適法とされる。ただ、現実に執行の申立てをするには、原則として債務名義に執行文の付与されることが必要であり、執行文の付与された債務名義を執行力ある正本という。
債務名義となる文書は、民事執行法第22条で定められている。それによれば、以下のものが債務名義となる。
(1)確定(給付)判決。
(2)仮執行宣言付き判決。
(3)抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(訴訟費用償還決定=民事訴訟法69条、代替執行あるいは間接強制のための決定=民事執行法171条・172条など)。
(4)仮執行宣言付き損害賠償命令(犯罪被害者保護法26条2項参照)。
(5)仮執行宣言付き支払督促。
(6)訴訟費用もしくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分または執行費用および返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分。
(7)執行証書。
(8)確定した執行判決のある外国裁判所の判決。
(9)確定した執行決定のある仲裁判断。
(10)確定判決と同一の効力を有する調書または裁判(和解調書、請求の認諾調書、調停証書、調停にかわる裁判、破産債権表の記載、更生債権者表の記載など)。
[本間義信]
債権者の債務者に対する強制執行において,実現を予定される請求権が存在すること,およびその内容を明らかにする文書をいう。強制執行は,この文書を前提にして初めて可能になり,これを債務名義の執行力と呼ぶ。
強制執行は,その性格上債務者の生活利益を侵害するので,それを正当化するにたる根拠が必要になる。具体的には,強制執行によって実現される請求権を確定することが,この正当化根拠になるが,現行法は,これを執行機関の任務としていない。なぜならば,執行機関は,適正かつ迅速な執行の実施という本来の任務をもっているからである。そこで法は,強制執行開始前に債務名義が存在し,その中で請求権が確定されていることを,上の正当化根拠としている。執行機関の立場としては,債務名義に執行文の付された,いわゆる〈執行力ある正本〉が存在すれば,適法に強制執行を実施することができる。
債務名義の種類は,民事執行法22条によって法定されている。まず,債務名義になる判決としては,確定判決および仮執行宣言付判決が掲げられているが(同条1,2号),いずれの場合も,給付判決(〈給付訴訟〉の項参照)でなければならない。請求権を確定する役割をもたない確認判決や形成判決は,債務名義としての機能をもちえないからである。また,よく利用される債務名義としては,執行証書がある(同条5号)。これは,いわゆる公正証書に執行受諾文言が付されたものである。その他,仮執行宣言付支払督足(〈督促手続〉の項参照)や確定した執行判決のある外国判決等も債務名義とされている(同条4,6号)。
→強制執行
執筆者:伊藤 真
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…一見矛盾するこの二つの目的をどう調和させるかが,立法者の苦心したところであり,その苦心は,民事執行法の種々の規定の中にあらわれている。 まず,強制執行を開始するにあたっては,債務名義が要求される(民事執行法22条)。債務名義とは,強制執行によって実現される請求権が存在することを確証する文書であり,これによって,請求権が存在しないのに強制執行が行われることを防ごうとする。…
※「債務名義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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