家庭医学館 「手・指皮膚炎」の解説
てゆびひふえんてしっしんしゅふしっしん【手・指皮膚炎(手湿疹/主婦湿疹) Hand Eczema, House Wives' Eczema】
[どんな病気か]
手、指の背面や、爪(つめ)の周囲を中心に、かゆみの強い紅斑(こうはん)、小水疱(しょうすいほう)、丘疹(きゅうしん)などができるもので、かきつぶすとびらんやかさぶたになります。手掌(しゅしょう)(手のひら)や指腹部(しふくぶ)は角層が厚いため、湿疹は比較的できにくいようです。逆に乾燥傾向の強いタイプもあり、指腹部、手掌にできやすく、進行すると亀裂(きれつ)、びらんができるものは進行性指掌角皮症(しんこうせいししょうかくひしょう)といいます。
以前は、水仕事の多い女性に多くできたため主婦湿疹と呼ばれていました。現在では調理師、美容師、医療従事者やファーストフード店の店員など、特定の職業の人にもよくみられます。慢性化すると皮膚が厚くゴワゴワになり、治療効果があがらなくなるため、しばらく休職しなければならないこともあります。
また、清潔志向がこうじて毎朝シャンプーをしたり、電車の吊(つ)り輪やドアノブなど人が触れたものへの嫌悪感から過度に石けんで手洗いすることでおこることがあります。近ごろでは小学生にもみられます。
◎慢性刺激性とアレルギー性
[原因]
手、指の皮膚炎は、洗剤などの慢性刺激が誘因となって誰にでも生じる皮膚炎と、消毒薬、ゴム手袋、シャンプーなど特定の物質に過敏な人だけに生じるアレルギー性の皮膚炎とに大別されます。
慢性刺激性の皮膚炎は冬季に悪化することが多く、まず手と指全体が乾燥してゴワゴワになり、落屑(らくせつ)が増え、指紋(しもん)、掌紋(しょうもん)が不鮮明になってきます。ついで亀裂やびらん、紅斑、小水疱など、炎症性の症状がおこり、かゆみも出てきます。これらの変化は本来、皮膚角層に存在し、外界からの刺激に対して防御的にはたらくセラミドという脂質などでできた物質が、洗剤などの慢性的な刺激によって減少して皮膚のバリア機能(防護機能)が低下しておこるとされています。
冬季の乾燥した環境下で水仕事をすると、手についた水分が蒸発する過程で気化熱を奪って冷え、角層の水分が減少するため、さらに乾燥や荒れが進むのです。これは年末についた鏡餅(かがみもち)が、しだいに乾いてひび割れていく過程に似ています。アトピー素因のある人はこのような変化をおこしやすく、結婚して、育児や炊事仕事が増えると悪化することがあります。
アレルギー性の皮膚炎は、毎日皮膚に接触する物質に対するアレルギーによっておこり、かゆみの強い丘疹、紅斑性の皮膚炎が特徴です。ゴム手袋に使われているゴム硬化剤や染料、石けん・シャンプーなどに含まれる香料、医療用消毒液、美容室のパーマ液の成分などに対して過敏な人は、ごく微量でも、触れると皮膚炎をおこします。これは、T細胞と呼ばれるリンパ球のしわざです。
とくにバリア機能が低下した皮膚では、アレルギーをおこす物質が皮膚から浸透しやすいため皮膚炎をおこしやすくなると考えられています。
[検査と診断]
診断は、炎症のある場所(湿疹型では手背(しゅはい)、指背(しはい)、爪囲(そうい)に多く、乾燥型は指腹、手掌に多い)、発症時期(刺激性皮膚炎は冬が多く、アレルギー性皮膚炎は季節に関係なくいつでもある)、職業歴(水仕事の多い職業)などを調べることで比較的容易にできます。特定の物質への接触による皮膚炎の場合は、使用している物質や関連する物質の成分を用いたパッチテストを行ない、原因物質を明らかにします。
まれに治療用の軟膏(なんこう)にかぶれることがあるので、治りが悪い場合は注意します。ぜんそく、花粉症(かふんしょう)などがある場合はアトピー性皮膚炎の合併も考えられ、血液検査などでアトピーアレルギーの有無を調べます。
手・指皮膚炎に類似した疾患には掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)、掌蹠角化症(しょうせきかくかしょう)、手白癬(てはくせん)、カンジダ性爪囲炎(せいそういえん)、カンジダ性指間(せいしかん)びらん症などがあります。鑑別診断のためにも専門医を受診しましょう。
◎皮膚のバリア機能の改善を
[治療]
外用剤は尿素軟膏(にょうそなんこう)などの保湿剤、白色ワセリンなどを患者さんの好みに応じ、1日4~5回薄く外用します。
手掌や指腹部の角化が強い場合は、角質溶解作用のある5%サリチル酸ワセリンの塗布(とふ)や、尿素軟膏を外用後ラップでおおう密封療法(みっぷうりょうほう)(ODT)などが有効です。密封療法は汗でむれることもありますから、夜間のみ行ないます。
亀裂部には、夜間のみステロイドホルモン含有テープを貼(は)りつけます。
紅斑、小水疱などの炎症症状が強い場合は、ステロイド軟膏と尿素軟膏を同量混合した軟膏を1日数回外用し、就眠時には同軟膏を外用した後、包帯のかわりに木綿の薄い手袋をはめます。この場合、ステロイド軟膏はあくまで急性期にのみ使用し、ハンドクリームがわりに長期間使用しないよう注意しましょう。
手指のバリア機能の低下にともない、細菌や真菌(しんきん)の感染を合併することがあります。手の白癬は非常に少なく、カンジダ性の爪囲炎(そういえん)や爪甲剥離(そうこうはくり)、指間びらんなどが多いのですが、この場合は抗真菌薬(こうしんきんやく)で治療します。
[日常生活の注意]
皮膚のバリア機能低下の予防と改善を心がけることが第一です。炊事や洗濯時、そして洗髪時にもゴム手袋を着用します。このとき、木綿の薄い手袋を下に着けるとよいでしょう。また、水仕事後は十分に汗などを洗い流し、乾いたタオルで皮膚についた水気をふきとり、ハンドクリームなどをつけます。
最近は皮膚コーティング剤で使いやすいものが市販されていますから、1~2時間なら手袋がわりに使用できます。仕事内容に原因がある場合は、なるべく職場の配置転換などを考えてもらいましょう。
治りが悪い場合は、早めに皮膚科の専門医に相談しましょう。