(読み)こしらえ

精選版 日本国語大辞典 「拵」の意味・読み・例文・類語

こしらえ こしらへ【拵】

〘名〙 (動詞「こしらえる(拵)」の連用形の名詞化)
① いろいろはかりめぐらすこと。いろいろと工夫すること。
梁塵秘抄(1179頃)二「龍女が仏に成ることは、文殊のこしらへとこそ聞け」
② きたるべき事態にそなえて、いろいろと準備すること。
(イ) 準備。用意。したく。
※寛永版曾我物語(南北朝頃)七「我等討たれぬと聞き給はば、此所に転び入りて伏し沈み給ふべし。いざやこしらへせん」
(ロ) 特に嫁入りじたくのこと。
※浮世草子・世間胸算用(1692)二「あの身体(しんだい)の敷銀は弐百枚も過ものこしらへなしに五貫目」
(ハ) 遊郭などで、座敷の準備。
洒落本・箱まくら(1822)下「店の男来たり。〈略〉おこしらへでござります」
③ 飾ること。装飾すること。また、そのもの。
(イ) 刀身相応の金具や塗り、柄巻(つかまき)などの装備。こしらえかたによって、合口拵(あいくちこしらえ)太刀拵(たちごしらえ)、脇指拵、また、打刀(うちがたな)の好みにより肥後拵、水戸拵などがある。つくり。→こしらえつき
咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上「刀、脇差を、かねたくさんに付て、いかにも結構なるこしらへにて進ぜらるる」
(ロ) 化粧、服装などをととのえること。身じたく。身なり。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)三「拵(コシラヘ)も貧家の娘、公界勒(くがいづとめ)さすべき衣類なけれど」
(ハ) 俳優が、いろいろと役づくりをすること。扮装(ふんそう)
※わらんべ草(1660)一「わきをよび出すあひならは、只今いつると案内云べし。若こしらへならぬをしらず、よび出しては越度なり」
④ もののやりかた。しかた。方法。
※浮世草子・世間胸算用(1692)二「一日一日物のたらぬこしらへ、おのれも合点ながら俄かに分別も成がたし」
⑤ 構築すること。物をつくること。また、そのもの。作り。
四河入海(17C前)三「陵のこしらえをいそいでせらるるぞ」

こせ・える こせへる【拵】

〘他ア下一(ハ下一)〙 (「こしらえる」が変化した「こさえる」が更に変化した語) =こしらえる(拵)
滑稽本浮世風呂(1809‐13)前「頭巾がわるくなったからのヤ、小裁(こぎれ)をめつけたら拵(コセヘ)よう拵ようと思った所」

こしら・ゆ【拵】

〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段動詞「こしらふ」から転じて、室町時代ごろから用いられた語。多くの場合、終止形は「こしらゆる」の形をとる) =こしらえる(拵)
史記抄(1477)一二「城をまわりにこしらゆるやうな心ぞ」

こさ・える こさへる【拵】

〘他ア下一(ハ下一)〙 「こしらえる(拵)」の変化した語。
※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉中「向島か根岸で御隠宅を拵(コサ)へてもよろしう御座いますから」

こしら・う こしらふ【拵】

〘他ハ下二〙 ⇒こしらえる(拵)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「拵」の意味・わかりやすい解説


こしらえ

一般には外観、装飾のことなどをいうが、日本刀では外装のことで、刀装ともいう。刀剣を保護し、使用しやすくするために不可欠のものであるが、佩用(はいよう)者の威容を整え、その身分や家柄を表示するものでもあった。

 時代によって変遷があるが、長寸のものは大きく分けて太刀拵(たちごしらえ)と打刀(うちがたな)拵になる。寸法の短いものには腰刀拵、小サ刀(ちいさがたな)拵、合口(あいくち)拵などと呼称されるものがある。平安時代から鎌倉時代にかけては、太刀拵が盛行し、南北朝から室町時代にかけては、戦乱の多かったことから、太刀にかわって打刀が用いられるようになった。これが戦国時代になると、戦闘方式の変化に伴い、従来腰に佩(は)いていた太刀拵の儀仗(ぎじょう)的性格が強くなり、一般には具足(ぐそく)の締帯(しめおび)に差す打刀の形式が流行するようになった。打刀拵では、太刀拵のような帯執足金物(おびとりあしかなもの)がなく、鞘(さや)は塗鞘(ぬりざや)で、それまでとは異なった自由な意匠が施されるに至った。江戸時代の武家においては、裃(かみしも)着用の際の大小拵(打刀と脇差)は、鞘は黒蝋(ろう)色塗、柄糸(つかいと)・下緒(さげお)も黒組糸を用い、鐔(つば)・小柄(こづか)・笄(こうがい)などには後藤家作の鳥銅地金色絵のものをつけるのが制となる。また尾張(おわり)拵とか薩摩(さつま)拵とかいう、各藩ごとに特色のある形式を生じた。

[小笠原信夫]


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百科事典マイペディア 「拵」の意味・わかりやすい解説

拵【こしらえ】

刀装ともいう。日本刀の外装,すなわち刀身を入れる鞘(さや),茎(なかご)(握る部分)を入れる柄(つか)および鐔(つば)の総称。なお鐔のないものを合口(あいくち)拵という。儀仗(ぎじょう)(儀式用)と兵仗(武用)とがある。平安時代には公卿(くぎょう)の飾太刀があり,武家には毛抜形太刀,錦包籐巻(とうまき)太刀,銀・銅蛭巻(ひるまき)太刀,黒漆太刀,兵庫鎖太刀などがあった。鎌倉〜室町期には革包(かわづつみ)太刀が盛行。室町中期には戦闘様式の変化に伴い打刀拵が生まれた。桃山時代には打刀と腰刀を共造(ともづくり),すなわち1対とする大小拵が生まれ,江戸時代には裃(かみしも)着用の際に大小拵を用いたが,鞘は黒蝋塗で,柄糸(つかいと),下緒(さげお)も黒の組糸を用い,小柄(こづか),笄(こうがい)は後藤家の作をつけることなどが規定された。富裕な町人の拵にも趣向がこらされた。
→関連項目日本刀三所物

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改訂新版 世界大百科事典 「拵」の意味・わかりやすい解説

拵 (こしらえ)

日本で刀剣の外装をいい,〈つくり〉などともいう。起源は古墳時代にさかのぼるが,用語としては,江戸時代に入ってから使われたものであろう。柄(つか),鞘(さや),鐔(つば)の3部から成る。本来は身の危険を防ぎ,刀身を保護するためのものであるが,やがて身分の標識,着用者の嗜好,戦闘方法の変移などのさまざまな要素が加わって,その様式も変化し,単なる実用品ではない,金工,漆工などの高度の技術を駆使したものも現れる。しかし装飾は無制限ではなく,公家社会では金,銀,銅などの材質や,蒔絵,螺鈿(らでん)などの加飾方法も位階によって異なっていた。武家社会でも華美,豪奢になることを禁止する法が各時代にしばしば公布されている。
刀装
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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【刀装】より

…刀剣の外装のことで,(こしらえ)ともいう。刀剣を身につけるのに,また保護するのに不可欠のものであるが,佩用(はいよう)者の身分や好尚,時代の式制によっていろいろな様式,種類がみられる。…

※「拵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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