天然に存在する放射性元素が一定の割合で安定な元素に崩壊する現象(放射性崩壊)を利用して測定される年代。
放射性元素は単位時間に存在量に比例した量だけ崩壊する。この比例定数を崩壊定数(λ)という。T=loge2/λ≒0.693/λを半減期といい,この時間たつと放射性元素の量は初めの1/2になる。初めにあった放射性元素(親元素parent elementと呼ぶ)の量をN0,ある時間が経過した後の量をN,親元素の放射性崩壊によってできる安定な元素(娘元素daughter elementと呼ぶ)の量をD*とすれば,T時間後にはNはN0/2に減りD*がN0/2となる。さらにT時間後にはNはN0/4,D*は(1-N0/4)となる。n×T時間後にはNはN0/2nにD*は(1-N0/2n)となる(図1)。そこで,(1)初めの親元素の量N0と現在の親元素の量N(または娘元素の量D*)がわかるか,(2)現在の親元素の量Nと娘元素の量D*がわかれば,nがわかることになり,経過時間nTが計算できる。一般的にいえば,t時間後の親元素の量をNとすれば,
N=N0e⁻λt,D*=N0(1-eλt) ……(1)
となる(図2)。
代表的な放射年代測定法にはウラン・鉛(U-Pb)法,ルビジウム・ストロンチウム(Rb-Sr)法,カリウム・アルゴン(K-Ar)法,炭素14(14C)法,イオニウム(Io(=230Th))法のようなウラン系列の非平衡を利用する方法,フィッショントラック法があり,最近ではネオジム・サマリウム(Nd-Sm)法,ベリリウム10(10Be)法なども行われている。また元素合成から地球形成までの時間や,隕石同士の固結年代の差を求めるために使われているヨード・キセノン(I-Xe)法も同じ原理に基づいている。これらは次の二つに大別される。
(1)初めに存在していた親元素の量N0と,現在の親元素の量Nが年代とともに変化することを利用する方法(14C法,10Be法,Io法など)。(1)式よりN/N0=e⁻λtとなり,N,N0を測定しtを求める方法である。14C法,10Be法では上層大気中でこれらの元素が過去・現在を通じて一定の割合で作られると仮定する。生物は14Cを吸収しているが,生物が死ねば吸収は止まり,14Cは減少していく。10Be法では,上層大気中で作られた10Beが深海底堆積物に常に一定濃度取り込まれ,堆積層中で減少していくことを利用する。Io法ではウランUの崩壊系列中のIoが選択的に海底の堆積物中に取り込まれ,Uの崩壊系列の平衡から切り離されることを利用する。選択的に取り込まれた230Thに関してはUの崩壊によって230Thが新たに補給されることがないので,230Thの量は減少する。過去数十万年にわたって,230Th/232Th比が海水中で一定であったと仮定して年代を求める。
(2)親元素と娘元素の量の比が時間により変化することを利用する方法(U-Pb法,Rb-Sr法,K-Ar法など)。娘元素の量を測定する場合,親元素から生じた娘元素の量D*と初めから存在した娘元素の量をいっしょに測定することになる。初めから存在した娘元素の量をD0,娘元素の総量をDとすると,D=D*+D0=N0-N+D0であるから(1)式より
D=N(eλt-1)+D0 ……(2)
となる。ここで娘元素の安定同位体で放射性元素を親にもたないものの量をDsとする。測定技術の面からD,Dsそれぞれの値よりD/Dsの方が精度よく求められることと,以下のアイソクロンisochronの説明で示すようにD0の値よりD0/Dsの値の方が地球科学的に意味をもつことを考慮して(2)式をDsで割れば
を得る。ここにD0/Dsは時間変化しないので(D/Ds)0と書いた。(3)式でD,Ds,Nは現在の値であり測定できる。またλもすでに知られている値であるので,(D/Ds)0がわかれば年代tが求まる。(D/Ds)0の値は,元素合成の理論や,種々の測定の結果から推定して使うこともあるが,アイソクロンを引くことができれば,(D/Ds)0の値と年代を独立に求めることができる。たとえば,Rb-Sr法で岩石の年代を測る時,構成鉱物ごとに87Rb/86Sr,87Sr/86Srの値を測ることにする。岩石が作られた時87Sr/86Srの値((3)式の(D/Ds)0)は鉱物による差はないが,87Rb/86Srの値((3)式のN/Ds)は鉱物ごとに異なるので,年代がたつと87Sr/86Srの値((3)式のD/Ds)は鉱物ごとに異なってくる。グラフの縦軸を87Sr/86Sr,横軸を87Rb/86Srにしてデータを書きこむと,傾き(eλt-1),縦軸の切片(87Sr/86Sr)0の直線が描ける。この直線をアイソクロンという(図3)。傾きから年代が計算できる。
(1)(2)の方法で親元素の量の測定はおもに,(1)は放射能測定(14C,10Be,Ioなど),(2)は同位体希釈分析(U,Th,Rb,Kなど)で行われる。そのほか,炎光分析(K),中性子照射によって生じる235Uの核分裂の飛跡の計数(U)なども用いられる。娘元素の測定はほとんど同位体希釈分析によっている。フィッショントラック法の場合は娘元素の量は238Uの自発核分裂に比例しているからやはり238Uの自発核分裂の数に比例して生じる飛跡を計数することにより,娘元素の量の測定にかえる。
放射年代測定のもとになっている放射崩壊は周囲の温度,圧力,また化学結合などに影響されないので,時計として信頼性が高い。特に地質学的・考古学的事件が現在から何年前に発生したかを直接に決定できるのはこの方法しかない。生層序,磁気層序などの年代尺度は放射年代で較正されて,初めて“ものさし”としての意味をもってくる。
執筆者:斎藤 和男
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