改訂新版 世界大百科事典 「政治的社会化」の意味・わかりやすい解説
政治的社会化 (せいじてきしゃかいか)
political socialization
政治的社会化というのは比較的新しい概念で,1950年代ころから用いられるようになった。社会学でいう社会化を政治生活に適用しようとするものである。その定義はさまざまであるが,〈現行の政治体系に受容され,実行されている規範,態度,行動の漸進的学習〉という考え方が一般的である。要約すれば,その社会における政治文化の学習,受容といってよい。この過程では,未成年期が注目される。いうまでもなく政治意識,政治態度の形成は生涯にわたって継続する。しかし,その重要な基底部分は未成年期に形成され,成年期になっても大きな意味をもつと想定されている。政治的社会化の研究は,このような政治学の伝統的テーマにつながるものであるが,その新しい側面としては,政治態度の形成を意識調査などの実証的データを用いて明らかにすること,公教育のみならず,家族,同輩集団,地域社会,マス・メディアなど,子どもに影響を与えると考えられる可能なかぎり多くの要因との関連を明らかにすること,そして,政治的社会化が政治体系に対して果たす役割を理論的に位置づけること,などが挙げられよう。
他方,政治的社会化を,単なる政治文化の受容過程とは考えないアプローチも行われている。政治的社会化によって,子どもは政治の世界における〈適切なおとな〉になるように教育されるわけであるが,日本の教科書問題をめぐる議論でも明らかなように,〈適切なおとな〉の内容が何であるかについて人々の意見が一致することはまれである。したがって,周囲に同調するだけでなく,自分自身の世界を形成していくことも,〈適切なおとな〉の一つの要件といえよう。また,世代の断絶などに象徴されるように,激動する現代社会では,政治文化が世代から世代へ平穏に伝達されにくくなってきたという事情もある。それゆえ,〈政治的社会化とは,人々が政治的指向性と行動様式とを獲得する発展的過程である〉とする立場も現れる。が,これを政治的社会化と呼べるかどうかには問題が残る。
いずれの立場をとるにせよ,青少年期において形成される政治意識,政治態度が将来どのような意味をもつかが,研究の中心課題である。政治的社会化研究が始められたアメリカでは,最初は政党支持が親から子どもにどのように伝達されるかの研究が多かったが,その後は子どもの政治家像が注目されるようになった。大統領などについてのイメージが最初に形成され,それが大統領制という政治制度に対する態度や他の政治意識形成の起点となるとの作業仮説も提出されている。日本においても,子どもの総理大臣像を中心とする意識形成過程の研究が行われている。
執筆者:岡村 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報