戦時交戦国が戦争目的実現のため敵人および敵財産に対して種々の措置をとりうるが,その対象となる人および財産の敵としての性質を敵性という。したがっていかなる人および財産が敵性を有するかの決定は重要な意味をもつ。一般的にいって,交戦国の国民とその財産が敵性を有し,中立国の国民とその財産は敵性を有しない。しかしこれには例外がある。敵性の問題は今日まで大部分未解決のままにとどまり,多くの点で普遍的に認められた規則は存在しない。人について,中立国国民も,敵対行為を行ったり,任意に交戦国の一方の軍隊に入り服務するときは,敵性をおびる(1907年〈陸戦ノ場合ニ於ケル中立国及中立人ノ権利義務ニ関スル条約〉17条)。敵国に居住する中立国国民は,交戦国にとって,敵国国民と同じ取扱いがなされる。逆に,中立国に居住する敵国民は中立国国民と大部分同一視され,英米では,第1次世界大戦まで,敵性を失うものとして扱っていた。しかし同大戦以後この実行は多くの点で放棄されてきた。法人の敵性を決定する国際法規則はないが,敵国で設立された法人が敵性を有することは一般に認められている。また敵国で設立されたものではないが,そこで業務を営む法人についても,その敵性が認められる傾向にある。船舶の敵性については,その国籍により決定される。敵国旗の下で航行する船舶は,その所有者の国籍のいかんを問わず,敵性を有する。逆に,中立国旗の下で航行する船舶は中立性を有するが,敵対行為に参加したり,臨検や捕獲権の正当な行使に抵抗するときは,敵性を有するとみなされる。しかし,2度の世界大戦での主要国の実行は必ずしもこれに従っていなかった。なお,とくに海上捕獲との関連で,貨物については,その敵性は貨物所有者の敵性に依存することが一般に認められている。しかし所有者の敵性について,住所を基準とする英米主義と国籍を基準とするフランス主義の対立が存続しており,貨物の敵性についても普遍的に認められた規則は存在しない。
執筆者:藤田 久一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
戦時において交戦国のとる措置の対象となる人および財産の、敵としての性質。敵性を有するのは、一般に敵国の国民とその財産であって、中立国の国民とその財産は敵性を有しない。ただし中立国国民も敵対行為を行ったり、敵軍に加われば敵性を帯びる。また、敵国に居住する中立国国民も敵国民と同じに取り扱われる。逆に、中立国に居住する敵国民は敵性を失うが、第一次世界大戦後この実行は放棄されてきた。敵国で設立された法人は一般に敵性を有し、そこで営業する法人も敵性が認められる傾向にある。
船舶の敵性はその国籍による。敵国旗を掲げる船舶は、所有者の国籍のいかんを問わず、敵性を有する。中立国旗を掲げる船舶も敵対行為に参加したり、臨検や捕獲権の正当な行使に抵抗すれば、敵性を有するとみなされる。海上捕獲に際して問題となる貨物の敵性は貨物所有者によるが、これには住所を基準とする英米主義と国籍を基準とするフランス主義の対立がある。
[藤田久一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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