文化社会学には三つの異なる立場があるが、それらを社会学における文化概念の三つの定義に対応させて説明しよう。(1)文化を人間の行為や生活として社会と同じ広がりをもつとする広義の定義、(2)社会を形式とし、文化を内容とする狭義の考え、(3)物質文化を文明とし、精神文化を文化とする最狭義の考え、以上の分類である。
[亀山佳明]
(1)の定義にたつのは、1920年代に心理学的社会学への批判としておこったアメリカ文化社会学であり、おもに文化人類学の文化概念に依拠していた。W・F・オグバーン、ハンキンズF.H.Hankins、W・I・トマスらが担い手であった。彼らは、社会現象の諸変化は心理的要因や生物的要因によってではなく、社会の歴史的・文化的要因から説明されなくてはならないと考えた。たとえばオグバーンの社会変動論は次のようであった。彼は文化を物質的文化と非物質的文化とに大別し、文化の主要な特徴である蓄積が行われるのは物質文化であるとした。物質文化への適応の仕方を決めるのが適応文化であるが、これは非物質文化に属している。物質文化が急速に進化するのに対して、非物質文化の変化は緩慢であり、そのためこの両文化の間には不調和が生じやすくなる。オグバーンは、物質文化に対する非物質文化の遅れを文化遅滞cultural lagと名づけた。
[亀山佳明]
(2)の立場には、1920年代ドイツを中心に、M・シェラー、A・ウェーバー、K・マンハイムなどを主体としたドイツ文化社会学がある。彼らはワイマール体制の社会変動の激しい時代を背景に、従来のジンメルやウィーゼによる形式社会学に異を唱えた。形式社会学は、その対象を、内容から抽象された「社会化の形式(心的相互作用)」に限定したため、歴史性や文化的内容を欠落させていた。A・ウェーバーらは、こうした形式社会学の非現実性を批判し、内容としての文化、すなわち政治、法律、経済、芸術などを社会学の対象とすることで、社会学に現実性と実践性、歴史性と総合性とを回復しようと企てた。
たとえばシェラーは、社会学を実在社会学と文化社会学とに分け、実在社会学は人間の三つの本能(性、力、食)に対応した種族、権力、経済という社会の下部構造をその対象とするのに対して、文化社会学は理念を目ざす精神によって創造される宗教、哲学、科学、芸術という上部構造を対象とすべきだと考えた。彼は、上部構造は下部構造によりその動きを左右されはしても、その内容までをも決定されることはないとした。また、A・ウェーバーは、社会的・歴史的現実を、社会過程、文明過程、文化過程の三つから構成されるとし、それぞれが独自性をもつとともに、これら三者が動的、静的に相互に連関しあっていると述べた。先のシェラーの用語から明らかなように、ドイツ文化社会学は他方で、当時ドイツで隆盛となりつつあったマルクス主義への関心を強くもち、それとの対決の姿勢をも有していた。この点をもっとも顕著に示しているのがマンハイムの知識社会学であった。
[亀山佳明]
(3)の立場は、社会の観念的な上部構造をなしている諸現象を研究対象とする知識社会学、宗教社会学、芸術社会学、音楽社会学、文学社会学などの特殊社会学を総称するときに使用される。
通常、文化社会学といわれるのは(2)のドイツ文化社会学をさす場合である。
[亀山佳明]
『D・マーチンデール著、新睦人他訳『現代社会学の系譜』(1974・未来社)』▽『W・オグバーン著、雨宮庸蔵他訳『社会変化論』(1944・育英書院)』▽『飯島宗享他訳『社会学および世界観学論集』上下(『シェーラー著作集9・10』1977、78・白水社)』▽『A. WeberIdeen zur Staats und Kultursoziologie (1927, Junker und Dünnhaupt,Karlsruhe)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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