明治維新から今日まで,被差別部落の出身者に対して用いられてきた差別呼称。維新政府は1871年(明治4)8月28日の太政官布告(〈賤民解放令〉)により,封建的身分制度の最下層に位置づけられていた従来の〈えた・非人〉身分を廃止し,〈身分職業共平民同様〉とした。しかし,〈四民平等〉の原則に反して,〈旧民新民たかひニ相凌き〉(広島県通達,1872),〈新平民ノ入校ヲ差拒候儀〉(神奈川県示達,1877)のように,行政府がみずから〈解放令〉を裏切り,〈新民〉〈新平民〉などの呼称を用いて旧賤民身分の人々を差別扱いした。江戸時代に賤民身分が〈平人(人間)〉扱いされなかったこと,また1869年に士・農工商身分が士族,平民の族称に改められ,〈解放令〉がその2年後に出されたことなどから〈新〉とされたと考えられる。一方,維新政府の施策に不満をもつ民衆は,〈解放令〉にも反対を唱えて〈平民同様〉になった被差別部落の人々に相変わらず強い差別を加えた。72年に廃された卒族のうちから平民に編入されたものに対しては〈新平民〉の呼称が用いられなかったように,民衆の間にもこの呼称は差別用語として広まり,差別の拡大と強化に重大な役割を果たした。この蔑称に対する被差別部落民の抗議の動きは,すでに84年3月の《自由新聞》に報じられている。また〈新民〉を尊敬せよと論じた中江兆民や,〈新であることを恥じるな〉と励ました前田三遊のような人々も存在したが,長く差別用語として使われ,被差別部落の人々に深い苦痛を与えつづけた。
→被差別部落 →部落解放運動
執筆者:川村 善二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
明治維新から今日までいわゆる被差別部落の出身者に関して誤って用いられてきた差別呼称。1871年(明治4)8月28日の太政官(だじょうかん)布告(「賤民(せんみん)解放令」)により、封建的身分制度の最下層に賤民身分として位置づけられた従来の「穢多(えた)・非人」身分は廃止されて「身分職業共平民同様」となったにもかかわらず、行政府が自ら「解放令」を裏切り、はじめ「新民」、やがて「新平民」の呼称を用いて旧賤民身分の人々を差別扱いした。明治維新の改革政治に反発した民衆は、賤民身分の廃止にも反対を唱えて相変わらず差別を加えた。そのため民衆の間にも「新平民」の呼称が差別用語として広まり、その認識の誤りが正されないまま、部落の人々に深い悲しみと苦痛を与え続けた。現在もその是正が教育(学習)の重要な課題となっている。
[川村善二郎]
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