日本大百科全書(ニッポニカ) 「方砒素華」の意味・わかりやすい解説
方砒素華
ほうひそか
arsenolite
酸化鉱物の一つ。クロード石claudetite(単斜)と同質異像関係にある。実際には非晶質ガラス様物質も合成できるので、同質三像という見解も成り立つ。方砒素華を加圧しながら加熱すると280℃で単斜相に転移する。加圧しながら加熱を続けると315℃で融解する。猛毒物質。水に少量溶解する。気化しやすく、気体密度の測定では気体の分子式はAs4O6となる。計算比重3.88は高温相のクロード石の4.19よりはるかに低く、生成条件が共通の場合があるにもかかわらず、高温相のほうが大きくなる例は少ない。方安華senarmontite(化学式Sb2O3)とは同構造であるが中間物はない。自形は正八面体あるいはこれを基調とする立体。
硫化ヒ素の鉱物や金属のヒ化物の酸化分解産物として、これらを産する鉱床の酸化帯中に産する。鉱床は熱水鉱脈型のものが多い。また炭坑などで自然発火して炭層の燃焼跡に生成されていることがある。水に溶けるため、これと化合する物質がない場合には、かなり長い距離輸送されることがある。日本では、奈良県山辺(やまべ)郡山添(やまぞえ)村春日(かすが)鉱山(閉山)、同吉野郡下北山村第二大勝鉱山(閉山)、福井県大野市和佐合鉱山(閉山)などから少量の産出が確認されている。共存鉱物としては、鶏冠石(けいかんせき)、雄黄(ゆうおう)(石黄(せきおう))、自然砒、クロード石、石英、重晶石、方解石など。同定は形態、非常に低い硬度による。劈開(へきかい)はあるが毒性が強いので試さないほうが無難である。命名は成分に由来する。
[加藤 昭 2018年10月19日]