日本大百科全書(ニッポニカ) 「方輝銅鉱」の意味・わかりやすい解説
方輝銅鉱
ほうきどうこう
digenite
銅(Cu)の硫化物であるが、Cu1+(一価銅)とCu2+(二価銅)の両方を含む。化学式はCu9S5。ごく少量の鉄(Fe)は必須成分である。Cu2+の必須成分としての存在を明確にするため、Cu1+8(Cu2+,Fe2+)S5という式が用いられたこともあった。合成実験では二価の金属元素でFe2+(二価鉄)と同等の働きをするものであれば、同構造のものが作成される。Fe2+のかわりにNi2+(二価ニッケル)を入れたものが合成されている。自形は擬等軸の菱面体(りょうめんたい)のものが報告されているが非常にまれである。約75℃で等軸晶系の高温相に転移する。そのため反射顕微鏡用の研磨片の作成では、摩擦熱で容易に転移が起こり、真の組織が観察されないこともある。
各種銅鉱床に産し、初生のものも二次的生成のものもある。日本では愛知県新城(しんしろ)市中宇利(なかうり)鉱山(閉山)の正マグマ性磁鉄鉱鉱床の一部に産する。また静岡県下田市河津(かわづ)鉱山(閉山)の浅熱水性金・銀・銅鉱床では、輝銅鉱を主とする塊状の高品位銅鉱石中の一成分をなす。共存鉱物は輝銅鉱、デュルレ鉱、斑銅鉱(はんどうこう)、黄銅鉱、黄鉄鉱、石英など。同定は輝銅鉱よりもさらに青味がかった黒色であることによる。輝銅鉱やデュルレ鉱よりは明らかに粉末になりやすいが、混入物があると、この違いはかならずしも明らかでない。英名はギリシア語のdi(二つの)とgen(性)を合成した語で、前述したようにこの鉱物がCu1+とCu2+の両方を含む原子価状態であることから、命名された。
[加藤 昭 2018年10月19日]