2008年(平成20)10月に、株式会社日本政策金融公庫法に基づいて、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫および国際協力銀行(国際金融等業務)を統合することによって設立された特殊会社。略称は「日本公庫」。政府系金融機関の統合は、2005年に出された「政策金融改革の基本方針」に基づき、2006年の「政策金融改革に係る制度設計」に沿って進められたものである。ただし、国際協力銀行は2012年4月に日本政策金融公庫から分離して発足した株式会社国際協力銀行に承継された。
日本公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完しつつ、国民一般、中小企業者、農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱や大規模な災害等の被害に対処するために必要な金融を行うなど、国民生活の向上に寄与することを目的としている。
政策金融機関として、小規模事業者へのサポート、創業企業・事業再生などの支援、教育ローンによる支援など国民一般向け業務を行う「国民生活事業」、中小企業・小規模事業者の成長・発展を支援するための融資業務や信用保険業務など中小企業者向け業務を行う「中小企業事業」、農林漁業や食品産業への融資や経営支援など農林水産業者向け業務を行う「農林水産事業」および、「危機対応円滑化業務」の機能を担っている。
このように「国民生活事業」「中小企業事業」「農林水産事業」を一つの主体で行うことによって、「地域経済の活性化支援」「顧客の成長支援」「中小企業のグローバル化支援」などのシナジー(相乗)効果を見込めると考えられている。そして、そこに「危機対応円滑化業務」として「主務大臣が認定する内外の金融秩序の混乱、大規模災害等の危機発生時において、指定金融機関に対し、一定の信用供与を行う業務」が加わることにより、緊急時(たとえば、世界的な金融危機など)においてもっとも脆弱(ぜいじゃく)な主体である国民一般、中小企業者、第一次産業従事者などへの金融的な補完が可能になることから、このような統合が是認されることになる。しかし他方で、本来は業務内容が大きく異なっていた主体(国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫)であり、それが単に「統合したから」といって、有機的な行動がとれるとは限らない。そのようななかにあって、本当の意味で「シナジー効果」が生まれるか否かは、これからの経営にかかっているといえよう。
なお、日本公庫は「株式会社」ではあるが、「政策上必要な業務を国が責任をもって実施する」などの観点から、株式は常時全額を政府が保有することになっている。2020年(令和2)6月時点で、資本金は5兆3226億円、従業員は7364人(令和1年度予算定員)。2019年3月末の融資残高は、国民生活事業(旧、国民生活金融公庫)が7兆1513億円、農林水産事業(旧、農林漁業金融公庫)が3兆1229億円、中小企業事業(旧、中小企業金融公庫)の融資業務が5兆3269億円、危機対応円滑化業務が1兆8153億円。本店所在地は東京都千代田区大手町。
[前田拓生・編集部 2020年10月16日]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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