室町時代の画家の名とされるが,諸説があり不明な点が多い。現行の説で有力なものは,(1)蛇足軒は大徳寺真珠庵客殿の《山水花鳥図襖》あるいは群馬県立近代美術館蔵の《山水図》などを描いた夫泉宗丈(ふうせんそうじよう)(曾我派第2代,別号赤蠅)の軒号であり,確かに存在した名前である,(2)蛇足は江戸時代以降の文献にのみ見られる名前であり,真珠庵創建当時の画人の名としては確認できないので,後世混入の訛伝にほかならない,の2説がある。さらに最近は,(3)蛇足は墨渓以後の曾我派が代々用いた軒号であり,確かに存在した名前ではあるが一人の人物に確定することはできない,とする説も出されている。以上の事情にかかわらず,真珠庵の襖を描いた画家は厳然として存在するので,ここではこれを夫泉宗丈とし,その通称として〈蛇足〉を採る。宗丈は墨渓の子。父同様に一休に参禅し,その禅風の影響を強くうけた。墨渓や一休の高弟である墨斎らとともに,一休の肖像制作やその関係の画事,障屛画の制作等にたずさわったが,特に真珠庵創建に際し,その襖絵を描いて曾我派の画風をきわめた。その後も真珠庵に出入りした形跡があり,一時期は真珠庵に住んだと推定される。余白を生かし枯淡で蕭条とした画境は一休禅の影響もあるが,曾我派が周文流の山水画から受け継いだ中世的な余白の精神を自ら深めていった成果であり,日本の水墨画史の上でも特筆に値しよう。宗丈の作品は上記のほかに《苦行釈迦図》《潑墨山水図屛風》(ともに真珠庵)などがある。
執筆者:中島 純司
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(山下裕二)
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