杵屋六左衛門(読み)きねやろくざえもん

精選版 日本国語大辞典 「杵屋六左衛門」の意味・読み・例文・類語

きねや‐ろくざえもん【杵屋六左衛門】

邦楽家。長唄三味線方。杵屋宗家。
[一] 別家九世。三世田中伝左衛門の二男。八世六左衛門の養子となり、別家をおこす。代表作に「越後獅子」「小原女」など。文政二年(一八一九)没。
[二] 別家一〇世。別家九世の二男。本家一〇世の死後、その名目を預かり、本家、別家の区別は解消した。長唄中興の祖。代表作に「石橋(しゃっきょう)」「供奴(ともやっこ)」など。寛政一二~安政五年(一八〇〇‐五八

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デジタル大辞泉 「杵屋六左衛門」の意味・読み・例文・類語

きねや‐ろくざえもん〔‐ロクザヱモン〕【杵屋六左衛門】

長唄三味線方・唄方。杵屋宗家。
(別家9世)[?~1819]三味線方。8世宗家喜三郎の養子で、別家を興す。「小原女」「越後獅子」などを作曲
(別家10世)[1800~1858]三味線方。長唄中興の祖といわれる。「供奴」「喜撰」「賤機帯」などを作曲。本家10世喜三郎の死後本家・別家を一本化した。
(14世)[1900~1981]三味線方から唄方に転向。作曲も巧みで、映画「楢山節考」の音楽などを作曲。

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改訂新版 世界大百科事典 「杵屋六左衛門」の意味・わかりやすい解説

杵屋六左衛門 (きねやろくざえもん)

長唄三味線方,唄方。長唄の宗家といわれる。現在まで15代を数えるが,これは六左衛門のみの代数ではなく,杵屋の始祖といわれる初代勘五郎以後の杵屋勘五郎杵屋喜三郎の名義をも含めた家督相続者の代数である。六左衛門名義としては,2代,4代,および9代以後15代までの9名を数えるが,2代,4代については疑わしい点も多く,また宗家としての6代喜三郎までについても,不明な点が多々ある。なお,《杵屋系譜》には6代,7代喜三郎がそれぞれ六左衛門を襲名したと記されているが疑問である。(1)2代(1596?-1667・慶長1?-寛文7) 初代杵屋勘五郎の実子といわれ,六左衛門名義の初世に当たる。猿若狂言の脇師をつとめたといわれ,小歌も巧みであったという。(2)4代(?-1713(正徳3)) 3代勘五郎の実子,前名喜三郎。1684年(貞享1),江戸の中村座における初めての寿狂言に父,弟とともに出演する。また桐長桐(きりちようきり)座の脇狂言〈都踊〉を作曲したという。大薩摩節の三味線も弾いたといわれているが,病身のため弟に喜三郎の名前をゆずるとともに宗家の家督もゆずり,六左衛門と改名したというが確証はない。(3)9代(?-1819(文政2)) 3世田中伝左衛門の次男。幼名万吉。8代喜三郎の養子となり別家をたてる。2世三郎助から3世六三郎となり,1797年(寛政9),六左衛門名義を復活襲名する。作曲に巧みで,《浜松風(はままつかぜ)》《冬の山姥(ふゆのやまんば)》《小原女(おはらめ)》《越後獅子》などを作曲。(4)10代(1800-58・寛政12-安政5) 9代六左衛門の次男。吉之丞から4世三郎助となり,1830年(天保1)六左衛門を襲名する。作曲は父にまさる名人で,《供奴》《賤機帯(しずはたおび)》《石橋(しやつきよう)》《秋色種(あきのいろくさ)》《鶴亀》《翁千歳三番叟(おきなせんざいさんばそう)》などの傑作を作曲する。1826年(文政9),中村八兵衛から大薩摩節の家元権をあずかり,大薩摩筑前大掾藤原一寿と号す。58年(安政5)8月コレラにより急死したという。(5)11代(1815-77・文化12-明治10) 一説に1823年(文政6)生れ。10代六左衛門の妻女の兄の子。初名栄蔵,前名5世三郎助。61年(文久1)六左衛門を襲名する。68年(明治1)に義弟喜三郎に六左衛門名義をゆずり,3世勘五郎(その住居から〈根岸の勘五郎〉とよばれる)となる。大薩摩節の家元権を正式にゆずりうけ,大薩摩絃太夫藤原直光浄空と号した。別号,稀音家照海。9代,10代におとらぬ作曲の名人で,《紀州道成寺》《四季の山姥》《橋弁慶》《綱館(つなやかた)》《望月》などを作曲。また《大薩摩杵屋系譜》《御屋舗番組控(おやしきばんぐみひかえ)》《大薩摩四十八手図》などの貴重な記録を残している。(6)12代(1839-1912・天保10-大正1) 芳村孝三郎の実子。10代六左衛門の第2養子となる。前名喜三郎。1868年(明治1)六左衛門を襲名。作曲よりも演奏方面で活躍する。89年,東京歌舞伎座開場とともに,その囃子頭となり,植木店派(うえきだなは)(六左衛門家)の全盛期を迎える。94年,勘兵衛と改める。《新松竹梅》《四季の詠》など作曲。(7)13代(1870-1940・明治3-昭和15) 12代の長男。前名喜三郎。1894年,六左衛門を襲名する。1916年寒玉(かんぎよく)と改める。作曲よりもむしろ演奏の名手であり,弟の5世勘五郎とともに歌舞伎長唄発展のために尽力し,植木店派の全盛期を確立する。《春雨傘はるさめがさ)》《楠公》《五条橋》などを作曲。《新曲浦島》は弟勘五郎との合作といわれる。(8)14代(1900-81・明治33-昭和56) 13代の実子。前名喜三郎。六左衛門家は代々三味線奏者としての芸統であったが,14代は唄方,作曲家として活躍する。1916年,六左衛門を襲名。29年から4世吉住小三郎に師事。帝国劇場邦楽部長,長唄協会会長,東京音楽学校(現,東京芸術大学)教授などの要職を歴任するとともに,演奏会でも活躍する。《能阿(のあ)》《母を恋ふるの記》《楢山節考(ならやまぶしこう)》《新平家物語・壇の浦》など多数の作曲がある。日本芸術院会員,重要無形文化財保持者(人間国宝)。(9)15代(1930(昭和5)- ) 14代の次女。前名六左。14代没後,1981年12月,六左衛門を襲名。
杵屋勘五郎
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「杵屋六左衛門」の意味・わかりやすい解説

杵屋六左衛門
きねやろくざえもん

長唄(ながうた)三味線方、唄方(うたかた)。現在まで15代を数えるが、それは勘五郎、喜三郎を含めた杵屋宗家の代数であり、3世杵屋勘五郎編の『杵屋系譜』によれば、2代、4代、6代、7代、そして9代目以降が六左衛門を名のっているが、7代目までは確証に乏しく、不明な点が多い。

[渡辺尚子]

9代

(?―1819)3世田中伝左衛門の次男。宗家8代喜三郎の養子。前名3世六三郎。1797年(寛政9)六左衛門名義を復活襲名。『越後獅子(えちごじし)』『小原女(おはらめ)』などを作曲。その住所から「植木店(うえきだな)」とよばれ、以後、六左衛門家は植木店派とよばれることとなる。

[渡辺尚子]

10代

(1800―58)9代の実子。前名4世三郎助。1830年(天保1)六左衛門を襲名。4世六三郎とともに長唄中興の祖といわれる。『供奴(ともやっこ)』『石橋(しゃっきょう)』『賤機帯(しずはたおび)』『秋色種(あきのいろくさ)』『鶴亀(つるかめ)』『翁千歳三番叟(おきなせんざいさんばそう)』などを作曲。

[渡辺尚子]

11代

(1815ころ―77)10代の甥(おい)。前名5世三郎助。1861年(文久1)11代を襲名。後の3世杵屋勘五郎(同項目参照)。

[渡辺尚子]

12代

(1839―1912)芳村(よしむら)孝三郎の実子。10代の養子。前名喜三郎。1868年(明治1)12代を襲名。おもに演奏方面で活躍。

[渡辺尚子]

13代

(1870―1940)12代の実子。前名喜三郎。1894年(明治27)13世を襲名。のち寒玉(かんぎょく)と称す。弟の5世勘五郎とともに歌舞伎(かぶき)長唄の育成に力を入れる。『楠公(なんこう)』『五条橋』などを作曲。

[渡辺尚子]

14代

(1900―81)13代の実子。本名杵家安彦。前名喜三郎。1916年(大正5)14世を襲名。三味線方としての家系ながら唄方に転向。4世吉住(よしずみ)小三郎(慈恭(じきょう))に師事し、伝統的な長唄の伝承とともに新しい長唄の発展にも力を注いだ。『母を恋ふるの記』『楢山節考(ならやまぶしこう)』などを作曲。日本芸術院会員。重要無形文化財保持者。昭和56年8月23日没。没後、次女の六左(1930― )が15代六左衛門を継ぐ。

[渡辺尚子]

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百科事典マイペディア 「杵屋六左衛門」の意味・わかりやすい解説

杵屋六左衛門【きねやろくざえもん】

長唄演奏家,杵屋宗家の芸名。長く三味線方であったが,14世から唄方に転向。杵屋姓の中でも最高の名で,名人も多い。現在は15世,9世〔?-1819〕は《越後獅子》を,4世杵屋六三郎ともに長唄中興の祖といわれた10世〔1800-1858〕は《石橋(しゃっきょう)》《鶴亀》《秋色種(あきのいろくさ)》を,後の根岸の勘五郎こと11世〔1815-1877〕(一説に〔1823-1877〕)は《四季の山姥》を作曲。11世は,3世杵屋正次郎,2世杵屋勝三郎とともに作曲の三傑と称された。14世〔1900-1981〕は13世の実子。1966年日本芸術院会員,1974年人間国宝。
→関連項目茨木賤機帯新曲浦島土蜘/土蜘蛛(演劇)山姥

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