(1)長唄の曲名。杵屋(きねや)六翁(4世杵屋六三郎)作曲。六翁の末娘せいが杵屋六を襲名したときの記念の祝賀曲。作詞者は不明であるが,加藤千蔭の和歌〈今年より千たびむかふる春ごとになほも深めに松のみどりか〉を引用し,これを廓気分におきかえて優雅に綴っている。みどりは禿(かむろ)の名によくあるので,娘をこれに見立て,禿の初々(ういうい)しさを述べ,将来は松の位の太夫になるべき風格を備えていると歌って,娘の前途を祝福している。本調子。松風の風韻をきかせた前弾に始まり,薗八節の味をとり入れた巧みな節づけで,短いながら歌の面白味が十分に発揮できる独吟ものの代表曲。素踊曲としてもよく用いられる。なお,この作品は安政年間(1854-60)の作とされているが,六翁は1855年11月に没しているので,没の1~2年前に作られたことになる。(2)うた沢の曲名。《松寿千年》ともいう。本調子。仮名垣魯文作詞。哥沢(うたざわ)土佐太夫の作曲で,芝派に限る祝儀曲。
執筆者:浅川 玉兎
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長唄(ながうた)の曲名。4世杵屋(きねや)六三郎(後の六翁(ろくおう))作曲。安政(あんせい)期(1854~60)の作品といわれ、六翁の娘の名披露目(なぴろめ)の会に唄われた。娘を松の若葉の初々しさに例え、将来は禿(かむろ)から太夫(たゆう)になるべき風格を備えるようにと詠み、娘の前途を祝した内容。全体に短い作品のため、長唄の入門曲とされ、下座(げざ)の稽古(けいこ)唄などにもよく使われるが、唄と三味線の兼ね合いがむずかしく、具体的な旋律進行も少なく、声の音域も高いので、曲の趣(おもむき)を表現するには熟練を必要とする。なおうた沢の御祝儀曲にも、仮名垣魯文(かながきろぶん)作詞、哥沢(うたざわ)土佐太夫作曲の同名曲がある。
[茂手木潔子]
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