松囃子(読み)まつばやし

  • 松×囃子/松拍=子

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

室町時代以降盛んに行われた初春祝儀。「松拍」「松奏」などとも書く。村人町衆侍衆などがそれぞれ集団をつくり,諸邸に参入して行なった風流 (ふりゅう) を伴う祝賀の歌舞で,将軍邸には唱門師が訪れた。のちにはこれらを観世太夫に代えて行わせ,松囃子のあとに能を演じる習慣となった。さらにこれが年中行事化して1月 14日に行われるのが恒例になっていたが,応仁の乱頃から衰亡し,江戸時代に入ると謡初めを松囃子とも称するようになった。民俗芸能として現存するもののうち,風流の松囃子は福岡県博多に,能を行う松囃子は熊本県菊池市隈府や熊本市内の藤崎宮と北岡神社などで行われている。また長野市の善光寺や,長野県や三重県の一部では,正月の門松を山に取りに行って門口に迎え入れることを松囃子と称している。

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デジタル大辞泉の解説

室町時代に盛行した初春の祝福芸。唱門師(しょうもんじ)などの専業芸人のほか、村人・町人・侍などが、幕府や諸邸を回って種々の芸能を演じ、祝い言を述べたもの。現在も民俗芸能として九州に残る。
江戸時代、正月2日(のち3日)の夜、幕府で諸侯を殿中に召して行った謡初(うたいぞ)めの儀式。町家もこれに倣った。 新年》「音曲や声のはつはな―/重頼

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世界大百科事典 第2版の解説

中世に行われた芸能。室町時代年頭に禁裏や室町御所など上層者のもとに声聞師(しようもじ)や地下(じげ)の村人などが推参して演じた祝儀の囃し物で,松囃,松拍(子)とも書かれる。演者は声聞師や地下の村人のほかに廷臣,大名家の若党(あるいは大名自身),町女房,そして観世大夫と広範多岐にわたり,松囃子が演ぜられる場としては禁裏,御所のほかに,貴族や大名の邸宅などがあった。その芸態は羯鼓(かつこ),大鼓,鉦(かね),等を用いたこと以外はよくわかっていない。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

正月の祝言に行われた芸能。下位者が上位者の家に参って行うもので、遅くとも室町時代中期に始まり江戸時代まで行われたが、今日では狂言(和泉(いずみ)流)の演目に残るほか、民俗芸能や年中行事に痕跡(こんせき)をとどめているにすぎない。松囃子はもと年の暮れに年神を迎えるための松を伐(き)ってくる松迎えに起源するものらしく、魂の分割、増殖、鎮魂を意味する「はやし」の語が用いられたようだが、歌舞音曲用語の「囃子」に転用され、松拍、松奏とも書かれた。室町時代のものは風流(ふりゅう)的色彩の濃いもので、宮中、幕府、上流諸家に参って行われた。公卿(くぎょう)や大名が演じた例もあるが、多くは地下(じげ)(領民)の松囃子、殿原(とのばら)(公卿侍)の松囃子、郎党(武家)の松囃子、町女房の松囃子、声聞師(しょうもんじ)(神人(じにん))の松囃子などで、それぞれに飾り、仮装、舞踊、能、舞々(まいまい)などを競った。江戸時代は正月3日の将軍家で行われる能楽各流による演能の儀を松囃子と称した。今日の民間行事として、日取りこそ正月でなくなったが、風流系の松囃子の博多(はかた)どんたく(5月3~4日、福岡市)と、能楽系の松囃子の菊池神社御松囃子能(10月13日、熊本県菊池市)などがある。左義長(さぎちょう)を松囃子とよぶ例もあるが(新潟県佐渡(さど)市)、宮中でも左義長のおりに松囃子が催されたことがあった。

[西角井正大]


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世界大百科事典内の松囃子の言及

【祝福芸】より

…古代には〈ほかいびと〉(ほかい)と呼ばれ,家々の門(かど)に立って祝言を述べ,その代償として物を乞う存在があった。中世になると千秋万歳(せんずまんざい),物吉(ものよし),松囃子などといった祝言職が現れ,年の初めに禁中や諸寺,諸家に伺候して祝福の芸を演じ,また村々をめぐり歩いた。江戸時代になると祝言職の種類がさらに増え,万歳節季候(せきぞろ),うばら,つるそめ,えびす舞,大黒舞太神楽春駒鳥追などと多種多様になり,年末から年始にかけて諸国をめぐり歩き,訪問先で祝福芸を演じて生活の糧を得た。…

【どんたく】より

…例年5月3,4日に行われる〈博多どんたく祭り〉で,オランダ語のZontag(休息日)から出たとも,〈松どのや松どのや〉と囃したことからつけられたともいう。古くは1月15日に行われ,松囃子と称した。室町時代の松囃子を習い伝えたものといわれ,今も豪華な傘鉾(かさぼこ)とともに伝統の福神,恵比須,大黒,稚児に扮した仮装風流(ふりゆう)の練りが祭りの中心となっている。…

※「松囃子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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