日本大百科全書(ニッポニカ)「林業基本法」の解説
林業基本法
りんぎょうきほんほう
日本の林業に関する政策の目標とそれを達成するための基本的な施策を示すために1964年(昭和39)7月に公布された法律(昭和39年法律第161号)。
日本の林業政策は、旧来、1897年(明治30)成立の森林法体系のもとで、森林の維持、培養を中心とした森林資源管理政策として展開されてきたが、本法が成立し、初めて産業としての林業が政策目標として目ざされることになった。本法は林業総生産の増大、林業の生産性の向上、林業従事者の所得の増大を政策目標とした(2条)。しかし、本法が成立したときには、すでに外材の大量導入が開始され、1969年には用材需要量の過半を外材が占めることになった。本法が目標とした林業の総生産の増大も、林業従事者の所得の向上も達成されるどころか、国内林業生産の著しい後退、木材自給率の急激な低下、林業従事者の著減と高齢化がもたらされることとなった。
本法の中心的な施策である林業構造改善事業は、1965年度より講じられたが、事業費の大部分は林道開設と森林組合の育成強化(資本装備の高度化事業など)にあてられ、森林組合員(森林所有者)から組合への施業の委託促進、すなわち、組合員の単なる林地所有者への後退と林業生産の担い手の森林組合への一元化が一貫して追求されてきた。
林業基本法は、「森林資源に関する基本計画及び重要な林産物の需給に関する長期の見通し」を樹立し、公表することを政府に義務づけた(10条)。これに基づき第1回目が1966年(昭和41)に策定されたが、国内林業の後退と木材自給率の著しい低下によって目標と実態とに大幅な乖離(かいり)が生じ、1973年、1980年、1987年、1996年(平成8)と4回の改定を余儀なくされた。また、本法は、「林業の動向に関する年次報告」(林業白書)の公表も義務づけた(9条)。白書は、林業の動向、当年度に講じた施策、翌年度に講じようとする施策からなっており、政府文書としての分析の限界はあるものの、林業の現状や施策の動向をつかむうえで重要な資料となった。
1990年代に入って、産業としての林業政策の破綻(はたん)と内外での環境重視の趨勢(すうせい)のなかで、森林の経済的機能重視から公益的機能重視への政策転換が図られ、林業基本法は2001年に森林・林業基本法に改正された。
[野口俊邦]