根岸英一(読み)ねぎしえいいち

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

根岸英一
ねぎしえいいち

[生]1935.7.14. 満州,新京
日本の有機合成化学者。神奈川県立湘南高等学校を経て,1958年東京大学工学部を卒業,帝人に入社。1963年アメリカ合衆国のペンシルバニア大学で博士号を取得後,1966年にパーデュー大学のハーバート・ブラウン教授のもとで博士研究員となり,有機ホウ素化学を学ぶ。同大学助手,シラキュース大学准教授などを経て 1979年にパーデュー大学教授,1999年からパーデュー大学ハーバート・ブラウン特別教授を務める。有機遷移金属化合物を触媒として用いる炭素‐炭素結合生成反応を研究するうち,シラキュース大学赴任後,京都大学の熊田誠,玉尾皓平らのニッケル触媒を使ったクロスカップリング反応の発見に刺激され,1977年に有機亜鉛(あるいはアルミニウム,ジルコン)化合物とパラジウム触媒を用いて 2種の有機化合物を炭素‐炭素結合で生成させ,より複雑な有機分子をつくる,いわゆる根岸クロスカップリング反応の生成に成功した。これらは穏やかな条件で反応するうえ選択性も高く,応用性を広げた。これを用いた多くの医薬品や有用物質の合成も実用化されている。その他,ジルコニウム化合物を触媒に用いる ZACA反応,有機ジルコニウムを含んだ根岸試薬を用いる有機合成法の発見も知られる。2010年に「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」でノーベル化学賞をリチャード・F.ヘック鈴木章とともに受賞。

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百科事典マイペディアの解説

根岸英一【ねぎしえいいち】

化学者。ノーベル化学賞受賞。旧満州国新京(現中国長春市)に生まれる。神奈川県立湘南高校から東京大学工学部応用化学科に進学,卒業後,帝人に入社。フルブライト奨学生として渡米し,ペンシルベニア大大学院に進む。63年,学位取得(理学博士)。66年,ハーバート・ブラウン博士のもとでバデュー大博士研究員。79年,バデュー大教授。79年,パラジウムもしくはニッケルを触媒とした有機合成化学のクロスカップリング反応の手法の一つである根岸カップリングを発見,国際的に高く評価される。2010年,鈴木章,リチャード・ヘックとともにノーベル賞を受賞した。バデュー大特別教授。文化功労者(2010年),文化勲章受章(2010年)。
→関連項目クロスカップリングノーベル賞

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デジタル版 日本人名大辞典+Plusの解説

根岸英一 ねぎし-えいいち

1935- 昭和後期-平成時代の有機化学者。
昭和10年7月14日満州(中国東北部)新京(現・長春)生まれ。昭和28年湘南高を卒業。33年東大を卒業し,帝人に入社。38年ペンシルベニア大で博士号取得。のち帝人を退社してパデュー大(アメリカ・インディアナ州)のハーバート・ブラウンの研究室で学び,43年同大助教授。47年シラキュース大助教授,51年同大准教授。52年有機亜鉛をつかい,より効率的なパラジウム触媒クロスカップリング(根岸カップリング)を開発した。54年パデュー大教授。平成8年日本化学会賞。11年パデュー大特別教授。22年「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」の業績で鈴木章,リチャード・ヘックとともにノーベル化学賞を受賞。同年文化功労者,文化勲章。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

根岸英一
ねぎしえいいち
(1935― )

日本の化学者。中国東北部(旧満州)に生まれる。1958年(昭和33)東京大学工学部卒業、1960年にアメリカ合衆国のペンシルベニア大学に留学、1963年に博士号を取得。その後、パデュー大学の研究員、助手を経て1979年に同大教授。1999年(平成11)から同大特別教授となった。2種の有機化合物を結びつけて新しい化合物をつくりだすカップリングの研究開発に取り組む。2010年に「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」の業績で、リチャード・ヘック、鈴木章(あきら)とともにノーベル化学賞を受賞した。
 カップリングの研究では、化学反応を仲介する触媒と、2種の化合物の材料を効率よく結びつけることがポイントになる。ノーベル賞を共同受賞したヘックは、1972年にパラジウムを触媒として使い、カップリングを効率よく進め、意図したとおりの化合物をつくりだす方法を確立した。これをきっかけに、反応の効率を高める触媒と、2種の材料が結びつくときのつなぎ替えの目印にどのような物質を使うかで新たな研究競争が始まった。根岸は、触媒にパラジウムを使い、つなぎ替えの目印にリチウムやマグネシウムを試みたが、反応が強すぎてパラジウムの働きを弱めてしまうことが判明。そこで、亜鉛化合物を使う方法で実験を重ねた結果、より効率よく安定した反応が得られた。この方法は「根岸カップリング」とよばれ、幅広い応用の道を切り開いた。また、共同受賞者の鈴木は、より安全で扱いやすい有機ホウ素化合物を使い、汎用性の高い「鈴木カップリング」を開発した。こうしたカップリング法の開発と発展は、薬剤の開発と創薬、農薬の製法などに多くの新商品をもたらしただけでなく、液晶材料の製法、有機ELディスプレーの製造などにも使われ、工業界に多大な貢献を果たした。2010年に文化功労者に選ばれ、文化勲章を受章した。[馬場錬成]

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