餅菓子の一種。道明寺(どうみょうじ)粉を蒸して漉し餡(こしあん)を包み、2枚のツバキの葉で挟んだ和菓子。つばい餅と称した。平安初期からの菓子で、『源氏物語』や『うつほ物語』にも「つばいもちひ」とみえる。また当時の殿上人(てんじょうびと)は蹴鞠(けまり)の節会(せちえ)などに椿餅を供した。江戸中期の『類聚名物考(るいじゅうめいぶつこう)』に「鞠の庭に奉る椿餅の事、一旧記にいふ。干飯(ほしいひ)を粉にして丁子(ちょうじ)を粉にして、少し加えて甘葛(あまずら)にて固めて、椿の葉二枚を合せて包みて、上をうすやうの紙を、ほそき壱分(いちぶ)ばかりに切りたるにて、帯にして結びてたるる也(なり)」とある。餅に丁子末を加える仕法には、奈良時代の唐菓子(とうがし)の影響がうかがえる。そうした製法は江戸時代にも残され、餅にからしを少量加えたり、肉桂(にっけい)末を加えたりしたが、砂糖の出回りにつれて、小豆(あずき)の漉し餡を包んだ餅にかわっていった。道明寺粉のかわりに、上新粉(じょうしんこ)に白砂糖を加えて餅にする製法もある。季節的には桜餅とともに3月ごろのもので、古来、ツバキの照葉の緑色が愛されてきた。
[沢 史生]
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